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走行情報収集からAR活用やスマホナビまで、パイオニアの安全で早い到達へのこだわり

2011.08.12

Updated by Naohisa Iwamoto on August 12, 2011, 17:00 pm JST

情報通信と自動車を有機的に結合させるテレマティクスサービス。自動車側でテレマティクスサービスを受ける「端末」として最右翼にあるのが、カーナビゲーションシステムであることは間違いない。黎明期から現在まで一貫してカーナビの技術革新を牽引してきたパイオニアに、テレマティクスへの取り組み、将来の展望について聞いた。答えていただいたのは、パイオニア コーポレーションコミュニケーション部 広報課の西山浩司課長と堀本由佳副主事のお二方である。(聞き手=本誌:岩元直久)

──カーナビと通信の連携には、どのような背景があったのですか?

カーナビは、元々は衛星を使ったGPS(全地球測位システム)で位置情報を計算していました。しかし、GPSだけでは精度面で問題がありました。例えば、都会のビルの谷間であったり、山あいであったりして、測位に必要な数だけのGPS衛星からの電波を捕捉できないような場合です。走っていた道がいきなりカーナビの画面では田んぼの中になるといった経験がある方もいるでしょう。

▼パイオニア コーポレートコミュニケーション部の西山課長(右)と堀本副主事
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そうしたこともあって、カーナビは測位や地図、渋滞情報などの精度を高めるように進化をしてきました。測位の精度は、GPS情報にモーションセンサーやジャイロセンサーなどを組み合わせることで高めました。カーナビで重要なのは"道案内"をすることです。間違いなく、短時間で目的地に到達できるルートを探索することが求められています。それには、地図の精度を高めることと、道案内の精度を高めることが必要です。そこで、通信を使って情報を取ってくるというアプローチが出てきました。

──どうやって情報を取得するのですか?

カーナビの利用者が、実際にクルマで通った道の情報をアップロードしてサーバーに集めて、カーナビに提供できる情報を増やす方法です。この考えでできたのが、「スマートループ」と呼ぶサービスです。パイオニアのカーナビからタイムリーに情報をサーバーに上げてもらうわけです。

クルマが止まっている、動いているといったデータをサーバーに集めて解析することにより、その道が渋滞しているのか、空いているのかがわかるのです。ナビに求められる道案内、すなわち経路誘導の機能は、地図情報だけでは満足したものになりません。渋滞情報を使うことで、その時点で適した経路を検索して誘導するのです。渋滞情報が多くの道であれば、それだけ精度の高い誘導ができるわけです。スマートループでは、利用者が実際に走った情報を使うので、より良いルートを作れるという考えです。

──スマートループではどのぐらいの道路の渋滞情報を得られるのでしょうか。

カーナビが利用する渋滞情報としては、道路交通情報通信システムセンター(VICS)が提供する情報が一般的に使われています。スマートループではVICSも含む70万kmの渋滞情報を提供できます。

スマートループの提供は2007年から開始しました。2009年には70万kmに対応できるようになりました。70万kmは国内で道路地図に載っているほぼすべての道路の総延長に相当します。その渋滞情報を得られるようになったのです。これで、VICSだけではわからなかった道の渋滞情報をカーナビに提供し、きめ細かい誘導ルートの作成ができるようになりました。

このほか、安いガソリンスタンドの情報や、駐車場の満空情報、入り口の情報といった情報をクチコミ情報などとして収集し、情報提供するサービスも行っています。ドライバーのかゆいところに手が届くような情報を提供できるようにと考えた結果です。

──通信回線の確保は?

これまで、サイバーナビなどで通信する場合は、お手持ちの携帯電話を接続してパケット通信する形態でした。エアーナビでは利用する通信モジュールでは月額約2000円の料金で通信サービスを利用できました。購入者のかなりの率に相当する人が通信を利用しています。

2011年5月以降に発売した最新の「サイバーナビ」製品の上位2モデルには、NTTドコモの通信モジュールを内蔵しています。スマートループや通信検索を利用するために、手持ちの携帯電話を接続する以外に内蔵の通信モジュールを使うことができるようになりました。通信モジュールを使った場合の通信費用は3年間で約2万6000円の定額で、月に換算すると約750円で通信できます。さらに新サイバーナビは、購入から3年間の通信費用を含んだ価格設定なのです。通信のコスト負担を感じさせずに、より充実して安全につながるサービスを使ってもらえるのです。

