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センサー、無線、LED、ナノテクが実現する「ミクロの決死圏」

想像する映画,創造する技術 #2

2015.10.02

Updated by Masato Yamazaki on 10月 2, 2015, 17:00 pm JST

FantasticVoyage_75TH_SD_R1(c) 1966 Twentieth Century Fox

資本主義陣営と社会主義陣営の、にらみ合いが続いた東西冷戦の時代。実際には、ただにらみ合っていたわけではなく、軍備拡張が進行していた。特に核開発と宇宙開発は、どちらが覇権を握るかで、しのぎを削っており、その熱量だけで地球が滅亡するのではないかと思ってしまうくらいの勢いがあった。

軍備拡張に歯止めが効かず一触即発の緊張感が漂う1966年に、ミクロスケールでアメリカの想像力を顕示した映画が『ミクロの決死圏』(Fantastic Voyage)である。古い映画なので、特撮映像に微笑ましい感はあるが、SFとサスペンスの要素がふんだんに盛り込まれており、ストーリーは古くならない名作である。

20151002-yamazaki-2(c) 1966 Twentieth Century Fox

脳内出血を起こした博士を救うため、医療班を乗せた原子力潜水艇がミクロに縮小し、体内に注入される。タイムリミットは1時間。幾多の苦難を乗り越え、潜水艇は博士の脳に到達、レーザー光線で治療をする。要約するとこのような話である。この101分の映画に、当時の空想技術やアイデアが、ふんだんに登場している。

20151002-yamazaki-3(c) 1966 Twentieth Century Fox

医療班を乗せた潜水艇(本編37分)を彷彿させる装置が『カプセル内視鏡』として2001年には、米国、欧州で承認されている。ただし、ミニチュア機動隊は乗っていない。

ギリシャ・ローマ時代の痔治療から始まった体内を見るという欲求は、1800年代の患部を明かりで照らして見る装置を経て、内視鏡という形で進化を続けている。さらには、ミサイルドラッグDDS(ドラッグデリバリーシステム)といった、患部を認識し自分から狙い撃ちする薬も2003年に発表されている。すでにミクロからナノにテクノロジーはシフトしていると言えるだろう。ナノテクノロジーの発展は、1.5センチのヒーロー、アントマン(9月19日より全国公開)の活躍を凌駕するかもしれない。

さて、カプセル内視鏡だが、1981年にイスラエル国防省のGavriel Iddan博士が開発を開始したとされる。休暇でアメリカのボストンを訪れていた博士は、そこで消化器内科医のEitan Scapa医師と出会い、体内の消化管内をミニチュアのミサイルが画像を送信しながら通過していくという『カプセル型電子内視鏡』のアイデアを思いついたという。『ミクロの決死圏』では、物体を細菌大に縮小し、長時間体内に浮遊しうる研究を完成したチェコの科学者ヤン・ベネス博士がアメリカに亡命してくるところから始まっており、開発のシチュエーションが何となく近似していておもしろい。

映画の公開当時は、アイデアを形にする技術がなかったカプセル内視鏡だが、1990代に、CMOSセンサー、ASIC無線送信機、白色LEDが登場したことにより研究開発は加速、ギブン・イメージング社の内視鏡は、2001年には米国および欧州において承認された。日本でも2007年にギブン・イメージング社の日本法人とフジノン(※当時、富士フイルムホールディングスが参加の光学機器製造メーカー。2010年に富士フイルム株式会社に統合)が提携、保険適用されている。

作中に登場する要素として現実に活躍しているものは他にもある。血管を通す治療として用いられる能動カテーテルや、レーザー治療(本編1時間37分)なども一般化しており、医療の世界は技術の進歩がめざましい。

現在、一般的なカプセル内視鏡は、消化管の収縮作用である蠕動(ぜんどう)運動を利用して移動する。それだけでは自由自在に患部にたどり着くことはできないが、磁力による誘導や、モーターに依存しない小型駆動技術を用いての体内移動は、実用化目前の段階まできている。

だが2015年現在、体内の様子を探るための道具としては、体外からのアプローチのほうが主流となりつつある。体を外からスキャンするMRIやCTスキャンの恩恵を享受している人は多いだろう。患部を発見し、体外から放射線をピンポイントに3D照射する治療法は、当時の想像を超えているかもしれない。

それでも体外からでは、照射の精度や網羅性に限界がある。数十年後になれば、細胞レベルに侵入できる超小型の装置が実現されていないとは限らない。もちろん、装置の中にミクロ化した人が入ることはないだろうから、決死の覚悟までは必要ないだろう。とはいえ恐がりな人にとっては、細胞に機械が侵入することを想像しただけで、生きた心地がしないだろうが。

作中でミクロ化した隊員が潜水艇の動力について尋ねるシーンがある。「動力は原子力だ。核は縮小できないから動力としては十分もつ」そう答えが返ってくる。核は縮小できないという冷戦時代を象徴する意味深なセリフが、最も未来を予言しているのかもしれない。

「ミクロの決死圏」の作品情報はこちら

【参考】
カプセル内視鏡
ミサイルドラッグDDS

【協力】
シネマクエスト-全国の上映館スケジュールが検索できる映画情報サイト
http://cinema.co.jp/

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山崎 雅人(やまざき・まさと)

通信会社社員。まじめに通信の未来を考えるかたわらで、IT初心者、小規模事業者のみなさまに気軽にITを活用して頂くための活動を推進しています。はじめてWEB経理通信Cloud Blogなども展開中。
※本文は個人としての発言であり、所属する会社等とは一切の関係を持ちません。

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