[Deloitte Mobile Survey #1]新興国はスマホ先進国〜新興国でこそ使われるスマホ、想像に反する利用金額
2011.10.20
Updated by WirelessWire News編集部 on October 20, 2011, 10:00 am JST
2011.10.20
Updated by WirelessWire News編集部 on October 20, 2011, 10:00 am JST
スマートフォンの登場、モバイルネットワークの高速化を受け、先進国にとどまらず、全世界的に携帯電話の利用動向が大きく変わろうとしている。特に、新興国を中心に、人口増、経済成長が起きる中で、携帯電話ユーザの利用動向も急速に変化をしようとしている。こうしたトレンドの中、デロイトトーマツコンサルティングでは、各国のデロイトのメンバーファームと共同で、今回、欧米・アジア・アフリカ・南米を含む15ヶ国での利用動向の比較という他に類例のない調査を行った。
携帯電話端末メーカ、サービス/コンテンツプロバイダ、モバイルキャリアが海外進出を再び実施し始めている現状に対して、今回の調査結果が、日本の通信関連業界に何らかの示唆になれば幸いである。なお、調査の前提としてインターネット調査であるため、ITリテラシーが高く、所得層も各国の中でも比較的高めの層が回答しているということを前置きしておきたい。調査概要、および回答者の属性の概要は、以下の通りである。なお、対象国、調査実施方法などについての詳細については本稿末尾に掲載している。
調査概要
回答者概要
読者の中で、スマートフォンの世界規模での普及を疑う者はいないだろう。しかし、実際の各国での普及状況となると、なかなか具体的なイメージがないのではないか。また、単純な出荷/販売台数や契約者数などにより、全体で平準化されたデータだけを見たことのある読者も多いのではないか。
15ヶ国で、最もよく利用する携帯電話の種類を調査したところ、中国、南アフリカの回答者の50%以上がスマートフォンと回答する結果となり、他の国を引き離した(図1参照、中国61%、南アフリカ54%)。これは今回の調査が、必ずしも全体を代表するデータではないため、一定以上の階層においては、急速に普及が進みつつあることを示している。一方で、この数値の裏には、先進国で販売されているような高価格スマートフォン以外にも、急速な広がりを見せる低価格スマートフォンの存在があるのかもしれない。
▼図1:最もよく利用する携帯電話
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次に、同じ層が、月にどの程度の携帯電話料金を支払っているのかを比較した。月に100USD以上支払っている利用者の割合が、米国、日本を除くと、インド、南アフリカの回答者が突出していることが分かった。日本は携帯電話先進国としての面目躍如(?)といったところだが、その2ヶ国と同等以上の月額料金を支払う利用者の割合の高さ(インド33%、南アフリカ18%)には驚かされる。日本で音声ARPUとデータARPUが逆転傾向にあることを考えると、この2ヶ国(インド、南アフリカ)においても、比較的所得の高い層においては、既に音声ARPUとデータARPUが逆転し、高度なモバイルインターネット利用をしていると想像してもあながち外れてはいないのではないだろうか。一握りの層とは言え、元々の人口の多さ、増加状況を加味すると市場の魅力の一端がうかがえるといえるだろう。
▼図2:月額料金比較
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次に使い方を見るべく、仕事とプライベートでの使い分け、そして日本ではあまり考えられないかもしれないが、携帯電話を借りる相手についての比較を行った。いわゆる新興国と呼ばれる中国、南アフリカ、インド、ブラジルの各国においては、仕事もプライベートも一つの携帯電話で兼用して使う傾向にあることが分かった(図3)。また、借りる相手という観点では南アフリカにおいては家族の間での貸し借りが突出して多いことが分かった(図4)。
一つの考え方にはなるが、先進国と新興国の事業者の規模を比較すると、業種による偏りはあると思われるが、新興国の方が小規模事業者の割合が多いのではないか。とすると、やや偏った見方であるかもしれないが、今回、仕事とプライベートで兼用して使う傾向が高い国々(中国、南アフリカ、インド、ブラジル)はいわゆる新興国に分類されることから、そうした個人事業主に近い層が仕事とプライベートを兼用して使う姿などが考えられるのかもしれない。
また、家族から借りて使う傾向が顕著な南アフリカであるが、やや古いデータではあるものの、2009年段階の携帯電話の普及率を見ると、92.7%(総務省 世界通信事情)と高いことが分かる。こうした状況下で、自分以外の携帯電話を借りるという状況はにわかに想像がしがたいが、家族間での心理的な敷居の低さが国民性としてあるのかもしれない。そうなのであれば、ひょっとするとアドレス帳の家族共有など、これまでになかった新しい携帯文化やサービスの余地があるとも考えられる。こうした他国とは明らかに異なる傾向、国による使い方の違いに着目した利用者への訴求の仕方が、これらの国々/市場を開拓する上では、重要となる。
