「アップルはなぜデュッセルドルフへ向かったか」- 特許訴訟の「ファーストフード店」と化す独法廷(編集担当メモ)
2011.08.29
Updated by WirelessWire News編集部 on August 29, 2011, 08:24 am JST
2011.08.29
Updated by WirelessWire News編集部 on August 29, 2011, 08:24 am JST
先週(米国時間24日)、Forbesのパーミー・オルソン(Parmy Olson)という記者がまとめた「アップルはなぜデュッセルドルフへ向かったか」("Why Apple Went To Dusseldorf")というタイトルの記事が、同誌のウェブサイトに掲載された。当日に発表されたスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏のCEO辞任をめぐるさまざまなニュースの影に隠れてしまい、ほとんど話題にならなかった印象だが、スマートフォン関連各社の間で現在進行中の特許侵害をめぐる訴訟問題関連のニュースを読む上で参考になると思われるので、ここで少し紹介してみたい。
独デュッセルドルフの裁判所が欧州時間8月9日に、EU各国の市場(オランダを除く)でのサムスンの「Galaxy Tab 10.1」タブレットの販売停止を命じる仮差し止め命令を下したことはすでにお伝えした通り(その後、この命令の対象地域に関して修正あり、独以外では販売可能になっている)だが、前述のForbes記事によると、この判定に先立つ8月4日に、アップルの弁護団はデュッセルドルフの裁判所(民事訴訟を扱う下級裁判所=the Civil Chamber of the lower court of Dusseldorf)に対し、サムスンによるアップルの「デザイン特許」侵害を訴えた44ページにわたる訴状を提出したという。
この訴えに目を通した判事は、それから一週間も経たないうちに、前述の「仮差し止め」を発令した訳だが、実はその数日後に、アップル弁護団が証拠として提出していたGalaxy Tabの画像が、実物より横に長く引き延ばされていたものであることが発覚。アップル側がiPadとの酷似ぶりを印象づけるために意図的にやったと思われるこの操作が明らかになったことで、法律関係者などの間では同法廷の審査の杜撰さがあらためて話題になったという。
これに続いて、オルソン記者は「IT大手各社の間で続けられている特許戦争のなかで、デュッセルドルフの法廷が(訴訟を起こす企業側に)人気の場所となっている」とし、その「繁盛ぶり」と「人気の理由」を詳しく記している。
同記者がまず持ち出しているのは、「Global IP Project」という研究プロジェクト(Finneganという法律事務所が実施した一連の調査の結果をまとめたもの)のデータで、それによると2006年から2009年の間にデュッセルドルフの法廷で争われた特許関連訴訟では、全体の63%で原告(訴えた特許保有者)側に有利な判定が下されたが、この割合は世界平均の35%をはるかに上回るものだという。
さらに、同記者は「ドイツ国内には12箇所に地裁があるが、特許訴訟の約60%がデュッセルドルフの法廷で起こされている」というManagingIP.comのデータを引用した上で、「同地の裁判所での判断が、世界の他の地域で係争中の訴訟に対する先例となることもめずらしくない」と述べている。
また、デュッセルドルフでの訴訟は処理がスピーディーであることでも人気を集めているという。この記事には、特許訴訟関連の専門家、フローリアン・ミューラー(Florian Mueller)氏が知り合いの弁護士から聞いたというエピソードが紹介されているが、それによると、同地の法廷では特許関連の訴訟を争う原告と被告とが判事の前に文字通り列をなし、腰掛けて待つ間もなく次々に訴訟が処理されていくのだという。「デュッセルドルフは特許訴訟を処理する(工場の)組み立てラインを提供しているかのようだ」とミューラーはコメントしている。なお、同氏はほかの法廷よりもスピーディーで、かつ原告側に有利な判定が出やすいデュッセルドルフで有利な判定を手に入れ、それを通じて他の地での裁判にも影響を及ぼそうとする動きを「さや取り(裁定取引)の典型的な例」と呼んでいる。
比較的短時間でしかも原告の特許保有者に有利な判定が乱発される法廷の例はデュッセルドルフが初めてではなく、実は4、5年ほど前にも米国の東部テキサス地裁がこれと同様の特許裁判のメッカと化していたという。Global IP Projectの調べでは、同地裁での争われた訴訟の件数は2001年から2007年にかけて1124%増加、また2007年には全体の約8割の訴訟で特許保有者側の訴えが認められた。対照的に、特許侵害の判断が厳しいとされるロンドンでは2006〜2009年に争われた訴訟のうち、被告側に有利な判定が出されたものが86%にのぼったという。
オルソン記者は、アップルというおそらく世界でもっとも有名な企業のおかげで、今後しばらくはデュッセルドルフで特許訴訟を争うケースが増える可能性があるとした上で、ミューラー氏の次のようなコメントを紹介し、この記事を締めくくっている。「こうした傾向は、さらに多くの特許訴訟につながる。影響の大きい、とても破壊的な判定が素早く得られるとなれば、そうなるのも道理だろう」。
【参照情報】
・Why Apple Went To Dusseldorf - Forbes
・Preliminary injunction against Galaxy Tab 10.1 upheld in German court - GigaOM
・EUでのサムスン「Galaxy Tab 10.1」販売、独市場を除いて再開可能に
・独法廷、サムスンに「Galaxy Tab 10.1」販売の仮差し止め命令 - アップルとの特許紛争で
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