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──最新製品ではAR(仮想現実)をカーナビに採用したと聞きました。

:はい。2011年5月に発売した新サイバーナビには、新しい機能としてARを利用したナビゲーションを備えました。リアルな道路の風景を、ナビゲーションの画面に重ねて表示する「ARナビゲーション」です。

▼ARナビゲーションと通信機能を備える「carrozzeria CYBER NAVI AVIC VH09CS」。右端がNTTドコモの通信モジュール
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仕組みとしては、車載の専用カメラを使い、フロントガラスの前に広がる風景を撮影します。通常のナビゲーションでは画面には地図を映しますが、その代わりに実写のリアルタイム映像を使うモードを選べるのです。特徴的なのは「ARスカウターモード」と呼ぶ表示モードです。風景の映像をリアルタイムに解析して、交差点までの距離や前車との距離を割り出してナビゲーションの画面上に表示します。実写の映像には、道路上空に進むべき方向を示すルート表示がされ、「案内地点表示」により解析した情報から交差点などまでの距離が示されます。

──映像を使って実際の道路状況を取り込んでナビゲーションに役立てているのですね。

そうです。実際の風景からは様々な情報が得られます。道路脇にあるガソリンスタンドやカフェなどは、画面上でわかりやすくするために3Dのランドマークやポップアップで知らせることができます。前のクルマの動きを検知して発進を知らせたり、信号を読み取ってその変化を知らせたりすることもできます。

高速道路では、意図せずにレーンをまたいで走行してしまうようなフラつき走行を防止するための注意喚起もしますし、前車との車間距離を計算して表示する機能もあります。実写の映像を使うことで、地図を読み慣れていない利用者にも的確な情報を伝えることが可能になりますし、距離感などがつかみやすいと好評です。これも安全なナビゲーションを実現できる機能だと考えています。

ARナビゲーションではサーバーなど外部の通信はせず、内部のCPUだけで映像の処理などをしています。それだけの処理性能をハードウエア単体で持っているのです。通信に頼りすぎると何かあったときにリスクがあるかなとも考えています。スタンドアロンで基本の情報は得られるようにすることにも意味があるでしょう。

▼実写のリアルタイム映像にナビゲーションに必要な情報を重ねて表示する。パイオニアの「(carrozzeria|サイバーナビ)」ページでは動画で動作を確認できる
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──そのほか、新サイバーナビに加わった機能を教えてください。

新しい機能の1つが、「ロードクリエーター」機能です。カーナビの地図は、アップデートしたとしても年に数回程度です。しかし、実際には地図に反映されない間に新しい道路が開通したりすることがあります。こうした時、従来型のカーナビでは例えば「画面では畑の中を突っ切って」走るようなことになります。次回以降のルート探索でも、開通した道は反映されずに旧来のルートで案内することになります。ロードクリエーター機能は、開通した道路など実際に走行したところを道路として認識して、地図に表示できるのです。

単に地図に表示するだけではなく、次回以降のルート探索にも適用されます。これで、新しい道ができても、すぐにその道を反映したルートで探索できるようになり、ユーザーの利便性は大きく向上します。

ユーザーが通った「新道」は、技術的にはスマートループの仕組みを使って他のユーザーにデータとして配信することもできます。しかし、安全上の観点から、公共の道路として確認できていない経路を他者に知らせることはできないのが現状です。

通信を使った機能としては、新しい道路やオープンした施設などの最新情報を通信回線を使って毎月届ける「マップチャージ」、カーナビのデータに反映されていないスポットなどでも検索できる「通信検索」などがあります。通信回線が、クルマの外にある情報をクルマの中でも使いやすくする橋渡しをしているのですね。

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──カーナビの新しい形として、NTTドコモと共同でスマートフォンを使ったシステムを提供しています。その狙いはどんなところにあるのでしょうか。

スマートフォンをカーナビにする、1つの形だと思います。主に通信カーナビとして、ナビゲーションとして使えればいいという層を取り込めるのではないかと思っています。

▼スマートフォンをカーナビにする「ドコモ ドライブネット」と「ナビクレイドル」の組み合わせ
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──実際の仕組みはどうなっているのですか?

