ミャンマーの携帯電話事情(2) - 4社のプリペイドSIMを購入して試す
2015.01.05
Updated by Kazuteru Tamura on January 5, 2015, 18:30 pm JST
2015.01.05
Updated by Kazuteru Tamura on January 5, 2015, 18:30 pm JST
ミャンマー連邦共和国(以下、ミャンマー:旧称、ビルマ)では一昔前まではSIMカードが非常に高額であり、手の届かない存在であった。国際電気通信連合(ITU)による調査では2012年末時点におけるミャンマーの携帯電話普及率は約10%と非常に低いが、SIMカードの入手が困難であったことは携帯電話普及率が低い水準に留まった一因に違いない。
ところが、ミャンマーでは格安なSIMカードの販売が開始されてから、ミャンマーのSIMカード事情は大きな変化を迎えた。これによりミャンマーを訪問する外国人にとってもSIMカードが買いやすくなった。
これまでミャンマーのSIMカードは日本円換算で数万円以上と非常に高価でであったという。
軍事政権時代は情報統制の目的でSIMカードを購入する際のハードルを高くしていた影響もあり、一般のミャンマーの人々にとって気軽に買えるようなものではなかった。2013年4月24日に防衛省を通じて軍が経営するMyanmar Economic Corporation(以下、MEC)がブランドをMECTelとして1500ミャンマーチャットでSIMカードの販売を開始した。1500ミャンマーチャットは日本円換算で約150円と低価格であり、ミャンマーの人々にとっても購入しやすい価格となったが、SIMカードが買いやすくなったことでユーザが一気に増えると、ネットワークのキャパシティなどに問題が発生する可能性があるため、MECTelのSIMカードは抽選方式で枚数を限定して販売された。また通信方式はキャパシティに余裕があるという理由でCDMA2000方式のみとなった。価格面では買いやすくなったものの、抽選方式を採用したために誰もが買える状況ではないことには変わりなく、プレミア感が高まって転売によるSIMカードの価格高騰も招いのだ。
2014年8月には新規参入のOoredoo Myanmarが、2014年9月には国営企業のMyanma Posts and Telecommunications(以下、MPT)と新規参入のTelenor Myanmarが相次いで1500ミャンマーチャットの格安なSIMカードの一般販売を開始し、抽選ではなく誰でも簡単に買い求められる状態となった。(関連情報:ミャンマーで始まった携帯電話市場の"垂直拡大"(TIME&SPACE ONLINE))
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ミャンマーではSIMカードの購入が簡単になったこともあり、ミャンマーを訪問する外国人でも容易にプリペイド式のSIMカードを購入できる。筆者が訪問したヤンゴン市内では各移動体通信事業者の直営店、独立した携帯電話販売店、路上の屋台、空港のブースなど、ありとあらゆるところで販売されており、SIMカードの入手には困らない。ただ、路上の屋台では定価に上乗せして販売している場合が大半であり、定価で購入したい場合は移動体通信事業者の直営店や空港のブースで購入する方が無難である。
ヤンゴン国際空港から入国する場合は、空港内のブースでSIMカードを買えば市内に出る前から利用することが可能で、また市内で販売店を探す必要もないため、ここで買っておけば効率的だろう。
ブースのある位置は国際線到着階で、MPT、Ooredoo Myanmar、Telenor MyanmarのSIMカードを購入できる。MPTはASIA MEGA LINKのブース、Ooredoo MyanmarはTOURIST INFORMATION COUNTERのブース、Telenor Myanmarは専用のブースにてSIMカードを販売している。MPTとTelenor Myanmarは各ブースに移動体通信事業者のロゴが出ているので分かりやすいが、TOURIST INFORMATION COUNTERのブースはOoredoo MyanmarのSIMカードを販売しているとは少し分かりにくいかもしれない。
筆者は朝と夕方の時間帯にヤンゴン国際空港の各ブースを調査したが、いずれの時間帯もASIA MEGA LINKのブースだけ営業していなかった。SIMカードの在庫や営業時間によっては、ヤンゴン空港でSIMカードを購入できない場合もあるとのことで、注意しておきたいところである。
