ソフトバンク 法人事業開発本部長 赤堀 洋氏(前編):テーブルも椅子も、すべてがネットワークにつながる発想が必要に
日本のIoTを変える99人【File.004】
2015.11.04
Updated by 特集:日本のIoTを変える99人 on November 4, 2015, 17:26 pm JST
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通信事業者にとっても、モノがネットワークを介してつながるIoTの進展はビジネスチャンスになる。グループ内の統合によりモバイルから固定回線までを広くカバーすることになった新生ソフトバンクは、IoTをどのように捉えているのか。ソフトバンクで法人向けのIoT/M2M部門を統括する赤堀 洋氏に尋ねた。
通信事業者としてソフトバンクは10年近くM2M(Machine to Machine)のソリューションを提供してきており、回線数でも200万を超えています。いま、モノのインターネットと言われるIoT(Internet of Things)が大きく取り上げられるようになりました。M2MもIoTもモノがネットワークに接続して価値を生み出すソリューションですが、それらの違いは明確にしなければいけないと考えています。
M2Mはマシンとマシンがつながるという意味ですが、私はこれを「特定のモノが個別につながる」と解釈しています。一方IoTになると「すべてがつながる」ことに意味があると考えています。だからこそIoTに注力していく必要がありますし、すべてがつながる前提でサービスも発想しなければなりません。ただ、実際にはなかなか、「すべてがつながる」という発想にはなれないものです。ここにあるテーブルもイスも、そういったものがすべてネットワークにつながったときにどう世の中が変わるのか。それを考えるのは難しいことでしょう。
ある自動車メーカーと仕事をしていて学んだことがあります。それは、一部のモノがつながっても結果に満足できないということです。すべてをつなげることで価値が出てくるんですね。もちろん、通信事業者としてのメリットもあります。通信事業者としては契約数を追求する側面もありますから、あるメーカーのクルマがソフトバンクの回線で全部つながってくれれば、回線ビジネスのスケールメリットは生まれますし、収益にもつながります。
ただ、それだけではありません。すべてのクルマがつながることで、メーカーが求める機能や、ユーザーの利益を、ソフトバンクはメーカーと一緒に考えることができるようになります。すべてがつながったことを前提にして、サービスであったり社会に何ができるかであったりを考えるのです。これは、一部のモノがつながるという限られた発想からとは異なるものだと考えています。
ソフトバンクからのIoTに関する提案は、B to Bのソリューションであればすべの商品をつないでみましょう、工場であればすべての機器をセンシングしてみましょう――ということです。つなぐなら、全部つないでみませんか? 一部をつないでスモールスタートを切るという方法もありますが、最終的なスコープとしては「すべてをつなぐ」ことを前提にして何ができるかを考える必要があると思います。もちろんそこにはソフトバンクとお客さまの利害が一致した上で、IoTを導入しやすい方法を探していくことも必要です。
IoTを活用するには、「すべてをつなぐ」ことを前提にして、サービスにしても社会への貢献にしても発想しなければいけないということだと思います。まず、すべてをつないでみて、そこから何ができるのかを考えることが大切でしょう。鶏が先か卵が先かの議論に陥りがちですが、いずれはすべてのモノがつながるのであれば、つながった状態を作ってから新しいアイデアを見つけていくことが重要だと考えています。
IoTソリューションを提供するという意味では、通信事業者は回線ビジネスだけでは戦っていけないと考えています。その上に乗るサービスやソリューションを武器にして、お客さまの最適なソリューションを実現することで戦っていくことになるでしょう。
IoTソリューション全体において、通信部分は欠くべからず1つの要素です。非常に小容量のデータを送るセンサーなどもあるでしょうし、映像監視のようなソリューションでは1日に何GBものデータをやり取りするケースもあります。しかし、IoTで「つなぐこと」にフォーカスしているプレーヤーは少ないのではないかと思います。