▼図3:携帯電話の使い分け(仕事、プライベート、両方)
▼図4:携帯電話を借りる相手
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全体感としてはやや偏った結果となり恐縮であるが、モバイルインターネットという点においても、南アフリカ、中国の2ヶ国での利用が他国と比較して顕著なことは、特筆できる(アフリカ54%、中国51%)。
モバイルインターネットの利用状況の詳細については、別途、回を改めて紹介、考察を行う予定であるが、今後、こうした国々の成長に伴い、モバイルインターネットを基点としたモバイルEC、モバイル広告などの上位レイヤーでのマーケットが急拡大しても不思議ではない。
▼図5:モバイルインターネット利用率
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最後に、月額料金と新しいテクノロジーの利用意向をクロスで集計した結果を紹介したい(図6)。(1)高い月額料金と高い利用意向を示す国、(2)低い月額料金と高い利用意向を示す国、(3)高い月額料金と低い利用意向を示す国、というように分けてみることができる。
1のグループには、インド、韓国、南アフリカが属しており、市場としての高い魅力/可能性を示している。2のグループには、中国、ブラジルが属しており、経済成長に伴う将来の市場としての高い可能性を示している。3のグループにおいては、日本、ノルウェイが属しており、月額料金は高いながら新製品の利用意向は低いといういかにも成熟市場の様相を示している。
これだけのデータで確たることは言えないものの、縦軸の新しいテクノロジーの利用意向を新しい製品、機能、サービスの受け入れられやすさと読み替え、横軸の月額料金を単価と読み替えると、各国の見え方も変わってくるのではないだろうか。1のグループの国々ではそれなりの単価で新しいものを投入する余地があり、2のグループでは新しいものを投入する余地はあるものの単価は低めに抑える必要があり、3のグループでは単価は見込めるものの息の長く使われるような製品、機能、サービスを投入する必要があるのかもしれない。
▼図6:月額携帯電話料金と新しいテクノロジーの利用意向
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特筆すべきは、インド、中国、南アフリカといった新興国の回答者が、日本、韓国といったモバイル先進国、および欧米先進国と比較し、同等以上に積極的に携帯電話を利用する姿の一端が示された点にある。スマートフォンの利用が多く、利用金額も多く、またモバイルインターネットの利用が多く、更には新しい機能を使うことに対して貪欲なのだ。これは従来、数年前に我々多くの日本人が一般的に新興国に対して抱いてきた携帯電話の利用実態とは異なるのではないだろうか。安価な携帯電話で電話かSMSを中心に利用し、中古機が多いイメージを持つのが、これまで多くの方々の一般的なイメージであったはずだ。
実態としては、上記の国々の人口と増加傾向を加味すると、ITリテラシーが高いと推察される層という前提はあるものの、前述のように、高額の月額利用、新しいテクノロジーへの高い利用意向といった傾向を持つ利用者がいることが把握できた。これは、高機能なインターネット端末や先進的なサービスやコンテンツを創り出すこと長けている日本企業のターゲットとなりえるものと推察される。
テレコム、メディア、ハイテクのインダストリーを担当する筆者も、日々の業務でアジア各国のコンサルタントと意見交換をする機会があるが、過去1、2年でモバイル関連ビジネスの将来が、彼らの口から力強く語られることが多くなってきたと実感している。日本のモバイル市場の感覚からすると、彼らが言及する、高機能端末/スマートフォンやタブレットを駆使したモバイルインターネットサービスの将来像自体の真新しさはないものの、ことモバイルの分野において、それらの国々のコンサルタントが自国の市場の将来を語ること、語りうる状況となっていることに対する変化を強く感じる。と同時に、インド、中国といった国々のメンバーの自信、発言力が急激に上がってきており、いずれ近い将来、インドや中国に対して、日本のモバイル分野が遅れをとるようなこともあるのではないか、という感覚を覚え始めている。
次回は、ソーシャルネットワークを含む、モバイルインターネットの利用実態についての15ヶ国調査の結果を紹介したい。
○調査の目的
世界15カ国の携帯電話利用状況を国際比較に基づいて把握するとともに、今後の利用状況予測に関する情報を提供する。
○調査概要
※オンライン調査であるため、トルコ、中国、インド、ブラジル、南アフリカについては、サンプルが都市部居住の富裕層に偏っていることに留意する必要がある。その他10カ国については、代表性があるサンプルであると考えられる。
文・清水 剛志(デロイトトーマツコンサルティング株式会社)
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