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ソーシャルメディアは政治を変えているか?(1)

2012.10.01

Updated by Mayumi Tanimoto on October 1, 2012, 08:09 am JST

9月24日から28日まで世界13都市で開催されたソーシャルメディアに関する世界最大のイベントであるソーシャルメディアウィークに行ってまいりました。

ロンドンではファッションブランドのソーシャルメディア活用からLinkedin戦略まで幅広いトピックが議論されましたが、ロンドンでは、「ソーシャルメディアをどの様に使いこなすべきか?」というトピックが中心であった様に思います。これはソーシャルメディアのツールは殆どが北米産であること、ビジネスモデルの殆どは北米発祥であることが関係あるのでしょう。日本の様に言語障壁がありませんので、北米の物をそのまま使ってしまった方が早いわけです。

イベントは色々ありましたが、「ソーシャルメディアは政治を変えているか?」というセッションに参加してきましたので、4回連続でセッションの様子をお伝えしたいと思います。

なんでこのセッションに参加したのかと言いますと、イギリスの有名政治ブロガーである Guido Fawkes 氏(本名は Paul Stainesさん)がパネルとして登場したからであります。

Guido Fawkes 氏はアイルランド系移民の子供でロンドン育ち。元々プロのブラックジャックプレーヤー(そういう職業があるのです。日本風に言うとパチプロですかね)でしたが、シティ(ロンドンの金融街)や香港、日本で金融商品や先物のトレーダーをやり、今はフランスとイギリスをぐるぐる回りながら、政治ブロガーをやっているという非常にミステリアスな方であります。

この方、イギリスで最も人気のある政治ブログであるGuido Fawkes's Blog を運営しています。このブログ、今やその辺のゴシップ紙をしのぐ「政治タレコミブログ」と化しており(今やネットと情報源さえあれば、個人が『一人総会屋』になることができるのです。凄い時代ですね)、イギリスの国会議員の殆どが毎日チェックする<「イギリス政界の恐怖新聞となっております。( Guido Fawkes 氏については後日詳しく書きましょう)

ちなみにこのパネルディスカッション、Guido Fawkes 氏以外は全員政治家や官庁向けにソーシャルメディアコンサルをやっている「コンサルタント」の皆さんで、Guido Fawkes 氏だけが「タレコミ&嫌がらせ」メディアを一人屋台状態で運営しております。

Guido Fawkes 氏は、何となく、メジャーなミュージシャンが集うイベントにぽつんと座っているインディーズのミュージシャン的な雰囲気を漂わせておりました。(そしてイベントの途中で何か用事があったのか、飽きてしまったのかわかりませんが、ディスカッションやってるのに携帯をいじっておりました)

セッションの聴衆には、ワタクシのようなブロガーもおりましたが、政治学の研究者や大企業の広報担当者、非営利団体の広報担当者、環境団体の広報担当者など、実務に携わっている方が多かったためか、かなり鋭い質問が飛び交いました。なお参加者の8割は女性でした。日本だと政治やソーシャルメディア関連のイベント男性が中心なので随分と違いますね。

ソーシャルメディアのおかげで政治家や官僚はごまかすことができなくなった

議論が最も盛り上がった質問は「ソーシャルメディアは政治をどのように変えているのか?」でありました。

ソーシャルメディアが政治に及ぼす影響というと、事例が多い北米の例が取り上げられがちですが、イギリスにも変化の波は押し寄せています。

最も大きな変化は、官僚や政治家はソーシャルメディアで発言などを逐一チェックされるため、ごまかすことができなくなった、という点の様です。

ソーシャルメディアの出現で不正を働く企業が激く追求されることが増えていますが、政治の世界でもその流れは同じなわけです。

BBCや政治家に対するソーシャルメディアコンサルを勤めるSue Llewelyn氏 は、「ソーシャルメディアの基本は『真実』『正直』『透明性』。ネットで様々なことが公開され何でも公開されてしまうので、大きな組織に所属する人の行動が大きく変わった。例えば私がソーシャルメディアのコンサルティングを提供しているBBCの幹部やスタッフは、自分の行動にかなり気をつける様になった。政治家に関しても同じで、自分の発言や行動にかなり気をつけている」と述べています。

一方、 政府や政治家向けのソーシャルメディアコンサルであり、以前は中央官庁で政策アドバイザーを勤めていたAntony Carpen氏は、「ソーシャルメディアの出現で最も大きく変わったことと言えば、不特定多数の人が、ほぼリアルタイムで官僚や政治家の発言をチェックする様になったので、嘘やごまかしが効かなくなった、ということだ。例えば、政治家がスピーチをして統計データなど引用して間違っているとリアルタイムで批判が飛んでくる。官僚や政治家の仕事はますます難しくなっている」と語っています。

Guido Fawkes 氏は「ソーシャルメディアは政治を変えている。例えば、イギリスの選挙戦では資源の多くがビデオでメッセージを伝えることに費やされた。ソーシャルメディアは無料というイメージが多かったが、実は選挙戦に使うにはコストがかかるということに政治家が気がつき始め、お金を使い始めた。伝統的な選挙戦とデジタルがやっとクロスして来た。伝統的な選挙コンサルタントもソーシャルメディアを使い始めている。僕はポスター貼るのをやめて、お金をソーシャルメディアに使えと政治家に口を酸っぱくしていってるんだけども、まあ、まだ理解されにくい点もあるね」と語っています。

イギリスは日本よりは革新的なことをやりますが、北米よりは保守的なので、まだまだソーシャルメディアの重要性を理解していない政治家も少なくないようです。

政治家のソーシャルメディアにおける活動をモニタリングするツールを提供する Yatterbox社の社長であるMatt Freckleton氏は、 Guido Fawkes 氏 と同じくソーシャルメディアは政治を変えている、と語っています。「北米の選挙では莫大な費用がソーシャルメディアに費やされている。ただし、イギリスは北米に比べるとお金も人も限られているから、北米ほどダイナミックなことはやっていない。」と語っています。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。