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翻訳技法としてのアートを駆使し予想外の価値を獲得する

Translation as an art create unexpected value

2024.11.13

Updated by Shigeru Takeda on November 13, 2024, 10:00 am JST

破壊的イノベーションの弊害、環境問題、国際紛争等の「厄介な問題」たち(wicked issues)やデジタルで繋がりつつ分断されていく人々に切り込む新しい視座としてのアート/アート思考が注目を浴びています。しかし同時に、オフィスと研究の現場の乖離が大きく、ポテンシャルのみが語られ空中を舞っている状態なのも事実です。

そもそも「アート思考」は、「アーティストのような自由な思考がユニークなサービスを作り出す」というあまり根拠のない理屈がベースになっています。特に様々な制約条件を前提にして新規事業開発を行わねばならない企業の担当者にしてみれば「アーティストのように自由に思考していると左遷される」が関の山です。

ここで「翻訳(translation)」という概念を導入します。いうまでもなく、DX(Digital Transformation)が「トランスフォーム」を意味するのですから、詰まるところ「翻訳」は「移行・変革」という意味になるわけです。長澤忠徳氏(武蔵野美術大学・理事長/前学長)は、「アーティストは職業名だけど(それを翻訳した)作家(=作る人)は生き様を表す言葉になる」と言います。翻訳は「正しい意味に変換する作業」だと思われがちですが「言語体系を強制的に移行させることで新しい価値を創出する手段」が本意なのですね。

異質な存在同士をつなぎ、情報を循環させる技法としてこの「翻訳」を多用し、言語のみならず文化や習慣をかき混ぜて翻訳していくことで「新しい知の出会い」が創出できるのではないか、と説明されれば、「アート思考の導入」で思考停止してしまったビジネスマンにも「何が言いたいのか、なんとなくわかる」状態にはなると思うのです。

特にアートは、多義性と身体性を重視しますから、ふだん人が疑うことのない「事実」を翻訳し再解釈することで、私たちは創造性と新たなナラティブに出会えるかもしれない、ということになります。

キャプション:野原佳代子(のはら・かよこ)東京科学大学(旧・東京工業大学)環境・社会理工学院副学院長

野原佳代子(のはら・かよこ)東京科学大学(旧・東京工業大学)環境・社会理工学院副学院長

来る11月23日に開催される「物質知性と共に育むサスティナビリティ価値創造」のセッション4(15:00開始)では、科学的/論理的思考とアートが見る風景はどう重なり、どうズレを見せるのか。両者を俯瞰し統合しつつリアリティを再解釈することは可能か、イノベーション、価値と空間、物理化と概念化、人材育成、翻訳とコミュニケーション、といったキーワードで、それぞれ異なるアプローチで創造性の生成に取り組んでいるパネリストたちと議論。科学とアート/デザインの創造的翻訳と産学連携を手がける野原佳代子(東京科学大)氏がコーディネートします。

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竹田 茂 (たけだ・しげる)

日経BP社の全ての初期ウェブメディアのプロデュース業務・統括業務を経て、2004年にスタイル株式会社を設立。WirelessWire NewsModern Timeslocalknowledgeなどのウェブメディアの発行人兼プロデューサ。理工系大学や国立研究開発法人など、研究開発にフォーカスした団体のウエブサイトの開発・運営も得意とする。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997-2003年)、情報処理推進機構(IPA)Ai社会実装推進委員、著書に『会社をつくれば自由になれる』(インプレス、2018年) など。