ミャンマーでは1番人気がMPT、その次がTelenor Myanmar、そしてOoredoo Myanmarの人気が低い。これは路上の屋台など転売屋が販売する価格を見ても分かるが、MPTが圧倒的に高く、次いでTelenor Myanmar、Ooredoo Myanmarの順となっている。Ooredoo Myanmarは人気がないために、扱っていない転売屋も少なくない。Ooredoo Myanmarは親会社のOoredooがイスラム教国のカタールを拠点とするために一部の過激な仏教徒がミャンマーへの参入に抗議したこと、ミャンマーでサービス開始時にネットワークの障害を起こしたこと、MPTやTelenor Myanmarとは異なりGSM方式を導入しないことなどネガティブな情報が多く、それが人気の低さに反映されているものと思われる。
▼ヤンゴン国際空港にあるASIA MEGA LINKのブース。
▼路上のSIM売り。価格はMPTが高く、Ooredoo Myanmarは取り扱っていなかった。
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ミャンマーで最も人気が高い移動体通信事業者はMPTである。これまでミャンマーで長く移動体通信サービスを提供してきた実績もあり、認知度やエリア面では群を抜いている。路上の屋台ではMPT、Ooredoo Myanmar、Telenor Myanmarの3社のSIMカードがあちこちに並べられているが、価格は高い順にMPT、Telenor Myanmar、Ooredoo Myanmarである。いずれも定価は15000ミャンマーチャットであるが、MPTはずば抜けて高い価格に設定されていることからも、いかに人気であるか窺える。
MPTはKDDIや住友商事と共同事業を行うことになり、新体制となってからはロゴの刷新や直営店としてヤンゴン中央郵便局内にYangon GPO MPT Boothを設置するなど、動きが目まぐるしくなっている。せっかくなので、MPTのSIMカードはYangon GPO MPT Boothで購入することにした。Yangon GPO MPT Boothの運営が開始した直後はSIMカードを求める多くの客ですぐに完売していたようであるが、筆者が午前中に訪問した際はわずかな在庫が残っており、SIMカードを購入することができた。それでも在庫がわずかということから、開店時間の直後には相当な客が買い求めていたのだろうと推察できる。
外国人がSIMカードを購入する際には、パスポートと査証の番号が必要である。査証の番号はパスポートに貼付または記載されているため、パスポートを提出しておけば問題ない。SIMカードは1500ミャンマーチャットであるが、データ通信を利用するためにはデータ通信開通料の10000ミャンマーチャットとトップアップが追加で必要となる。トップアップは10000ミャンマーチャット分を購入したため、支払総額は21500ミャンマーチャットとなった。データ通信開通はSMSで1331宛にOrderdata serviceと送信する。データ通信のパッケージは用意されておらず、GSM方式で1分あたり2ミャンマーチャット、W-CDMA/CDMA2000方式で1分あたり4ミャンマーチャットとなる。APNはmptnet、ユーザ名はmptnet、パスワードは0000である。
▼ヤンゴン中央郵便局内に設置されているYangon GPO MPT Booth。
▼MPTの直営店に残っているSIMカードの在庫は少なかった。
▼MPTのSIMカードのパッケージ。ロゴは新しくなっている。
▼MPTのSIMカード。左が旧デザイン、右が新デザイン。
▼MPTのトップアップ用のカード。新生MPTのLAUNCH EDITIONとなっている。
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Ooredoo MyanmarのSIMカードは、TOURIST INFORMATION COUNTERで購入した。パスポートなど身分証明書の提示は求められることなく、SIMカードとトップアップの購入分を伝えれば、すぐに購入することができた。
