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空間情報系アプリの限界と可能性(1)おもてナビのチャレンジ

2012.10.19

Updated by on October 19, 2012, 17:47 pm JST

常にユーザーの身体とともにあるスマートフォンは、地表を覆いつつある測位空間のなかで行動センサーとして働き、ユーザーの動きをトリガーに、地図情報をベースとした多種多様なコンテンツを提供する。このように「(スマートフォン)アプリ」「測位空間」「地図情報」は、三位一体で空間情報化を推し進めている。

まずは、我々が手がけた観光アプリ「おもてナビ」の失敗含みの経験を通じて、空間情報系アプリの限界と可能性を見ていきたい。

おもてナビ

「おもてナビ」(http://omotenavi.jp/)とは、2011年4月、観光振興を成長戦略の一つに掲げた秋田市が他地域に先駆けて全面的に採用したまち歩き観光アプリである。まち歩きルート推奨、ルート案内、多言語対応、自動音声再生など多くの機能を搭載している。観光アプリは全国各地に広がりつつあるが、現時点でも一つの典型的なアプリといってよいだろう。

開発コンセプトは、専属ガイドさんがついたかのような丁寧なまち歩きガイド、というもの。2006年の長崎さるく博以来、観光地を自動車で巡る従来の観光スタイルではなく、自動車を降りて自分の足で観光地を歩く「まち歩き」がブームになっていた。

「おもてナビ」を開発するにあたっては、特に外国人に対して、その土地の通訳を兼ねて丁寧にまち歩きガイドをすることを強く意識した。秋田は人気韓流ドラマIRISのロケ地として知られており、秋田~仁川航路が開設されている。また、仙台経由で台湾や中国からの観光客も増えつつあった。

▼おもてナビ画面例
201210191800.jpg

「おもてナビ」を立ち上げると、まず言語選択を行う。すべての画面表示に加え、音声再生も選択言語で行われる。次に、簡単なプロフィールと一緒に、60分、90分、120分...というように空き時間を入力すると、それに合わせてお勧めまち歩きルートをリコメンド。そのうち一つのルートを選んで案内を開始する。地図画面上に「現在地」「周辺施設」「ルート」を表示し、行くべき方向を矢印で示すとともに、ARカメラ画面に切り替えても、周辺施設をエアタグで、行くべき方向を矢印で示していく。

対応OSはアンドロイドを選択した。というのも、大森山動物園など秋田市のなかでもかなり郊外での利用が想定されており、当時の通信状況を考慮するとアイフォンでの対応が難しく、アンドロイドを選択せざるをえなかった。なお、現在はアイフォンにも対応している。

豊富なコンテンツ

このアプリに搭載されている「観光コンテンツ」の数は約1000。多言語対応しているので、総数はこの4倍。なかにはガイドブックにはなかなか載らないB級、C級コンテンツも含まれている。

ARカメラ画面には、目の前の風景にエアタグを浮かべてコンテンツを表示するが、一定のコンテンツの数、さらにいうとコンテンツ密度(コンテンツ数/ルート長)が確保されないと、画面にエアタグが浮かばない時間が長くなり、ユーザーはアプリが壊れていると誤解する。常にエアタグを表示させ続けるためにも、B級、C級コンテンツを取り込む必要が生じる。B級、C級コンテンツとは、非日常で特別な観光施設と一線を画する日常生活の施設や場所である。これらをピックアップして紹介することは、まさに地域資源の開拓であり、ユニークな観光につながる。

一方、「まち歩きルート」の数は約40。観光コンテンツが「点」の情報であるのに対して、まち歩きルートは複数の観光コンテンツを集めて作られる「線」の情報。同じ施設を集めても、紹介の順序が違えば受ける印象はまったく異なる。

このように、ルートに含める施設の選択と紹介の順序には、おもてなしする側の思いや、こだわりが現れる。一つ一つのまち歩きルートは、旅の方法論のようなもので、訪れた人が読み解くべき土地の"物語"ともいえる。「おもてナビ」は、ユーザーの好みにあわせていくつかの物語を推奨するのである。

こうして、「おもてナビ」はきめ細かなガイド機能と、豊富なコンテンツを搭載して2011年4月サービスインした。

予定外の出来事

ところが、予定通り運ばないのが世の常である。

「おもてナビ」は、秋田市の総合的観光戦略、特にインバウンド(来訪外国人)誘致の道具の一つであり、秋田市は他にも多くの施策を投下している。例えば、秋田を知ってもらうため中国・広西テレビ局の人気番組を誘致したり、番組で扱った秋田商材を中国南寧の展示会に出展したり、中国人に実際に来てもらうため秋田観光ツアーを企画したりした。そして、来訪する外国人に対して言葉の障壁を取り払い、秋田の町をきめ細かくガイドするための道具が「おもてナビ」である。情報→モノ→人→おもてなし、という一例の施策の最後を締める道具という位置づけである。

しかし、開発準備を進めていた2010年9月、尖閣諸島中国漁船衝突事件が起こり、中国本土からの観光客が途絶えてしまった。さらに翌年3月、東日本大震災と福島第一原発事故が起こり、来訪者ばかりか外国人居住者も秋田からいなくなってしまった。

インバウンド施策を進め、飛び道具として「おもてナビ」を導入したにもかかわらず、外国人が来ない。さらにその後、「おもてナビ」の付加機能の一つとして、買物などの際、ボタン一つで通訳者につながる多言語コールセンターサービス「言の葉ナビ」を秋田県事業で導入し、おもてなし体制を一層強化した。しかし、現在にいたるまで外国人来訪者は回復していない。

(次回に続く)

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