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悲しんでいるだけではなく解決策を提示せよ

2014.08.25

Updated by Mayumi Tanimoto on August 25, 2014, 05:59 am JST

この所、日本ではメディアにおける自殺報道の姿勢というのが話題になっている様です。イギリスでもロビン・ウイリアムズさんの自殺が話題となっています。

「自殺に関する日本のメディアの姿勢は全然駄目」らしいので、海外メディアのトップページを調べてみたというブログの主さんより「イギリスのメディアにおける報道のトーンと、日英比較文明論を期待する」というご指名を頂いておりますので、イギリスではどんな報道っぷりだったかというのをご紹介します。

上記のブログでも引用されているイケダハヤトさんのブログでは

「自殺の報道を目立つところに掲載したり、過剰に、そして繰り返し報道しない」「著名な人の自殺を伝えるときには特に注意する」なんてあたり......まぁ、日本のメディアではまったくといっていいほど守られていないのが現状です。

という指摘がありました。自殺に関する報道内容とその仕方については、報道に影響を受けて自殺する人が増えることを防ぐためにWHOがガイドラインで注意を呼びかけています。日本でも内閣府がメディアに対するガイドラインを発表しています。

そもそもイギリスの報道というのは日本に比べて熾烈だったりするわけですが、自殺報道に関してもそれは同じです。残念ながらWHOのガイドラインが守られているとは言いがたい状況です。「自殺に関する日本のメディアの姿勢は全然駄目」らしいので、海外メディアのトップページを調べてみたで指摘されている北米のメディアと同じく、ロビン・ウイリアムズさんの自殺に関しては、自殺方法から家族のコメント、私生活に関して、新聞、テレビ、ネットで詳しい情報がトップニュースとして繰り返し報道されました。8月のホリデー時期で他に目立つニュースがなかったということも報道に拍車をかけたのでしょう。

しかし日本とちょっと異なるのが、有名人や一般の人の自殺を報道する際に、ゴシップメディアでも「問題がある場合はこうすれば解決可能とソリューション(解決方法)も報道している点です。

自殺未遂者や自殺者の遺族を支えるにはこういう方法がある
こういう支援団体がある
支援団体のホットラインの電話番号はこれ
こうやれば自殺を防ぐことができる
自殺する人は精神的に追いつめられていることが多い。そのサインはこれ

というのをテレビ、新聞、雑誌で繰り返し繰り返し伝えます。

ロビン・ウイリアムズさんの自殺に関しても、イギリス国内の自殺防止団体や遺族支援団体の人が朝からテレビのニュースに出演し、啓蒙活動を行っていました。

最もしつこく報道していると思われるDaily Mail紙(イギリスの中流保守層向けゴシップ新聞)も、記事の最後に自殺防止ホットラインの連絡先を掲載しています。

イギリスでは年に6,000人ほどが自殺で命を絶ち、その内77%は男性で、40代の自殺が最も多くなっています。人口10万人あたりの自殺率は11人です。日本の場合、警察庁の公式発表による2013年の自殺者数は2万7195人で、男性が約68%、人口10万人あたりの自殺率は21.7人なので、イギリスのざっと2倍です。

イギリスの自殺者の多くは鬱病など精神的な問題を抱えており、自殺を防止することはここでも大きな課題です。しかし、悲しんでいるだけでは問題は解決されないので、予防に力を入れているというわけです。

さらに興味深いのが、家族をもつ人が実名実顔でテレビに出演して自殺を防ぐ方法を呼びかけたり、自分の体験を身も蓋もない感じで語っている所です。語る際にも涙ながらという感じではなく

「こうすれば防げます!」
「私の体験はこうだったけど、今は立ち直って元気にやっています!」

と恐ろしく前向きです。

鬱病を患ったことがあったり、自殺未遂経験のある有名人もわりと気軽に自分の体験をテレビで話したりします。その代表の一人は、イギリスを代表するコメディアンであり劇作家でもあるStephen Fryです。

数年前に放送された自殺に関するドキュメンタリーでは、10代の頃から躁鬱病をわずらっていたことや自殺未遂に関して淡々と話していたので驚きました。2012年には薬剤のオーバードースにより二度目の自殺未遂をし話題になりました。以下の動画では重い躁鬱の状態を詳しく語っています。

イギリスでは元鬱病患者で自殺をはかったことのある方が、今は自殺防止団体の広報担当として積極的に活動していたりします。これは自殺体験者に限ったことではなく、ガンから生還した人や、イジメ体験者、家族を犯罪で失った人が非営利団体のキャンペーン担当になったり、自分の体験をメディアや会合で話したりというのがわりと良くあります。