Ooredoo Myanmarはデータ通信のパッケージを用意している。ブースでデータ通信のパッケージに関する案内はなかったが、あらかじめ把握していたのでSIMカードとトップアップの購入後にデータ通信のパッケージを申請した。SIMカードは1500ミャンマーチャット、トップアップは15000ミャンマーチャット分を購入したため、支払総額は16500ミャンマーチャットとなった。データ通信のパッケージはInternet Packとして用意されており、ダイヤル画面から特定の番号に発信または*133#でUSSDコードの実行、もしくは2238宛にSMS送信で申し込むことができる。Internet Packの種類は有効期間24時間でデータ通信容量が50MB、有効期間が30日でデータ通信量が500MB、1GB、2GB、5GB、10GBの計6種類である。料金は順に390ミャンマーチャット、3900ミャンマーチャット、6900ミャンマーチャット、12900ミャンマーチャット、29900ミャンマーチャット、55900ミャンマーチャットとなっており、筆者は有効期間が30日でデータ通信量が1GBのプランを選択した。APNはooredoo、ユーザ名はooredoo、パスワードは空欄で問題ない。
▼ヤンゴン国際空港にはOoredoo Myanmarの広告が見られる。
▼Ooredoo MyanmarのSIMカード。
▼ショッピングモールではOoredoo MyanmarがイベントスペースでSIMカードなどを販売していたが、閑散としていた。
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Telenor Myanmarはヤンゴン国際空港の専用ブースにて購入した。身分証明書はパスポートを提示した。ブースにはTelenor Myanmarのパンフレットが置かれており、スタッフが開通作業とまとめてデータ通信のパッケージも申請してくれた。SIMカードは1500ミャンマーチャットで、トップアップは10000ミャンマーチャット分を購入したため、支払総額は11500ミャンマーチャットである。
通信速度によってデータ通信料が異なっており、My Internetプランの最大300kbpsであれば1MBあたり6ミャンマーチャット、Smart Internetプランの最大2Mbpsであれば1MBあたり10ミャンマーチャットとなる。デフォルトではMy Internetプランとなるが、SMSで500宛にsmartと送信するとSmart Internetプランに加入し、高速なデータ通信を利用できる。データ通信のパッケージはMy InternetプランとSmart Internetプランでそれぞれ用意されており、データ通信を利用する場合はパッケージを申し込んだ方が割安である。パッケージの種類はMy Internetプランにおいて有効期限が7日でデータ通信料が100MBのMy Internet weekly pack、有効期限が30日でデータ通信料が500MBのMy Internet monthly pack、Smart Internetプランにおいて有効期限が30日でデータ通信料が1GBのSmart Internet monthly packの計3種類が用意されている。申し込みはSMSで500宛にそれぞれmyweek、mymonth、smartmonthと送信する。料金は順に500ミャンマーチャット、1900ミャンマーチャット、6600ミャンマーチャットとなる。APNはinternet、ユーザ名とパスワードは空欄で問題ない。
通信速度はSmart Internetプランで最大2Mbpsとされているが、実際に通信速度を測定したところ下りが10Mbpsを超えることもあった。
▼ヤンゴン国際空港にあるTelenor Myanmarのブース。
▼Telenor MyanmarのSIMカード。
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MECTelのSIMカードは軍が経営するMECによって抽選方式で販売されたもので、あまり出回っていない稀少なSIMカードである。仮に転売されていたとしても高価な場合が多いが、筆者はMECTelのSIMカードを入手することができた。ミャンマーではCDMA2000方式のネットワーク構築にELITE TECHグループが参画しており、その関係でELITE TECHグループが運営する携帯電話販売店では購入できる場合がある。
任意の番号に発信するとSIMカードが開通されて、開通が完了したことや残高が300ミャンマーチャットであることを知らせるSMSを受信した。233宛にSMSでOpen EVDOと送ることで、データ通信を利用できる。APNは#777、ユーザ名はcard、パスワードはcard、認証タイプはPAP or CHAPである。MECTelのSIMカードは流通時期によってAPNが異なっているので、利用する際はパッケージを熟読するなど注意しておきたい。
