台湾で始まったLTEサービス - 4GプリペイドやCAの先陣を切る台湾大哥大
2014.10.03
Updated by Kazuteru Tamura on October 3, 2014, 16:00 pm JST
2014.10.03
Updated by Kazuteru Tamura on October 3, 2014, 16:00 pm JST
台湾では2014年5月下旬以降に移動体通信事業者各社が相次いでLTEサービスを開始した。LTEサービスが始まって間もない台湾であるが、早くもプリペイドユーザに解放したり、キャリアアグリゲーションの導入を発表したりと、積極的に攻める姿勢を見せる台湾大哥大に今回はフォーカスを当てる。
台湾大哥大は周波数オークションを経てLTE用の周波数として700MHz帯(Band 28) の15Hz幅と1.8GHz帯(Band 3)の15MHz幅を獲得した。700MHz帯は現有の事業者がないが、1.8GHz帯は一部を遠傳電信がGSM方式で使用しており遠傳電信のライセンスが期限を迎える2017年6月までは利用できないことになる。そのため、台湾大哥大はLTEサービスの開始当初は利用制限がない700MHz帯の15MHz幅で展開している。後述するが、追加で700MHz帯の5MHz幅を取得しており、将来的に700MHz帯では20MHz幅で展開することが決まっている。
700MHz帯は1.8GHz帯と比べて広域をカバーするのに有利で、まずはエリア面を充実させるためにも700MHz帯を使用してエリアを構築している。1.8GHz帯については、ライセンスの交付を受けたことで、2014年8月29日より5MHz幅ながら正式に提供を開始している。ただ、1.8GHz帯を追加したとはいえ、当初は台北市、新北市、台中市、高雄市の4都市に限られているため、当分は700MHz帯がメインとなる。
▼台北市内にある台湾大哥大の販売店。台湾大哥大の販売店はブランドをmyfoneとして展開する。
▼台湾大哥大は自社ブランドの端末としてTaiwanMobile Amazingシリーズを投入している。販売店にはLTE方式の通信に対応したTaiwanMobile Amazing P6が展示されていた。ZTE製でタブレットながら音声通話に対応する。
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台湾大哥大は通称Foxconnとして知られる鴻海科技集団(Hon Hai Technology Group)および鴻海科技集団傘下の國碁電子と戦略的提携を締結した。戦略的提携の内容としては台湾大哥大が國碁電子の株式14.9%や國碁電子に割り当てられたLTE用の700MHz帯の一部を買収するほか、鴻海科技集団による台湾大哥大への出資、両社間での移動体通信関連技術の共有などが含まれる。
台湾大哥大と鴻海科技集団および國碁電子の戦略提携に周波数の売買が含まれているが、実はこれには台湾の制度が関係する。簡単にまとめておこう。
台湾ではLTE用として700MHz帯、900MHz帯(Band 8)、1.8GHz帯を解放して周波数オークションが実施されたが、この際に1社が取得する帯域幅の下限や上限および入札単位などのルールが細かく設定された。入札単位はすべての周波数において5MHz幅単位、取得する合計の帯域幅は下限が10MHz幅と定められた。帯域幅の上限については非常に細かいルールが用意された。具体的には入札企業が5社以上の場合は上限が35MHz幅、入札企業が4社の場合は上限が40MHz幅、入札企業が3社以下の場合は上限が45MHz幅と設定された。最終的に入札企業は6社に達したため、上限は35MHz幅が適用されることになった。
それだけではなく、周波数帯ごとにも上限が設定され、700MHz帯は20MHz幅、900MHz帯は10MHz幅、1.8GHz帯は30MHz幅、更に1GHz未満でエリア展開に有利な黄金周波数と呼ばれる700MHz帯と900MHz帯の両方を取得する場合は合計の上限が25MHz幅と決められた。入札単位、各周波数における帯域幅の上限、合計の帯域幅の下限および上限といった、定められたすべての条件に適合するようにしなければならないのである。
ここで國碁電子の話に戻すと、國碁電子は2015年6月末までに亞太電信と合併することが決定している。亞太電信はLTE用の周波数として700MHz帯の10MHz幅を保有しており、國碁電子が保有する700MHz帯の10MHz幅と900MHz帯(Band 8)の10MHz幅を合わせると黄金周波数の上限として定められた25MHz幅を超えてしまう。そのため、5MHz幅は手放さざるを得ない周波数であったのである。
