ITbook設立の記者会見の模様。ITbook 恩田饒会長 兼 東北ITbook 代表取締役社長 恩田饒氏(写真中央)、秋田県知事 佐竹敬久氏(写真左)、秋田市 副市長 石井周悦氏(写真右)。
「人材不足」×「ICT導入の遅れ」という課題に立ち向かう 秋田県がICTコンサルの「東北ITbook」を誘致した理由
2019.06.11
Updated by 創生する未来 on June 11, 2019, 19:42 pm JST
ITbook設立の記者会見の模様。ITbook 恩田饒会長 兼 東北ITbook 代表取締役社長 恩田饒氏(写真中央)、秋田県知事 佐竹敬久氏(写真左)、秋田市 副市長 石井周悦氏(写真右)。
2019.06.11
Updated by 創生する未来 on June 11, 2019, 19:42 pm JST
東証マザーズ上場のITbookホールディングの子会社であるITbookが、先ごろ秋田市に新たな事業会社「東北ITbook」を設立した。同社は、秋田県や秋田市と手を組み、県内はもちろん、将来的には東北6県・北海道も含めて、地方自治体向けITコンサルティング、新規ITソリューションサービス展開や建設業(地盤調査・改良)、外国人受入支援などを目指していく意向だ。今回の会社設立は、秋田県や秋田市、および(一社)創生する未来などのバックアップにより実現したものだ。その背景には、どんな背景と課題があり、それにより何を解決しようと考えてるのだろうか?
秋田県は、自然や資源、文化を豊富に有する地域ながら、人口減少率が47都道府県で最も高く、まさに「地方衰退の本質」が見える縮図のような地域といえる。いくらリソースが潤沢にあっても、それが経済にダイレクトに結びつかない課題は深刻だ。
いま人口減少に歯止めをかけ、地方の再生と活性化を図るためには、いかに手持ちのリソースをICTと結び付け、新たなビジネスを立ち上げるかということが肝要だろう。
もともと秋田県は、教育に熱心な県として知られている。学生の学力テストの結果も全国でトップクラスだ。とはいえ、大学や高専などで若いICT人材を育成しても、彼らのほとんどが首都圏に出てしまうという厳しい実情もある。そもそも県内の中小企業は、ICT自体の導入が遅れており、優秀な人材を雇用する受け皿も少ないのだ。
一方で、首都圏のICT企業は、秋田の市場や地場企業に対して、ほとんどコミットしていないという現実も立ちはだかっている。そんな背景もあり、秋田県と秋田市、さらに(一社)創生する未来がタッグを組んで設立にこぎつけたのが、この東北ITbookだ。同社は、秋田県や東北各県を中心に、地域創生の原動力となるICTを地元企業に積極的に提案し、ビジネスを活性化していくという。
親会社の ITbook は、独立系の大手コンサルティングファームで、2020年3月期の連結売上高は205億円の見通しだ。同社は、地域創生に役立つ製品を多く有しており、即効性のあるソリューションとして、電子申請e-Gov連携ソリューションや、RPAを含む働き方改革ソリューション、クラウド型コンタクトセンター、スマホIP無線(クラウド)サービス、電子決済、運行管理システムなど、幅広いラインナップをそろえている。
そこで東北ITbookは、まず県内のICT化の現状を把握したり、IoT/AI事業の立案の支援や推進を行っていくという。また前出のように即効性のあるICTソリューションを企業が導入するにあたり、ICT戦略・計画の策定など、コンサルティングを含めた上流工程からサポートしていく方針だ。
東北ITbookは、秋田駅に直結する一等地にある「アルヴエ」という高層ビルの「秋田拠点センター」14Fに事務所を構えている。実は、この賃料は秋田県が20%、秋田市が50%を3年にわたり補助することになっており、同社への並々ならぬ期待もうかがい知れるところだ。