利用には、NTTドコモが提供する「ドコモ ドライブネット」サービスのAndroidスマートフォン向けアプリケーションが必要です。スマートフォンとこのアプリだけでも現在位置を表示するなどの機能はあります。パイオニアはドコモドライブネットと組み合わせて使う車載用の装置を提供しています。これがちゃんとカーナビとして使えるようになるポイントです。製品は「スマートフォンリンク ナビクレイドル」(SPX-SC01)で1万5750円、カーナビとして利用するには月額315円の利用料がかかります。

スマートフォンはGPSで位置情報を得ているのですが、それだけだと現在位置を見失ってしまうことがあります。冒頭でもGPSの弱点として挙げたように、都心のビルの谷間や山間部などで、正確なナビゲーションができないのです。そこで、ナビクレイドルが必要になるのです。ナビクレイドルには、車載用GPS、加速度センサー、ジャイロセンサーを搭載しています。これらを使うことで、本格的なカーナビに匹敵する情報を得られるのです。これらの情報をBluetoothを介してスマートフォンに送ることで、正確な現在位置を使ったナビゲーションが可能になるというわけです。

▼この「ナビクレイドル」の中にGPSや各種センサーがあり、スマートフォンを本格的なカーナビに変える
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ドコモドライブネットのアプリ自身は地図情報を持っていません。通信でリアルタイムに地図をダウンロードして表示しています。前述した渋滞情報などを得られるスマートループの情報も、通信回線を経由して取り込むことで渋滞情報を使ったルート探索が可能です。ナビクレイドルと組み合わせて使えば、カーナビとしての機能は専用機に劣らないと考えています。通信カーナビで上位機種にあたるエアーナビと機能的にはほぼ同等で、大きな違いは画面の大きさぐらいですね。スマートフォンでもルート検索などのナビゲーション機能だけを見れば、10年前の最上位のカーナビと同等以上の性能と言えるでしょう。

──そうなると、カーナビ専用機の市場を食ってしまいませんか?

カーナビ専用機はスマートフォンより画面が大きく、車載時に使いやすい設置もできます。オーディオやビジュアルを楽しむための機器という側面も強くありますから、ナビゲーションも含めたトータルなAVセンターとして受け入れられています。新サイバーナビのARなどの機能は、スマートフォンでは実現できていません。一方で、ナビゲーションさえできればいいというユーザー層も多くあります。スマートフォンタイプはカーナビの新しいマーケットとして広がりに期待しています。

──カーナビの将来への展望について教えてください。

スマートフォンタイプのカーナビも、より進化していくでしょう。国内ではNTTドコモさんと始めたばかりですが、全世界での展開を考えています。海外では中国や米国などでスタートさせていこうと検討しています。

スマートフォンの弱点である画面の大きさとしては、大型ディスプレイに表示させることも技術的には可能です。音楽データも通信機能も持っているスマートフォンが、クルマでも情報センターになる可能性はあるのです。また画面の大きさに対しては、ヘッドアップディスプレイで対処する方法も考えています。フロントガラスの運転手の視界に入るところに情報を映したいですね。視線の移動を少なくして情報を提供できれば、安全性もさらに高まるでしょう。ヘッドアップディスプレイについては、技術的に検討していますし、実現に向かうように努めています。

通信との連携の側面では、今後はもっと連携は強くなっていくでしょう。通信はカーナビにとって1つのインタフェースだと思います。そういった意味で、インターネットとの連携はさらに強まると思います。音声認識でインターネット上の情報を検索して、ナビゲーションで活用するといったこともあるでしょう。家で調べる情報とクルマで使う情報をシームレスにすることです。現在は今後の新しい利用法を検討しているところです。

もう1つ大きな流れがあります。それは電気自動車(EV)です。電気自動車では、カーナビがクルマ自身の情報を吸い上げる役目も果たすようになります。クルマの情報と外部の情報をリンクさせて、的確なアドバイスをドライバーに提供することができるように進化していくでしょう。例えば電気自動車の充電が少なくなってきたら、近隣の充電ステーションの情報をナビゲーションの画面上に自動的に示すといった新しいドライバーへのアシストができると考えています。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。