最高のチームを作るにはどうしたらよいか。この問いに多くの企業が「優秀な人材を集めること」と答えるだろう。しかし、世界中の優秀な人材を最も多く集めているであろうと思われるであろうGoogleでさえ、優秀な人材を集めることは必要条件ではあっても、成果をあげるための十分条件にはならないという研究レポートを発表している(※1)。
分子から細胞、生物、社会と階層が上がるに従って下の階層にはない性質が上の階層で現れることを創発という。同様に社会学では、いくつかの特性を持つ個体が集まった時に単純な足し算以上の性質が現れることを創発特性と呼ぶ。ビジネスの現場で問題になる「チーム力」と呼ばれるものがまさにこれである。一人ひとりの能力を最大限に引き出し、成果をあげるチームにするノウハウには様々なものがあるが、その中でもチームを束ねる「優秀なマネージャー」の存在は大きい。いうまでもないことだが、これはサッカーなどの団体スポーツなどでも同様だ。優秀なプレイヤーだけでは優勝できない。チームが機能するのは優秀な監督の存在を前提とする。スポーツの歴史では、優秀な監督のリーダーシップの元で弱小チームが優勝したという事例もそれなりに多い(※2)。
では、「優秀なマネージャー」とはどんな人なのだろう。ここでは、ネットワーク分析の観点から最高のチームを生み出すコミュニケーションの形について考察してみよう。
チームAとチームBの2つのチームがある。中央にマネージャー、その周りにチームメンバーが5人いるとしよう。チームAは、マネージャーとメンバー、そしてメンバー同士もコミュニケーションをしている(線はコミュニケーションをしていることを指す)。チームBは、マネージャーとメンバーはコミュニケーションをしているが、メンバー同士のコミュニケーションがないチーム、とする。
チームAとチームB、どちらのほうが成果をあげやすいだろうか?
正解は“チームが達成したい目的による”である。チームAのメリットとしては、チーム全体の意思決定が速いことがあげられる(※3)。たとえば、メンバーの誰かが困っていたら、忙しいマネージャーが常にサポートするのではなく、隣のメンバーに助けを求めることができる。そうやって相互に助け合うことで、問題を解決していくことができるため、スピード感のあるチームとなる。
一方、チームBは各メンバーがマネージャーとしかつながっていない。意思決定自体は遅いが、エンジニアのようなフォーカスタイム(ひとりで集中して作業する時間)が長いメンバーで構成され、チームの生産性をあげるには実はうってつけなネットワークになっている。フォーカスタイムが重視されるチームにおいて、一度中断した作業に戻るには平均で23分15秒かかるという研究結果もある(※4)。加えて、チームBが正常に機能する条件として、メンバー同士のタスクが密接に連携していない疎の関係であることにも留意したい。
最近話題のリモートワークはチームBのような働き方には向いている。しかし、世の中の多くのプロジェクトが複雑化し、かつプロジェクト内のタスクが密接に連携しあっている状況において、チームBのようなコミュニケーションの形をとれるのは稀である。チームワークが重要な営業部門や、複雑なことが要求されやすく新しいアイデアを必要とする企画部門・新規事業部門でのリモートワークは、ミスコミュニケーションを招きやすく、非効率になり、結果として多くの小さな不具合やエラーを引き起こす。
具体例として、ボーイングの飛行機製造があげられる。飛行機の製造は、非常に複雑であり、部品と部品の連携が密接なプロジェクトであるのは言うまでもない。初号機であるボーイング747は、約5000人がその製造に関与したが、同じ場所で製造にあたったこともあり、わずか16ヶ月でローンチした。それから約40年後、初号機よりもさらに複雑なシステムを搭載することになったボーイング787は、10カ国、44企業の50チームが手を組んで製造にあたったが、6年以上かかり、総コストは320億ドルだ。そしてわずか数年後には、さまざまなトラブルや不具合が発生する事態に見舞われている(※5)。
ボーイング787は、国をまたいで実施したリモートワークのケースといえよう。そこで発生するコミュニケーションコストは膨大であり、本来議論すべきことよりも、時差や移動コスト、会議の日程調整などに時間は奪われ、小さな問題は見過ごされがちになってしまう。しかしその小さな問題が積み重なると、ある日、大きなトラブルに見舞われることになる。
複雑になればなるほど、どうしてもミスは不可避にでてしまうものではあるが、それでもそのミスが小さいうちに拾い上げる仕組みがあれば、早めに対処できる。最高のチームを作りたいのであれば、関わっているプロジェクトの複雑性を踏まえつつ、そのチームにあった最適なコミュニケーションの環境(形)を提供することがキモなのだ。そうすることで、メンバーの総能力以上の成果を出せるチームになる。特にリモートワークで複雑なプロジェクトを推進したい場合は、コミュニケーションマネジメント能力に長けたマネージャーを用意する必要がある、ということになる。
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※1:What Google Learned From Its Quest to Build the Perfect Team
https://www.nytimes.com/2016/02/28/magazine/what-google-learned-from-its-quest-to-build-the-perfect-team.html
※2:たとえば、欧州サッカー連盟(UEFA)主催のEURO2004でのギリシャの優勝。
※3:チームのネットワークと意思決定については、矢野和男氏の『データの見えざる手: ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』に詳しく研究結果が書かれている。
※4:一度中断した作業に戻るには平均で23分15秒かかる
https://www.lifehacker.jp/2014/11/141119interruptions.html
※5:『職場の人間科学』ベン・ウェイバー著より
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