台湾でFoxconn傘下の國碁電子が提供する4G LTEサービスを試す
Try 4G LTE service provided by AMBIT Microsystems, a subsidiary of Foxconn in Taiwan
2015.07.23
Updated by Kazuteru Tamura on July 23, 2015, 12:25 pm JST
Try 4G LTE service provided by AMBIT Microsystems, a subsidiary of Foxconn in Taiwan
2015.07.23
Updated by Kazuteru Tamura on July 23, 2015, 12:25 pm JST
通称Foxconnとして知られるFoxconn Technology Group(鴻海科技集団:以下、Foxconnグループ)傘下で台湾の移動体通信事業者である國碁電子(AMBIT Microsystems)は2015年5月15日より移動体通信サービスを開始した。國碁電子の移動体通信サービスはLTE方式のみであり、音声通話はVoLTE(Voice over LTE)のみとなる。國碁電子が移動体通信サービスを開始するに至った経緯の詳細は前々回と前回の記事を参照されたいが、國碁電子による移動体通信サービスはあくまでも暫定的で、2015年末には亞太電信(Asia Pacific Telecom)を存続会社として亞太電信と統合する計画である。計画通りに進めば國碁電子としての移動体通信サービスは短命なものであるが、筆者は台湾・台北市に渡航して國碁電子の移動体通信サービスを試したので紹介する。
國碁電子はポストペイドプランのみ用意し、プリペイドプランは提供していない。台湾から見た外国人が契約する場合は、同一国・地域から発行された2種類の身分証明書を提示し、さらには台湾人の保証人をつける必要がある。契約には台湾人の力を借りなければならないため、外国人が自力のみで契約することはできない。
しかし、台湾の移動体通信事業者各社はLTEサービスを7日間だけ無料で試せる施策を用意しており、國碁電子も例外ではなく七日數據試用産品として提供している。七日數據試用産品はその名の通り7日間だけデータ通信を試すことが可能で、有効期間の7日間はデータ通信を無制限に利用できる。7日間の試用サービスを複数の移動体通信事業者で同時に申し込むことで各社のLTEネットワークを比較して契約前の参考にできるが、一部の移動体通信事業者は台湾人のみを対象とするため外国人の利用は断られる場合がある。なお、音声通話は利用できないため、國碁電子が台湾で初めて商用化したVoLTEによる音声通話は試せない。國碁電子の場合は同一国・地域から発行された2種類の身分証明書を提示すれば外国人でも七日數據試用産品の利用を可能としており、筆者は七日數據試用産品を申し込むことにした。
筆者は日本国旅券(パスポート)と国際運転免許証を提示した。国際運転免許証は原則としてジュネーブ条約に加盟する国・地域において有効で、ジュネーブ条約に非加盟の国・地域では運転免許証としての効力はないものの、企業が独自に身分証明書としての利用を認めている場合がある。台湾はジュネーブ条約に非加盟であるが、國碁電子は国際運転免許証を身分証明書として利用することを認めているため、日本国旅券と国際運転免許証の提示で七日數據試用産品を申し込めた。なお、一般的な日本の運転免許証は利用できないので注意が必要である。申込書には台湾での滞在場所の所在地や連絡先を記入する欄があり、記入を求められた場合は宿泊場所の情報を記入する。なお、七日數據試用産品の利用は3年に1度と定められている。2015年末に亞太電信と統合して消滅する予定の國碁電子で利用できるのは、実質的には1度限りとなる。
▼國碁電子の直営店内では7日間だけ無料でデータ通信を試せることを告知している。
▼國碁電子のSIMカード。1枚でMini SIM (2FF)サイズ、Micro SIM (3FF)サイズ、Nano SIM (4FF)サイズの3種類に切り抜けるため、サイズに関する心配は不要である。
國碁電子は移動体通信サービスの開始と同時に台湾全土に3ヶ所の取扱店を開設した。台北市に台北光復直営服務中心として直営店を1ヶ所、台中市に台中復興服務中心として代理店を1ヶ所、高雄市に高雄裕誠服務中心として代理店を1ヶ所、合計で3ヶ所となっている。
台北光復直営服務中心は國碁電子唯一の直営店で、亞太電信の直営店である光復直営中心を改装して國碁電子の直営店とした。亞太電信は2014年12月にLTEサービスの開始に合わせてブランド名をA+WorldからGtに変更し、それに伴って亞太電信の直営店は一斉にGtのデザインに改装されたが、亞太電信の光復直営中心はそれから半年足らずで再改装されたことになる。改装を知らない顧客が訪問することを想定し、ドアには最寄りの亞太電信の取扱店を案内する張り紙が見られた。台中復興服務中心と高雄裕誠服務中心は亞太電信の直営店内に併設されており、亞太電信が代理で業務を行う。
