「津波で逃げた人がケータイを取りに戻ったというのは、何人も聞きます。それほどケータイは大事なんです」石巻赤十字病院 阿部 雅昭氏(中編)

2012.03.21

Updated by Tatsuya Kurosaka on 3月 21, 2012, 17:00 pm JST

電気と水道は本震から数日で復旧した。少し遅れたが2週間以内にはガスも使えるようになった。なのに通信事業者は何も言ってこないから、こちらからつてを頼って移動基地局を手配してもらうしかなかった──「ケータイは文字通り『命の電話』なのに、通信事業者は全く分かっていない」と、石巻赤十字病院の阿部氏は怒りをあらわにする。(聞き手:クロサカタツヤ インタビュー実施日:2011年10月28日)

前編はこちら

▼石巻赤十字病院 企画調整課 課長 阿部雅昭氏
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病院を大事な施設だと認識してくれない通信事業者

阿部:通信に話を戻しますと、NTT東日本はユーザーの状況を調査に来ました。ところが、誰が来たかというと、地元の新聞社に委託して、そこの記者が来たんです。

──はじめて伺いましたが、本当だとしたら、正直ショックです。

阿部:本当です。夏頃のことです。私は頭に来て、NTTに電話したんですよ。そうしたらすぐにNTTの担当者が来ました。

私は本当に頭に来てね、文句を言うとすぐに来る。だから、あの人達は苦情に対しては敏感に反応するけど、こちらがおとなしくしていると放っておくのかと、がっかりしてしまいました。

NTT東日本については、何が酷かったかというと、ネットが使えないわけですよ。今はもちろん復旧していますが。

──夏頃の時点では、まだ三陸の一部では復旧していないところもありました。集約するNTT局舎までは回線復旧した。実は政府機関の調査では夏前に回線復旧率90%超と言っているんですけど、それは基幹網の話で、そこから先の家庭なり事業所までのアクセスが全然間に合っていなかった。

阿部:それは経済性だけですよ。残りが数%だっていっても、そこに莫大な金が掛かるんなら、民間の会社がそんなに金を掛けるはずないんですから。そういうのは切り捨てられるだけです。

──それも、一般の家庭ならまだしも、市役所での話です。夏頃にはまだ市内各所に分散した拠点を結ぶ自治体LANがまだ復旧していませんでした。

阿部:それはあまりにもおかしい。例えば電気なんかは、東北電力が二日半で通してくれましたよ。水道は市役所が給水車を出してくれて、それで凌いだんですね。復旧も病院を優先してくれて、3月16日ごろには水道が使えた。

ガスは、ちょっと遅くて3月23日だったと思いますが、石巻ガスが頑張ってくれて、駐車場の端にタンクローリーを持ってきガス発生装置というのを作ってくれて、そこから管に入れて、仮復旧してくれたんですね。

それも、ここが重要な施設だという認識を、向こうがもってくれたから。ただ通信事業者はそういうのがない。

──今のお話を伺う限り、まったくないですね。

阿部:ないじゃないですか。あの人達、お金を儲けることしか考えていないと思われてもしかたがない。今回は、何と言われても、彼らに弁解の余地がない。それくらい怒っています。

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当然のように「被災地に電話しないで下さい」というのは間違っている

──NTTドコモは何かアクションはなかったのですか?

阿部:ドコモも病院に対しては何も言ってこなかったですよ。どうしようもないので、医師の知り合いにドコモショップを経営している人がいて、その人に何とかしてといったら、そこの店長というのがやる気のある人で、仙台に掛け合って、自分で移動基地局を手配してくれました。そこからつながるようになったのです。

──それ自体は素晴らしい動きですが、組織的な対応ではない。こうなると、通信事業者の社会的な役割が、根本から問われてしまいますね。

阿部:最初の話に戻ると、地震が起きたからといって通信を切って、さも当たり前のように「被災地に電話しないでください」という、そこから考え方が間違っている。被災地で地震が起きました、今そこの通信機能を拡充しましたからどうぞ使ってくださいというならわかるのに、それが逆なんですから。

それを何回も今まで繰り返してきている。「それは間違いです」と国民は声を大にして、そういうのを言わないとダメで、それを当たり前だと思っていたら間違いですよ。だって、津波で逃げた人がケータイを取りに戻ったというのは、何人も聞きますよ。それほどケータイって大事なんですよ。それを通信事業者の人はわからないと駄目だと思います。

