「誠実さ」こそが最大の武器である
Integrity is the greatest weapon
2018.07.02
Updated by 特集:採用と活躍の技術 on July 2, 2018, 13:26 pm JST
Integrity is the greatest weapon
2018.07.02
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部下との上手な付き合い方に悩む上司は多い。今回は、わずか12問で分かる無料のパーソナリティ診断を使って、ちょっとした分析をするだけで、部下との上手な付き合い方を可視化する方法を紹介する。
パーソナリティ診断は、多種多様(注1)であるが、今回紹介するのは「ビッグファイブ」という性格診断である。ビッグファイブは、性格を以下の5つに分類する。
外向性:社交性
神経質傾向:ストレスの受けやすさ
誠実性:まじめさ
調和性:他者との協調性
開放性:知的好奇心
このビッグファイブは、心理学の領域では古くから使われている方法で、非常に信頼性の高いアンケート(注2)なのでおすすめである。古典的な方法では50問ほどのアンケートに答える必要があるが、近年、10問程度でわかる方法が開発されたことでお手軽な診断方法となった。何人かの学者がすでにショートバージョンのビッグファイブのアンケートを論文等で紹介しているが、ここでは英国ニューカッスル大学生物心理学部教授ダニエル・ネトル氏の『パーソナリティを科学する - 特性5因子であなたがわかる』(2009年、白楊社)のビッグファイブを紹介する。ネトル氏の紹介するアンケートは以下12問である。
1. 知らない人とすぐ話ができる
2. 人が快適で幸せかどうか気にかかる
3. 芸術・文学・音楽の制作活動をやっている
4. かなり前から準備をする
5. 落ち込んだり憂鬱になったりする
6. パーティや社交イベントを企画する
7. 人を侮辱する
8. 哲学的、精神的な問題を考える
9. ものごとの整理ができない
10. ストレスを感じたり不安になったりする
11. むずかしい言葉を使う
12. 他の人の気持ちを思いやる
上記の12問を以下の5段階で回答する。選択肢の番号は、そのまま計算に用いる。
1. きわめて当てはまらない
2. やや当てはまらない
3. どちらでもない
4. やや当てはまる
5. きわめて当てはまる
ただし、質問番号の7と9だけは、5段階の数値を逆転させ、配点を変える。
5. きわめて当てはまらない
4. やや当てはまらない
3. どちらでもない
2. やや当てはまる
1. きわめて当てはまる
各ビッグファイブの数値は、対応する質問への回答の合計で求められる。
外向性 = 質問1+質問6
神経質傾向 = 質問5+質問10
誠実性 = 質問4+質問9
調和性 = 質問2+質問7+質問12
開放性 = 質問3+質問8+質問11
ここでは、例として、ある一人のマネージャーと、その部下5人のビッグファイブを測定した結果を用いる。
▼表1
この表を見ただけでは、マネージャーとしては、部下との付き合い方はわからない。もちろん、部下Bは神経質傾向が10.0で最も高いといったことや、部下Aは調和性が8.0で最も低いといったことが分かるが、部下の人数が多くなると、同じ値の部下がたくさんいたりするので把握できなくなる(注3)。
そこで、「主成分分析」を用いることで、マネージャーと部下との関係性を可視化する。主成分分析とは、複数の変数があるデータを要約する方法である(注4)。ここでは、以下の図1で表1のデータを用いた2つの主成分分析の結果を比較する。左図はマネージャー抜きで行った主成分分析の結果、右図はマネージャーを含めて行った主成分分析の結果である。
▼図1
図1の赤い5本の線は、ビッグファイブである。矢印の方向に行くほど、その傾向が強いことを示し、矢印とは真逆にいる人は、その傾向が弱いことを示す。青の丸い文字は、人をあらわす。
まず、マネージャーがいるといないだけで、赤い5つの線矢印の向きが全く異なるのが分かるだろう。左図は5本の線がすべて上方に向いているのに対し、右図は5本がすべてバラバラの方向に向かっている。この線の向きが意味するのは、左図は似た者同士が集まっている傾向が強いことを示す。右図は、マネージャーが入ったことで、チーム全体としてのパーソナリティはバラついたと見ることができる。このように、使うデータは全く同じでも、全体の関係性を見ることでまったく別の角度の解釈ができるようになる。
表1では、Bは最も神経質傾向が高いとあったが、主成分分析でマネージャーの位置と比較した場合はどうであろう。左図でも、右図でもBは神経質傾向が高いことには変わりはないが、マネージャーの位置はBと反対側の位置、つまり神経質傾向が低い位置にあり、かつ誠実性傾向が強いというのが分かる。この場合、マネージャーは、Bとの付き合い方として、マネージャー自身が無神経傾向にあるため、不用意な発言(例えば、失敗した原因を部下だけにあると怒ったり、本人は努力しているのにおまえは努力が足りないといった頭ごなしの発言など)をすることは、Bの自尊心を大きく傷つけることになり、そうなるとBは、マネージャーへ心を閉ざしてしまい、信頼関係を損ねてしまいかねない。