筆者は台北光復直営服務中心で七日數據試用産品を申し込んだ。身分証明書を提示して申込書の記入を済ませると、すぐに國碁電子のSIMカードを受け取ることができた。ただ、開通の処理に時間がかかることがあり、筆者の場合はSIMカードの受け取りから約10分で開通が完了してデータ通信の利用が可能となった。APNはinternetと設定しておく必要がある。
▼國碁電子の直営店。
▼國碁電子の直営店のドアには最寄りの亞太電信の取扱店を張り紙で案内している。
▼國碁電子のLTEネットワークに接続。データ通信専用のSIMカードであるため、音声通話が利用できないが、そのような状態ではアンテナピクトが表示されない場合がある。データ通信は問題なく利用できる。事業者名はPLMN番号で46612と表示される場合もある。
國碁電子はInFocus M810 VoLTE版本とGt MHS-102を販売しており、この2機種が動作保証対象となる。なお、InFocus M810 VoLTE版本はFoxconnグループ傘下のFIH Mobile製で、Gt MHS-102はFoxconnグループ傘下の鴻海精密工業(Hon Hai Precision Industry)製である。國碁電子としては自社の移動体通信サービスを利用する場合は原則として動作保証対象の端末を使用することを推奨しており、移動体通信サービスの申込書にはその旨を記載している。
國碁電子は移動体通信用の周波数としてLTE用に割り当てられたAPT700 FDDと呼ばれる700MHz帯(Band 28:以下、Band 28)と900MHz帯(Band 8:以下、Band 8)を保有するが、移動体通信サービスの開始当初はBand 28において5MHz幅のみを使用する。LTE方式でBand 28を採用する移動体通信事業者は増加しており、対応端末は急速に増加しているが、國碁電子の移動体通信サービスはLTE方式のみで、音声通話はVoLTEのみと特殊な状況であるためか、Band 28のLTE方式に対応した端末でもデータ通信すら利用できない場合があることを確認した。また、利用できた場合でも圏外から復帰しないなど不安定な状態となることが少なくなかった。そのため、國碁電子の移動体通信サービスを利用するためには、國碁電子が案内するように動作保証対象の端末を使うことが望ましいと言える。
筆者は國碁電子の移動体通信サービスを試すにあたり、InFocus M810 VoLTE版本を購入した。余談ではあるが、國碁電子の広報によると七日數據試用産品を申し込み、InFocus M810 VoLTE版本を購入していく日本人は筆者が初めてとのことである。
▼筆者が購入したInFocus M810 VoLTE版本。
▼七日數據試用産品の申込書にも利用端末に関する注意が記載されている。
▼國碁電子の手提げ袋は手作りとなっており、無地の紙製手提げ袋にロゴタイプが貼り付けられている。
國碁電子の移動体通信サービスは開始当初の提供エリアが台湾本島の北部のみに限定されており、2015年7月中旬の時点では台北市・新北市・基隆市・桃園市・新竹市・新竹県である。台中市や高雄市は移動体通信サービスの提供エリア外となっており、國碁電子の提供エリア内に位置する取扱店は唯一の直営店である台北光復直営服務中心のみとなる。
台湾滞在中は國碁電子をメインとして利用したが、圏外となってしまうことも多かった。特に地下は圏外となることが多く、大型デパート内や台湾桃園国際空港のターミナル内でも圏外となることが少なくなかった。一方で、屋外では圏外となることは少なく、台北市内と台湾桃園国際空港を結ぶ高速道路において桃園市内の一部で圏外となった程度である。
大型デパートや国際空港でも國碁電子の屋内基地局は設置されていなかったが、國碁電子による移動体通信サービスの開始日と同日に台北市内でオープンした三創生活園区(SYNTREND)には屋内基地局が設置されており、三創生活園区内では國碁電子の移動体通信サービスを快適に使えた。なお、三創生活園区はFoxconnグループ傘下の三創数位(Sanchuang Digital)が運営を手掛ける商業施設で、國碁電子の移動体通信サービスの開始を発表する記者会見は三創生活園区に入居する亞太電信の体験館で実施された。
國碁電子の移動体通信サービスはLTE方式で帯域幅が5MHz幅のみとなるため、通信速度の理論値は下り最大37.5Mbps/上り最大12.5Mbpsである。通信速度を測定すると台北市内の中心部でも昼夜問わず下りは30Mbps近く、上りは10Mbps近く出ることも多く、また応答速度は概ね10〜30ms台で安定していた。提供エリア内では概ね快適に利用できたが、國碁電子の利用者が非常に少ないことは想像に難くない。