──その通りだと思います。業界を手伝う人間として、言葉もありません。

阿部:本当に命の電話なんですよ。家族の安否を確認するにも、助けを求めるにも必要なんです。震災で、九死に一生を得たという人はいっぱい居るわけです。

私の友達も、3月11日は津波にのまれて屋根の上に逃れたけど、あのとき雪が降りましたから屋根が凍っちゃったんですね。動くと滑って水に落ちるので、ジッとしているしかなかった。それで、周りを見ると屋根の上で亡くなっている人も見たそうです。

▼石巻湾の夕陽。このおだやかな海が、3月11日には津波となって街と人々を襲った(撮影日:2011年10月28日)
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それくらい大変な状況に、ケータイが動く動かないというのは大事なことだと思うんですね。そこで、誰かが電話で「ガンバレよ」とひとことあれば助かる人だっているんです。凍死しなくてすんだ人もいるはずなんです。

やっぱり考え方を変えないと、同じ事を繰り返すだけ。次の災害時に、通信事業者は被災者にまた同じ質問をしに行くことになると思いますよ。

当院でも、次々と変えていって問題をその都度解決していった。病院とNTTでは規模が違うし、簡単にできないと言われたらそうなんだけども、でも考え方を変えないと。

──規模の問題ではないですね。むしろ、通信事業は規模が大きいからこそ、きちんとしなければいけない話です。

阿部:NTTドコモの仙台のビルだって、県庁の脇にあるけども、県庁よりも立派です。あんな立派なビルを建てるお金があるんだったら、通信料を安くするか、または本当にこういうときに使えるシステムを作るべきです。

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被災者の声を自ら聞こうとしない人達に、災害時のシステムはできない

──昔から通信業界でよく言われるのは、地震が起きたら電話局に逃げろということ。役所よりも堅牢に作ってあるから、絶対に壊れないという話です。今回も、確かに揺れでは壊れていません。

ただ、陸前高田や大船渡のように、津波に飲まれてしまったところもあります。私も現場を見たんですけど、電話局も駄目だというのは、業界の人間としてはショックでした。ただ、それでも残っているところはありますし、局舎全壊ではないから、少なからずそこが復旧の拠点にはなっている。

ということは、インフラを残さないといけないという自覚が、彼らのどこかにあったはずなんです。ところが、今回その意識がまったく発揮されていない。1週間、通信回線を切るということは、孤立無援で生きのびてくださいというのと同じです。

その間に起きたことを皆さんに伺うと、あのときケータイが使えていれば二次災害、三次災害というのが起きなかっただろうと。みんな助かったのに探しに行って怪我したとか、家族が散り散りになったとか、持病のある人が悪化したのに連絡がとれなかった、という話です。これが最初の1週間どころではなく、4月くらいまでもずっと続いていた。

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阿部:そんな実態があるのに、それを第三者に頼んで、お客さんの声を聞きに来るなんて誰だってびっくりすると思います。でも電話したら、すぐに来ました。

NTTの職員なら、どこが一番大変だったとか、わかるはずじゃないですか。百歩譲って、普通の小口のお客さんは手が回らないとしても、やっぱり大変なところ、市役所とかそういう所には、自分で聞きに行くのが、当たり前です。なんで、そんなことがわからないのかなといまでも不思議でなりません。

そういうわからない人たちが、平時に「通信は儲かる」なんて、おめでたいことを言ってれば、災害時のシステムなんて絶対できません。

──できませんね。そして、あっという間におめでたい方に戻ってしまいました。戻ったというよりも、最初からその意識がなかったとさえ、このままでは言わざるを得ません。

阿部:そうだと思います。NTTの人間が来たときに「石巻局舎は川沿いにあるからどうするんですか」って聞いたんです。日赤病院がある蛇田のこの辺は、津波の被害が全然ないので「この辺に移すんでしょうね」っていったら、はっきりしない。

そういう所にお金を掛けるつもりはないのかもしれない。
彼らは、お客さんから直接来た苦情に対しては、会って話をしないと駄目なんだそうです。
でも、それくらいのマンパワーがあるなら、最初から自分たちで行って、お客さんの声を聞けばいいのに。

──他の通信事業者、KDDIとかソフトバンクの動きはなにかありましたか。

阿部:なにもありませんでした。私はやっぱりNTTだと思うんです。だから、NTTしか悪口を言っていないですけど、本当はNTT以外も全然ありません。

やっぱりNTTにしっかりして欲しいというのがあるんですね。だから、そういう風に思って、頭に来て電話もしたんですが。

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「食べ物がない」と言うためにも通信が必要になる

──他に「通信があればよかったのに」と感じられたことはありましたか。

阿部:今回よかったのはヘリ対応です。当院は直線で70メートルほど離れた地上にヘリポートがあるんです。これがものすごい役に立ちました。被災から3日目がピークで、1日で63機が着陸しました。上空で常に4台くらい着陸を待っていた感じですね。