「秋田県は、人手不足が深刻で、本当に厳しい状況にあります。2045年には労働力人口が42.5%になるという予測もあり、第二次産業の労働生産性も全国比で4分の3しかありません。そんな状況のなかで、ICTを積極的に導入する企業と、導入を諦めてしまう企業に2極化しています。我々も、いまが将来を左右する重要な岐路に立っていると認識しています」と危機感を募らすのは、秋田県庁でICT推進の旗振り役を務める羽川彦禄氏だ。
そこで昨年から、県の産業労働部に「デジタルイノベーション戦略室」を立ち上げ、羽川氏が室長を務めている。現在、同氏を含めて計7名の職員が推進室におり、ICT活用による生産性向上や、さまざまな地域の課題解決に向けた施策を講じているところだ。それと同時に、県内のICT産業の基盤づくりにも注力しているという。今回の東北ITbookの誘致もその一環なのだ。
「県内のICT産業を強化し、県外からの力も借りつつ、情報産業の集積化・拠点化を進めてたいと考えています。課題を抱える地方と、技術・サービス・ノウハウを持つ東北ITbookが共創し、新たな産業が萌芽することを狙っています」(羽川氏)。
秋田県では、デジタルイノベーション(以下、DI)と、情報産業の基盤を強化するために、新年度の施策を発表し、1億円以上の関連予算をつけたばかりだ。具体的な取り組みは以下の5つになるという。
羽川氏は「これらのうち、2番目の”中小企業・小規模事業者の情報化推進”に関しては、今年度から始まる新しい取り組みになります。当初は、IoTやAI、ロボティクスといった先進技術にスポットを当てていましたが、まだ県内では情報化が進んでいない企業も多いため、全体の底上げとキャッチアップが求められています」と説明する。
実際に県内のICT企業の売上高は244億円ほどで(全国比0.09%)、ICTに携わる社員は1425人(同0.13%)と、全国的に見ても、かなり低位だ。さらにICT関連の売上の3分の1程度が県外に取られている状況だ。
「そこで、まず県内企業のICT活用で正確な実態を把握し、具体的に”ICTの地産地消”をどう進めていくかという点を検討していく必要があります」(羽川氏)。
「ICT産業の地産」という点では、いま北日本コンピュータサービス、ADK富士システムなど、従業員が100名以上の独立系ICTベンダーが5社ほど秋田県で活躍している。こういった代表的な地元ベンダーを支援し、それ以外にも地域のコアになる企業を育て、全国で戦うための情報産業基盤を固めていく方針だ。そのうえで、建設、農林水産、医療・福祉、行政事務など、多様な分野でのICTやDIの活用を促進しようとしているそうだ。
「たとえば建設業では、すでにドローン測量やICT建機のトレーニング拠点を五城目町に設置しました。農林水産業ではスマートアグリや農機の自動化を支援していきます。こういった地域性のある施策のほか、医療・福祉では介護ロボットを導入したり、行政事務関連ではRPA化やAIによる問合せ対応などを進め、業務の効率化を図っていきます」(羽川氏)。
冒頭にも触れたように、秋田は優秀な人材のポテンシャルが高い地域だ。県外に出て行ってしまったリソースを呼び戻し、地元に定着させていくためにも、東北ITbookの役割は非常に大きいと言えるだろう。同社がニアショア開発の拠点にもなるからだ。
「私どもは、UIJターンと秋田のAの意味を込めた”Aターン”というキーワードで人材の回帰を進めています。秋田県は、よい表現をさせていただくと”課題先進県”ということで、新しい課題を解決する実証フィールドになるでしょう。ITbookのように外部から新しい風を吹き込み、それを契機に地場のICT産業を盛り上げていきたいと考えています」(羽川氏)。
少子高齢化、労働人口の減少という点で、秋田と同様の悩みを抱える自治体がほとんどいってもよいだろう。どのように秋田は、こういった地方の課題を突破していくのか、その行方が注目される。秋田の成功は、他地域の成功にもつながるはずだ。今回のITbook設立を契機に、ぜひICTを基点としたロールモデルを作り出し、粘りっこい秋田の底力を見せてほしい。
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