中華電信はすでに35MHz幅を保有しているため、既存の移動体通信事業者に売却するのであれば、売却先としては台湾大哥大、遠傳電信、台湾之星電信の3社に限られた。國碁電子が取得した900MHz帯は最上範囲であるため、隣接する移動体通信事業者は下側の中華電信のみとなり、700MHz帯は上側が台湾大哥大と、下側が遠傳電信と隣接している。そのため、700MHz帯の5MHz幅を隣接した移動体通信事業者に売却することが買収側にとって都合が良かったのである。
鴻海科技集団は提携に名乗り出た各社と協議したが、傘下の國碁電子への出資などを含めた諸条件において台湾大哥大と提携することで決定したという。台湾大哥大は700MHz帯において連続した20MHz幅を取得することに成功したのである。
▼台北市内にある亞太電信の販売店。亞太電信は國碁電子と合併する予定で、これが台湾大哥大への周波数売却とも関連している。
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先述の通り、台湾大哥大は2014年8月29日より1.8GHz帯の5MHz幅をLTEサービスで利用を開始した。5MHz幅に限定されながらも、すべての利用制限解除を待たずに1.8GHz帯の使用を開始したのには理由がある。LTE-Advancedの主要技術であるキャリアアグリゲーションを導入するためだ。700MHz帯と1.8GHz帯のキャリアアグリゲーションはCA_3-28が規定されており、キャリアアグリゲーションを適用することで、最大の通信速度は700MHz帯のみの下り最大112.5Mbpsから下り最大150Mbpsまで高速化できるのである。
ただ、このプランには変化が生じた。台湾大哥大は國碁電子から5MHz幅を取得したことで700MHz帯において連続した20MHz幅で提供可能であるため、キャリアアグリゲーションを導入しなくても下り最大150Mbpsとなる。
台湾大哥大の発表からは、好環境における実測値は700MHz帯で約140Mbps、キャリアアグリゲーション適用時で約180Mbpsに達するとしており、700MHz帯は連続した20MHz幅で下り最大150Mbps、そしてキャリアアグリゲーションは700MHz帯の20MHz幅と1.8GHz帯の5MHz幅で計25MHz幅として下り最大187.5Mbpsを提供する方針に変更したことが読み取れる。一方で開始時期については当初2014年9月と表明していたが、2014年第4四半期に延期しており、プランの変更が提供時期に影響したものと考えられる。キャリアアグリゲーションを導入するという点に変更はないが、中華電信もキャリアアグリゲーションを準備中であり、商用化は先を越される可能性もある。
台湾ではLTEサービス開始当初はどの移動体通信事業者もポストペイドのみにLTEサービスを提供していた。ところが、台湾大哥大は2014年9月1日よりプリペイド向けにLTEサービスの提供を開始したのである。もちろん、台湾でプリペイド向けにLTEサービスを提供するのは台湾大哥大が初めてである。これによって、訪台外国人でも簡単に台湾大哥大のLTEサービスを利用することが可能となる。
台湾大哥大のLTEサービスにおいては、世界的にメジャーな1.8GHz帯はエリアが限定的であるため、メインとして展開する700MHz帯に対応した端末を用意する方が望ましいだろう。また、LTE対応のプリペイドSIMを取り扱っていない店舗が存在するため注意が必要である。
▼台湾大哥大の4GプリペイドSIMカード。訪台外国人でも手軽に台湾大哥大のLTEネットワークを利用できるようになった。
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台湾の移動体通信事業者の中は最初にキャリアアグリゲーションの導入を表明し、LTEサービスをプリペイド向けに解放するなど、攻めの姿勢を見せ続けている。
周波数の追加取得によってキャリアアグリゲーションのプランに変更はあったが、キャリアアグリゲーションを適用せずに下り最大150Mbpsを実現できることや、キャリアアグリゲーション適用時は最大の通信速度を高速化できるということを考えると、これについても前向きに考えて問題ない。台湾の移動体通信業界はLTEの新時代に突入するとともに再編の動きを見せており、それ故に台湾大哥大を含めて動きが目まぐるしくなっている。移動体通信事業者による競争が激しくなることは必至で、各社が繰り出す次の手にも期待したい。
▼台湾大哥大の販売店内には屋内基地局を設置して通信速度が出やすくしている場合もある。実測値で100Mbpsを超えているが、700MHz帯が20MHz幅になれば更に高速化が期待できる。
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登録はこちら滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。