実はこの病院は5年前にこの場所に移転新築したのですが、そのときヘリポートを屋上に作らなかったんですよ。これを屋上に作っていたら、エレベータが動いていなかったので、全然対応できなかった。実際、下からは、患者さんを担架で6階まで担ぎ上げた。大人の男が7〜8人くらいでやっても疲れますね。ただでさえ疲れてきた時に、そういう作業があると体力的にものすごいダメージです。

しかし、病院には最初は患者の食料が三日分しかなく、私たち職員の食料は全然なかった。そういう状態で、体力を使う仕事は非常にダメージが大きい。

そういう時に通信が使えないというのが、大きかった。通信が使えれば、こういうのが足りないと、すぐに発信して持って来れるわけです。陸路が無理ならヘリコプターでもいいわけですから。それがどこでも通じないわけです。

▼石巻赤十字病院。ヘリポートが屋上ではなく地上にあったのが、不幸中の幸いだった(撮影日:2011年10月28日)
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──「食べ物がない」ということを表明する手段として通信が必要になります。

阿部:そうです。だから、当院では何日目かに管理栄養士が日本テレビの報道番組に出て、そこで「食料がない」と言ったんですよ。そうしたらそれを、厚生労働大臣や近所の農家も観ていて、食料が集まったんです。情報発信できれば、集まる可能性があるわけです。

──現実として、赤十字病院が様々な面で石巻の拠点として機能せざるを得なかったため、その情報を使ってマスコミを通してのコミュニケーションが機能したのかもしれません。

阿部:とは思いますね。マスコミの人はみんないい人でしたね、なにかちょっと嫌らしい人がいるかなと思ったら誰もいない。それは非常にうれしかったですね。

──それは、阿部さん自身が相当の意識を持たれて、設計され、対応されたが故のことであって、すべての人がそこまでできるかというと難しいかもしれません。

阿部:そうなんですけど。私は今52歳ですけども大学が仙台で、ずっと石巻に暮らしていて、自分の生まれ故郷がこういう風になって、やっぱり悲しいですよ。だけど発信しないと、現状をわかってもらえないですから。病院の名前を出したいとか、そんなことではないのです。

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震災の経験は今後のための「宝の山」

阿部:私の叔母とか親戚が、牡鹿半島にいっぱいいて、幸い命はみんな助かってるんでですけど、家が流されて仮設に入っている人間はいっぱいいますから。数年前に立派な家を建てた私の従兄弟もいるんだけど、かわいそうですよ。

──仮設も環境も十分とは言えません。夏は壁に触れないほど熱くなり、冬は凍り付いてしまう。

阿部:今になって、やっと冬対策をやっています。それも宮城県が一番遅いと言われている。
そういう、震災当日からしばらく経った今も、伝えたいことがいっぱいあります。ですからやっぱり通信ということでは、NTTに対してものすごい腹が立つんですよ。

次に直してくれればいいんですよ。そうすれば、さすがNTTって思います。でも、これまでのように地震のたびに規制して、さもそれが当たり前だと思っているのは大間違いです。優秀な人がいっぱいいるはずなのに、それを変えることいくらでもできるはずなのに。

──課題認識がゼロというわけではないとは思います。どうやって輻輳を回避するのか。それが本当に理論上、無理だとしても、せめて被災地から被災地の外へ情報を出す手段を最低限でもどう確保するのか。そうした技術的方法を研究している人はいますし、今こそ声を大にして言うタイミングだと言うのは、彼らもわかってます。だから僕らも後押ししているんですけど、なかなか大きな流れにつながっていかない。

阿部:この間、地震学会でもやっていましたけど、地震学会では自己批判していますよね。通信でも、ああいうのが必要だと思います。

──言葉は悪いんですが、通信事業者にとって、今回の震災に伴う様々な課題というのは、いわば宝の山のはずなんです。

阿部:そうなんです。例えば災害医学も、やはり言葉は適切でないと思いますが、この災害でしばらく研究できるわけなんですよ。

ただ、医者もいろんな人が来るわけです。医療チームに、偉い教授とか院長とか本来なら救護チームに入らないような人たちが来るんです。何で来るかというと、災害医学界の中で自分が発言力を持つためです。災害医療では現場を見ていないと話にならないので、必ず来るんです。中には、名刺を持ってきて、オレは偉いんだみたいな態度を取って、宿を用意しろという人までいたそうです。

(後編に続く)

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クロサカタツヤ(くろさか・たつや)

株式会社企(くわだて)代表。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)在学中からインターネットビジネスの企画設計を手がける。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、次世代技術推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事。2007年1月に独立し、戦略立案・事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策・ M&Aなどのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を提供している。

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