國碁電子は帯域幅が限られておりかつ亞太電信との統合を計画しているため、統合前から亞太電信の周波数範囲を利用する可能性が指摘されており、一部の移動体通信事業者の幹部はこれを牽制する声明を出した。筆者は國碁電子は自社が保有する周波数のみ使用していることを確認している。
▼國碁電子の直営店内にエリアマップが掲示されている。色が塗られている部分が提供エリアであるが、左の台湾全土のエリアマップを見ると提供エリアが非常に狭いことが分かる。
▼國碁電子の移動体通信サービスの開始を発表する記者会見が実施された三創生活園区内の亞太電信の体験館。三創生活園区内は國碁電子の屋内基地局が整備されている。
▼國碁電子のLTEネットワークで通信速度を測定した。
Foxconnグループは早期に傘下の亞太電信と國碁電子を統合し、國碁電子が単独で移動体通信サービスを提供することは避ける計画であった。しかし統合案は国家通訊伝播委員会に却下されて統合の延期が必至となった。(関連記事:Foxconn傘下となる計画の亞太電信 – 台湾大哥大のネットワーク利用が問題に )
しかし國碁電子は2015年6月3日までに移動体通信サービスを開始しなければライセンス剥奪となるため、ライセンス剥奪を回避するために単独で移動体通信サービスを開始する必要があった。ただ、あくまでも暫定的なものであるために國碁電子としては多くの加入者を集めようとは考えていない。そのため、取扱店や動作保証対象の端末が極端に少なく、提供エリアが狭くても國碁電子としては問題ない。國碁電子は取扱店が台湾全土において3ヶ所のみでそのうち直営店は1ヶ所のみ、動作保証対象の端末は2機種のみ、移動体通信サービスの提供エリアは台湾本島の北部のみと、一見するとやる気がないような印象を受けるのはそのためだろう。
Foxconnグループにとっての本番は國碁電子と亞太電信の統合後であり、水面下では着実に準備を進めている。現在、亞太電信のLTEサービスは完全に台湾大哥大(Taiwan Mobile)のネットワークにローミングしており、亞太電信が保有するLTE用の周波数では商用サービスを提供していないが、亞太電信が保有するLTE用の周波数ではVoLTE対応のLTEネットワークを構築している。VoLTE対応のLTEネットワーク自体はすでに台湾の複数都市で試験運用しており、また國碁電子の提供エリア外である台中市や高雄市でも試験運用中である。
國碁電子の移動体通信サービスの開始を発表する記者会見では國碁電子のVoLTE同士の発着信、亞太電信のVoLTE同士の発着信、國碁電子のVoLTEと亞太電信のVoLTE間の発着信、國碁電子のVoLTEと亞太電信がローミングで使用している台湾大哥大のCSFB間の発着信を比較するデモンストレーションが実施された。発信側と着信側の両方がVoLTEの場合は呼び出し時間が約1秒、発信側または着信側のいずれかがVoLTEでない場合は呼び出し時間が4秒以上と素早い発着信をアピールしたが、このデモンストレーションでは國碁電子のみならず亞太電信もVoLTEの準備を着実に進めていることが確認できる。もっとも、亞太電信は2種類のLTEサービスのエリアマップを公開しており、台湾大哥大のネットワークを利用したローミングのエリアマップに加えて、亞太電信が構築したVoLTE対応のエリアマップを公開している。亞太電信がVoLTE対応のLTEネットワークを構築していることは以前より示していたが、デモンストレーションを通じて改めてそれを誇示したことになる。
國碁電子と亞太電信の統合が完了すれば、両社のネットワークは一つに統合される見通し。亞太電信が着実にVoLTE対応のLTEネットワークを構築する一方で、動作保証対象の端末や提供エリアが限定的ながらも國碁電子が台湾で最初にVoLTEを商用化したことで、問題点を早期に発見および解消してノウハウを蓄積できる。國碁電子の移動体通信サービスはFoxconnグループにとっては試験的な商用サービスと言えるかもしれない。
國碁電子と亞太電信の統合は國碁電子が消滅会社となる予定であるが、國碁電子を通じて培ったノウハウは必ず統合後に生かされるはずであり、國碁電子のDNAは消えることなく亞太電信に受け継がれるだろう。
▼InFocus M810 VoLTE版本に國碁電子の音声通話対応SIMカードを挿入するとVoLTEを利用できる。通知バーにはVoLTEと表示される。國碁電子が台湾で初めてVoLTEを商用化した。
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登録はこちら滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。