通信方式はCDMA2000方式で、一般的に出回っているSIMロックフリーのスマートフォンは対応していない場合が多い。筆者はCDMA2000方式に対応したSIMロックフリーのスマートフォンを所有していなかったため、わざわざヤンゴン市内で購入してMECTelを試した。また、MECTelのSIMカードそのものやトップアップの流通量が少ないため、入手することは難しい。そのためMECTelを選択する特別な事情がないのであれば他社を選ぶべきだろう。
ただ、ミャンマーの移動体通信を語る上ではMECTelは外せない。MECは移動体通信用の周波数を保有していないのでMPTが保有する周波数を使用するが、設備はMECが設置してサービスを展開している。サポートの窓口もMEC独自のものであり、MPTとは異なるサービスと認識して問題ない。
周波数を保有しない軍系の企業がこのような形態でサービスを提供していることは、ミャンマーの軍事政権時代の名残であり、ミャンマーならではとも言える。ミャンマーの民主化や解放は日本を含めた世界から注目されているが、長期に渡った軍事政権時代の影響でいまだに軍系の企業が多く、MECもその一つであることはおさえておきたい。
▼筆者が入手した新デザインのMECTelのSIMカード。
▼旧デザインのMECTelのSIMカード。独立した携帯電話販売店で発着信の試験用に使われていた。
▼MECTelのSIMカードを開通するとSMSを受信した。
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ヤンゴン市内ではMPT、Ooredoo Myanmar、Telenor Myanmar、MECTelのSIMカードを使用したが、エリア面では総じてMPTが強い印象である。やはり、MPTはOoredoo MyanmarやTelenor Myanmarが参入する前からサービスを提供しており、エリア面については有利である。新規参入の2社はミャンマー市場に参入したばかりであり、ヤンゴン、ネピドーおよびピンマナ、マンダレーといった主要都市のみを提供エリアとするため、地方に出ればMPTの強さはより際立つだろう。
ただ、MPTはエリア面では強い印象であったが、圏外にならないだけでありGSM方式で接続されることも多かった。また、HSPA+方式で接続されていても、通信速度が遅くて実用的には使えないシーンも少なくなかった。郊外に出ると1Mbps前後まで出ることはあったが、ヤンゴンの市街地では500kbpsも出ないことが多かった。
一方でOoredoo MyanmarやTelenor Myanmarは下りが1Mbpsを超えることもしばしばあり、Telenor Myanmarについては郊外で10Mbpsを超えることもあった。それでもヤンゴンの市街地では上りが致命的に遅く、データのアップロードに失敗することもあった。また、屋内に入ると圏外になるようなことも多く、エリア面ではまだまだMPTに及ばないことを感じさせた。現状のミャンマーではMPT、Ooredoo Myanmar、Telenor Myanmarの3社とも不安定な場所はあったが、2社が不安定であっても1社は使えるようなことも多かった。そのため、3社のSIMカードを買っておけば、ひとまず安心できるという印象を受けた。なお、MECTelはすべてのエリアで800MHz帯を使用しているためか、ヤンゴン市内では圏外となることは非常に少なかった。
エリア面についてはMPTが他社に比べて優位であるが、すべての移動体通信事業者においてエリアや通信速度の面で大幅な改善の余地があり、特にMPTはユーザが多いだけあってキャパシティに余裕が少ないように感じた。ただ、MPTはキャパシティの増強を発表しており、他社よりも保有する帯域幅が広い。また、KDDIや住友商事と共同事業を行っており、MPTのネットワークが日本品質となることにも期待したい。
▼ヤンゴンの市街地でMPTのネットワークの通信速度を測定した。ヤンゴンの市街地ではMPTに限らず、どの移動体通信事業者も通信速度が遅かった。
▼Ooredoo Myanmarは下りの速度が実用的に使える範囲であっても、上りが使えないに等しいことも少なくなかった。
▼ヤンゴンの郊外ではTelenor Myanmarが上り・下りともに最も通信速度が速かった。
▼ヤンゴン市内に建てられている基地局。
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登録はこちら滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。