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土管の品質とコンテンツの品質で差別化するための「3M戦略」

2011.10.11

Updated by Asako Itagaki on October 11, 2011, 16:30 pm JST

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10月6日、CEATEC JAPANのキーノートトラックに登壇したKDDIの高橋誠氏の講演は、「オープンインターネット時代に向けたKDDIの3M戦略」というもの。冒頭で高橋氏は、この日の午前中に米Appleのスティーブ・ジョブズ会長が亡くなったことに触れ、追悼の言葉を述べた。また、iPhone 4Sの取扱いが決まったことにも触れ、「これで、Android、Windows PhoneにiPhoneが(ラインナップに)加わることになる。このようなきっかけなので、大切に取り組んでいきたい」と述べた。

講演のテーマは大きく2つ。スマートフォン時代におけるコンテンツビジネスを中心としたビジネスモデルの変化と、KDDIの3M戦略の位置づけである。

▼KDDI 代表取締役 執行役員専務 高橋誠氏
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スマートフォン時代の最大の変化はユーザー接点の多様化

KDDIでは、2015年度末には、出荷台数の7割以上がスマートフォンになるとしており、5年後の2016年には契約者の半数以上がスマートフォンユーザーになると予測している。フィーチャーフォンからスマートフォンへと移行することで、携帯事業者、コンテンツ事業者のビジネスモデルも、オープンインターネット時代のビジネスモデルに対応しなくてはならないとして、オープンインターネットビジネスモデルを提示した。

スマートフォンの時代になって最も大きな変化は、ユーザーとの接点が全く変わったことである。従来のモデルは、ユーザーとの接点はキャリアが用意した「ポータル」、その下にある決済システムは通話料金と合算して請求する「キャリア課金」、さらにネットワークと端末(携帯電話)も自社で持つ、垂直統合モデルだったが、スマートフォンではユーザーとの接点が「アイコン」として多様化しており、それに対応したプラットフォームを用意する必要があることを示した。

また、スマートフォンになることでキャリアにとって悩みとなるのが、「端末のスペックをキャリアではコントロールできなくなることである」と述べた。従来であれば、端末メーカーに対して、ダウンロード容量やストリーミング帯域などの仕様に、キャリアからの要望を反映することで、快適な環境を提供できたが、オープンインターネット時代には仕様はメーカーが決めるようになり、トラフィックコントロールがきかなくなる。つまり、インフラ整備を徹底しなくては、スマートフォンには対応できない。「通信事業者が、すべての英知をもって、安定的につながるネットワークを提供していくことが大事な時代に突入している」と高橋氏は述べた。デバイスでの差別化ができない時代になると、ネットワーク品質と上流のサービスでの差別化、つまり土管の品質とコンテンツの差別化が重要になるという認識を示し、そのために「3M戦略」に取り組むとした。

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auスマートフォンユーザーのコンテンツ利用額はフィーチャーフォンを上回る

ここで高橋氏は、フィーチャーフォンからスマートフォンに移行することで、実際にコンテンツの売り上げがどうなったかをデータで紹介した。従来auのフィーチャーフォンのコンテンツは3000億円を売り上げており、スマートフォンになると売り上げは減るのではないかと危惧していた。「スマートフォンはオープンなパソコンと同じでインターネットの世界、インターネットならコンテンツは無料、となることを心配していた」という。

そのため、KDDIでは、スマートフォンをラインナップに加える前に、フィーチャーフォンからスマートフォンへのコンテンツ引き継ぎの仕組みをあらかじめ用意した。具体的には、フィーチャーフォンで利用していたコンテンツを、スマートフォンでも引き続き使えるようにする仕組みだ。

その結果として、高橋氏は、ナビタイムの例を挙げた。フィーチャーフォンからスマートフォンに移行したユーザーの90%以上がそのまま利用し続けているという。そうした工夫の結果、先々月の段階では1ユーザーあたりのコンテンツ利用額が、スマートフォンユーザーがフィーチャーフォンユーザーを上回りはじめた。

▼スマートフォンのコンテンツ課金額
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中でも伸びているのは、グリーやDeNAなどに代表される、SNS系のアイテム課金のコンテンツであり、KDDIでもこうした課金モデルに注目しているという。「アイテム課金というから違うイメージがあるが、SNS系の課金モデルはストックモデル。無料会員としてずっと使い続けていただけるユーザーをストックとして抱えている点が、(売り切り型の)ショット課金とは明らかに違う」と説明した。

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「つなげる」ための3M戦略

続いて高橋氏は、KDDIの3M戦略について説明した。先日の新製品発表会で田中社長が発表した「未来は選べる」という新しいコンセプトは、「我々がイメージしている3M戦略の先にある」と述べた。3つのMとは、マルチデバイス、マルチネットワーク、マルチユースのこと。スマートフォンを中心にタブレット、PC、テレビ・STBなどのさまざまなデバイスを、LTE、3G、WiMAX、光ファイバー、Wi-Fi、CATVなどを全て組み合わせたマルチネットワークで、音楽、映像、電子書籍、ゲームなどに加えて、ユーザーのコミュニケーションをもっと楽しんでもらうマルチユースを推進していく。

▼マルチネットワークの推進
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デバイスの主流がスマートフォンになることで、トラフィックが爆発的に増えており、せっかくのスマートフォンがつながらなくて使えない事態も出てきているとして、「今紹介したネットワークをフル活用して、ユーザーに安定したネットワークを提供していかなくてはいけないのが我々の思い。3Gのモバイルネットワーク、WiMAX,Wi-Fiとその向こうにある光ファイバー、CATVと全部あるのはKDDIだけであり、ユーザーに最強のネットワークを届けたい」と語った。

また、端末については、Androidに加え、Windows Phone、そしてiPhoneを加え、「選べるスマートフォン」の戦略を、「未来は選べる」の象徴にしていきたいと述べた。特に、競合するソフトバンクと2社が取り扱うことになったiPhoneについては、「『つながるスマートフォン』を、iPhoneにおいてもきっちりなしとげていく」と、闘志を見せた。

▼「iPhoneを取り扱うにあたっての、田中社長からのメッセージ」として掲示されたスライド。
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KDDIでは、マルチデバイスを推進していくための施策として、WiMAX対応スマートフォンのテザリングや、Link→auによる他メーカー端末のモバイルネットワーク接続も推進する。その先に見据えているのは、クラウドの活用だ。高橋氏は、スマートフォンで撮影した写真をPCに自動バックアップする「PhotoAir」のクラウド対応予定や、Jibeをベースにして、各種SNSの連絡先を統合してクラウドで管理する「Friends Note」、クラウドからストリーミングを利用して音楽を聞き放題の「Lismo Unlimited」などのサービスを紹介した。3M戦略で、クラウドに全てのデバイスがつながるために、「つながる」ネットワークを構築していきたいとした。

CEATEC JAPAN 2011

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。