一方、部下Dは、部下Bとは対称の位置におり、かつマネージャーとの距離が部下Bと比べて近い関係にある。対称の位置というのは、補完関係になることを示していることから、マネージャーとしては、部下Bと部下Dをペアにし仕事をしてもらうことで、働き心地を良くする効果を期待できる。同様に、部下Aと部下Cも補完関係にあるので、ペアにするのが良い。部下Eは中央に寄っていることから、平均的なパーソナリティを持っていることを意味する。部下BとDのペアに加えても良いし、部下AとCのペアに加えても、どちらでも無難に機能するはずだ。
筆者自身、様々な企業で、このビッグファイブの主成分分析をした結果を見てきたが、一つ気づいた共通点がある。それは、マネージャーほど、誠実性が高く、無神経傾向にあるということである。直感的な解釈としては、誠実性が低いマネージャー(注意力散漫で衝動的)であれば、部下としては信頼できないだろうし、また上からも下からもいろいろと言われる板挟みマネージャーとしては、神経質であってはやっていけないからであろうと思っていたが、科学的にはどうやら「誠実性」だけに着目すればよいことが明らかになりつつあるようだ。
この「誠実性」の高さとは、人生の満足度を上げるためには最も重要な因子であると言われている(注5)。研究では「誠実性」が高いことは、年収や仕事の満足度の高さ、成績がよく高学歴傾向、肥満になる確率の低さなどの人生の満足度に関係する指標と相関があることが示されている。つまり、神経質であっても、誠実性があれば、信頼を獲得しやすいマネージャーになるということである。
このことから、部下と上手に付き合うには、マネージャーは、部下一人ひとりに誠実に向き合うことが肝であるともいえる。主成分分析で、部下との位置関係を把握したならば、あとは、神経質傾向の高い部下には、その特徴を活かした仕事(例えばミスが許されない仕事)を与えてみるのも良いだろうし、開放性が高い想像力豊かな部下には企画の仕事を任せてみるのも良いかもしれない。パーソナリティというものをネガティブに捉えるのではなく、一つの強みとしてポジティブに捉えることで、部下に合った仕事環境を提供することができるだろう。
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注1:個人のクセを分析しようとするものは、全てパーソナリティ診断であると考えて良い。強み診断(ギャラップ社提供のストレングスファインダー(R)やMBTI)やモチベーション診断などのデータに置き換えても似たような効果を得ることが可能である。すでに有料の診断ツールを使ってデータを持っているのであれば、記事の主成分分析部分について応用してもらうと良いだろう。
注2:信頼性の高いアンケートとは、十分なデータ量で調査された結果として、計測対象への誤差が小さいものを指す。信頼性は「信頼性係数ρ(ローと読む)」で求めることができる。これは、以下の2点について計算しているものである。
1. 同一の個人に同じアンケートをしても、同一の結果が得られる安定性
2. 同一の個人に似たようなアンケートとしても、同じような答えが得られる一貫性
一からアンケートを作成する場合、上記の信頼性は担保されていないため、正しく計測できているか不明である。しかし、すでに多くの研究者によって調査されたアンケート項目であれば、十分その信頼性は担保できているといえる。その結果を用いて分析することは、意味のある結果を導きやすい。
注3:主成分分析についての詳細については以下のサイトを参考。
https://logics-of-blue.com/principal-components-analysis/
注4:多くの企業がいろいろな診断したものの、部署別平均値を出して、あとは現場のマネージャーに平均値の低い項目について改善するように、と丸投げすることがしばしば見受けられる。丸投げされたマネージャーも、データを活用しきれず、改善した風を装うことも多い。これは、現場のマネージャーが問題なのではない。現場のマネージャーが改善するための武器を分析結果と改善方法をセットに提供できていないことが問題である。
注5:『成功する子 失敗する子——何が「その後の人生」を決めるのか 』ポール・タフ著
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登録はこちら社員の行動データを収集・分析し、業務効率化・業績向上、人事に生かす手法として注目されているピーブルアナリティクス(People Analytics)に代表される人事関連技術(Human Resource Technology)は人工知能関連のアルゴリズムが導入され始めることで本当に効果があるのかどうかが試され始めた。一方で“働き方改革”による労働生産性向上は国を挙げての喫緊の課題として設定されている。この特集では全ての人たちに満足のいく労働環境はどのように実現できるか、そのために人事関連技術はどこまで貢献できるのかを考えていく。データサイエンティスト/ピープルアナリストの大成弘子(おおなり・ひろこ)とアナリストの緒方直美(おがた・なおみ)を主たる執筆者として展開。