日本だと実名実顔を公開して自分や家族のことを語るのには躊躇する場合が少なくないと思いますが、ここだとわりとあけすけなく話してしまいます。

話した人やキャンペーンに取り組む人に対する周囲の人々や一般の人々の反応もなかなか興味深いです。ヒソヒソ噂をしたり、嫌がらせをするわけでも、はたまた「かわいそう」と哀れむのではなく、「あなたはとても勇敢(ブレーブ)だ」と褒め称えます。

自分が快適だったりどう思うか表現できるかが重要であって、他人が何をいおうが気にしないという個人主義(もとい自己中)な人が少なくありません。自己中なので、服装がメチャクチャだったり、会議で言いたい放題だったり、大人がスケボーで通勤したり、食べながら歩いてたりと、ちょっと晴れると70代の老人がいきなりリゾートに行く格好をしてオープンカーに乗って爆走、など、とにかくやりたい放題な人だらけです。(ワタクシが言いたい放題で各方面の方を激怒させてしまうのも、ここの人達の影響を受けているためと思われます)

他人はどうでもいいと思っている人が多いので、「この人は何の病気だからどうだ」「この人は自殺未遂したからどうだ」とヒソヒソ言う人は多くはありません。他人の噂話をコソコソするよりも、飲んだくれてた方がいいという人が多いわけです。そもそも普段から自分のことしか眼中にない人が多いので、自分のことを話すことを怖がらない人が多いのでしょう。(むしろ話したがりな人が多い)

職場や学校でも自分や家族の病気や事故のことをあけすけなく話す人が結構いたりします。例えばワタクシのかつての同僚で末期の乳がんを煩っていた女性や、自分の娘がハードドラッグの中毒になり警察に連行された方が、職場でかなりカジュアルな感じで「今こんな状況」と話していたことがありビックリしたことがあります。

しかも、「アタシの飲んでいる薬をみろ」「毛が抜けてハゲになったので、こんなカッコいいバンダナをしてみたがどう思うか」「今回の治療はいくらかかったが保険でいくらカバーされて良かった」「娘が連行された時は何人警察官がきて、俺のマインドはまあこんな感じで超傷心って感じだよ」と聞いてもないのに延々と話して下さいます。

周囲もそれに対して「こんな治療方法があるけどどう」「ここには相談したか」「うちの子供の場合はこうだった」と気軽に話すのでこれまた驚いた経験があります。そして「何々さんが癌だ!みんなサポートしようぜ。治療法とか詳しい奴はどんどん教えろよ。募金先はここだ」「何々さんは娘がアレストされたんで会社を休むぜ。その間のサポートはしっかりやろうぜ」みたいなメールがじゃんじゃん巡回されたりしました。日本だと仮に職場で誰かが「私は末期ガンで」なんて話したら、「あなたは勇敢です」「へい、俺はこの治療法を知ってるぜ」とカジュアルに切り返す人はいないでしょう。

さらに、日本と異なるのが、自殺を防止するための相談窓口や非営利団体の活動がかなり活発なことで、政府だけではなく王室のバックアップも受けていることです。例えばSamaritansは60年前に24時間365日運営している自殺防止ホットラインを開設しました。これは世界最初の一日24時間やっている電話相談で現在はメールや携帯電話のテキストメッセージでも相談を受け付けており、なんと2万人以上のボランティアによって支えられています。

イギリスには膨大な数のチャリティ団体がありますが、Samaritansに限らず様々な団体が王室の支援を受けています。以下はSamaritansの60周年イベントにおけるチャールズ皇太子とStephen Fryのスピーチです。

残念ながらどこの国でも自殺や戦争などは販売数やPV増に繋がるので、ガイドラインがなかなか守られないのが現状ですが、メディア関係者や、ブログやソーシャルメディアで何かを書いている人は、Samaritansのガイドラインが推奨する様に、自殺は社会や周囲にとって大きな損失であり、防止することが可能だ、という前向きな点を強調し、ただ単に悲しむのではなく、解決策や予防策を啓蒙するべきでしょう。

我が国の報道も、個人が書くブログやソーシャルメディアのコメントも、「かわいそうだ」「悲惨だ」「こう思いました」という情緒中心のものが少なくありませんが、何か書くなら「こういう状況ならこうしてはどうか」という前向きな記述が増えると、色々変わるかもしれません。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。