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災害 道路 イメージ

⑦災害時に自動運転車はどう振る舞うべきか その1

2017.04.07

Updated by Shinya Matsuura on April 7, 2017, 06:00 am UTC

自動運転車が避難施設として有効だということは、その前提として、自動運転車を避難場所まで動かすことが必要になる。つまり災害発生時に、自動運転車をどのようにして運転するかという課題があるわけだ。これはそう簡単な問題ではない。災害発生時には、一度に多くの移動の需要が発生し、個々の車両が無秩序に移動すると混乱を引き起こす。全体最適を実現する形での移動を実現しなくてはならない。

前回の章で自動運転車が災害時の緊急避難場所に使えると分かった。自動車を止め、電力を供給する施設を持った避難場所を整備したとしよう。次の課題は、地震のような大規模・広域の災害時に、どのようにして自動運転車に避難する人を乗せた上で、車両を避難場所まで導くかだ。

人を車両まで導くのは比較的簡単だ。「災害が発生したら手近な自動運転車に乗れ」というルールを作れば良い。ルールを法律で決めるか、マナーに任せるかといった問題はあるが、「こうしろ」という方針が決まれば人間は柔軟に対応することができる。

問題は、自動運転車をどのように誘導していくかである。

現状では、自動運転車は以下のような情報をフルに使って制御するとされている。

1)カメラ、レーダー、ライダー(レーザー・レーダー)などの搭載センサーから得られる外界の情報と、加速度センサーやジャイロ、動力やブレーキなどの搭載機器に取り付けられたセンサーからの、速度や姿勢、各機器の動作状況などの内部情報

2)航法衛星システムから得られる位置情報と、搭載地図情報とをマッチングして得られる、自らの位置情報と外界に関する内部に蓄積してある情報(例えばこの道の横は川が流れている、というようなもの)

3)通信を経由して外部の情報収集システムから得られる情報(この先の道は今は渋滞している、あるいはこの道は今日は工事中というような情報)

1)は災害時であっても、車両自体が故障しなければ使えるだろう。2)は、宇宙空間に置かれたシステムを使うので、基本的に地上の災害からは切り離されている。衛星をコントロールする管制局が地震などの被害を受けるという可能性はあるが、災害発生直後に衛星側がシステムダウンを起こして測位ができなくなる事態は考えにくい。ただし災害の規模や種類——例えば大気圏外の核爆発や、太陽表面での大規模な物質の噴出(太陽フレア)にともなう強力な太陽嵐など——によっては、電波受信環境の変化により測位電波が受信できなくなる可能性、そして衛星のシステムダウンの可能性が発生する。

問題は3)だ。

自動運転の実現にあたっては、日々変化する道路状況を、なんらかの形でマッピングして、地上のデータ通信経由で車両に伝達する仕組みが検討されている。

高頻度のマッピングをどうやって行うかが最大の課題だが、宅配便や郵便配達の車両のように、日々街中を走り回っている車両にマッピング用のセンサーを搭載し、センサーを搭載した車両になんらかのインセンティブを与えて、クラウド的にデータを収集する、あるいは車両メーカーが、自動運転車に最初からマッピング機能を組み込んでおいて、メーカー自らが自社車両ユーザーからマッピング情報を収集・分配するサービスを提供する——といった手法があり得る。かなり大容量のデータ伝送が予想されるので、伝送経路は次世代の無線高速データ通信の「第5世代移動通信システム(5G)」の使用が前提となっている。

地震、津波、噴火などの大規模災害では、地割れ、陥没、落下物、建物や電柱の倒壊などで道路の状況が一変する。また地上の通信システムは、送電システムにトラブルが発生すれば使えなくなる可能性がある。つまり、大規模災害時に自動運転車は災害時に3)の情報を使えなくなくなることを前提としておく必要がある。

その状態で、どのようにして安全を確保しつつ、車両を避難場所まで移動させるか。

すぐに思いつくのは、自動運転を切り、搭乗者が運転することだ。人間ならば、臨機応変に周囲の状況を確認しつつ自動車を運転することができる。しかし、これでは従来の自動車と同じく多数の自動車が混乱する路上に集中して渋滞を引き起こすことになる。となれば「自動車は乗り捨てて徒歩で避難する」という以前と変わらない対処法が最適解だ。

それはその後の避難生活のシェルターとなり得る車両を放棄するということでもある。

この場合はある程度落ち着いてから、移動の経路を確保し、一括して手動運転で車両を避難場所に移動するというのが暫定的な落としどころとなるだろう。それでも、そもそも手動運転を前提としない完全自動運転車が普及した場合にはどうするかという問題が残る。ハンドルもアクセルもブレーキもない完全自動運転車をそもそも許容するかどうか(現在すでにGoogleがそのような試作車を走らせている)、非常時に備えて最低の手動操作ができる機構を装備することを法的に規定するかどうかを含め、考えていかねばならない。

次に考え得るのが、車両に1)と2)、場合によっては1)の情報のみに基づいて自動運転で移動する「災害時モード」を搭載することを義務付けるという方法だ。移動速度をたとえば30km/h程度に制限し、ゆっくり、しかし確実に目的地に到達できるようにするわけだ。

が、こちらの方法も問題を抱えている。それぞれ独自のアルゴリズムで動く、各社各様の自動運転車が一斉に路上で同一の目的地を目指して移動した場合、なにか混乱が起きるのではないかという懸念だ。この問題、私は解決不可能とは思っていない。しかし、今までとは違う発想による制御方法を開発する必要があるだろう。

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松浦晋也(まつうら・しんや)

「自動運転の論点」編集委員。ノンフィクション・ライター。宇宙作家クラブ会員。 1962年東京都出身。日経BP社記者を経て2000年に独立。航空宇宙分野、メカニカル・エンジニアリング、パソコン、通信・放送分野などで執筆活動を行っている。自動車1台、バイク2台、自転車7台の乗り物持ち。