お客さまと話をしていて感じることは、通信はタダを前提にしてしまっている多いことです。Wi-Fiを使いましょう、ユーザーのスマートフォンや公共のネットワークを活用しましょう、といった発想で通信部分の回線コストや運用コストを算定していないことが多いのです。Wi-Fiは便利です。しかし、モノをセンターにネットワーク経由で接続するとき、Wi-Fiの設定をするだけでも大変な手間がかかります。さらにセキュリティ面の問題があったり、環境に依存したりします。事業所内のレイアウト変更で、Wi-Fiがつながらなくなるといったケースもあり、インフラとして利用するとなると問題が起こるリスクがあるわけです。
Wi-Fiをなくすということではなく、ネットワークにつなぐための手段として3G/4Gのモバイル通信サービスを補完するものとして考えると、ソリューションの展開がしやすくなります。3G/4Gならばモジュールを入れておけばプラグインですぐに使えるわけです。こうした側面からも、通信コストを考慮してソリューションを検討することが必要だと考えています。
一方で、すべてをつなぐとなると、センサーや機器、商品をネットワークに接続するための回線が必要になります。この回線に高いコストが発生すると、「すべてをつなぐ」という理想が実現できません。ソフトバンクは通信事業者ですから、回線ビジネスで利益を上げているのは確かなことです。ただし、これはあくまでも個人的な意見ですけれど、IoTで利用する通信は用途によりますが、将来的に限りなくタダに近づくのではないかと考えています。タダに近づかないと、IoTのコストに通信が重くのしかかってしまうからです。
しかしながら、例えば通信と一緒に通信機器やクラウド、ソフトウエア、サービスなどを利用してもらえれば、別々に調達するよりトータルであれば通信の部分は相殺されコストコントロールが可能です。IoTデバイスやソリューションを実現するためのクラウドなどとは別々に通信回線を調達した場合は、通信回線のコストは個別にかかってきます。ソフトバンクは、IoTデバイスからクラウド、ソフトウエア、通信回線までをエンドツーエンドで提供できます。この形を利用してもらえれば、ある程度の通信コストはソリューション全体として吸収できるわけです。これは通信事業者であるソフトバンクの強みです。そうすれば、お客さまから見たときに通信回線のコストはほとんどタダで、IoTソリューションを実現できることになるのです。
IoTで利用するネットワークは、Internet of Thingsなのだから、インターネットだろうと思う方もいらっしゃるでしょう。しかし、実際にはインターネットに限ることはないと考えています。IoTでデバイスや機器にセンサーが付くとします。ここで得られたデータを何らかのネットワークでクラウドに集めて、見える化し、さらに分析して価値を生み出すことが狙いです。そのときに利用する回線がインターネットでも、その他のネットワークでも、そこにこだわりはありません。それぞれの案件に最適な提案をさせてもらっています。
IoTのデバイスにスマートフォンを使うようなケースであれば、インターネットを介しても構わないでしょう。一方で、セキュアなネットワーク環境が求められる場合もあります。モバイル通信サービスでは、通信事業者が提供する3G/4Gの無線部分も有線部分も、ともにインターネットではありません。クラウドや企業のサーバー、データセンターに接続するネットワークにはVPN(仮想閉域網)などの閉域網を用意しています。また、ネットワーク監視技術や、モバイルゲートウエイを使って接続するといったソリューションも用意して、セキュリティを担保したいお客さまに提案、提供しています。
現時点では、IoT用途では閉域網を使っているお客さまが多いです。通信のセキュリティ担保は当然ですが、加えて実際にDDoS攻撃はものすごい状況です。そうした面でも、VPNまたは閉域網を利用することをお勧めしています。モバイルのネットワークからクラウドのセンターまではセキュアなネットワークで構築できますから、あとはセンサーからモバイル機器の間をどのような接続でセキュリティを担保するかを考えれば良いわけです。セキュリティの担保の側面からも、ソフトバンクはIoTを活用しようとするお客さまに様々な提案ができると考えています。
(後編へ続く)
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