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株式会社ウフル IoT推進事業部長 杉山恒司氏

株式会社ウフル IoT推進事業部長 杉山恒司氏(後編):IoTには考える人を増やし、地球を良くする力がある

日本のIoTを変える99人【File 011】

2016.02.10

Updated by 特集:日本のIoTを変える99人 on February 10, 2016, 12:00 pm JST

「データが集まる」ことで可能になる新たなビジネスチャンス。だが、なかなか取り組むことができない日本企業の問題点は、組織構造と「失敗を怖れる」風土にあると語る杉山氏。引続きビジョンと目指すものについて聞く。
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株式会社ウフル IoT推進事業部長 杉山恒司氏

杉山 恒司(すぎやま・こうじ)
株式会社ウフル IoT事業推進部長。大手通信事業者IT部門に約20年勤務し、その後は、ベンチャー企業の経営や、WEB制作会社でプロジェクトマネージャーや新規事業企画、その後はフリーとして各事業会社顧問やアドバイザーとして複数社と関わりながら、2012年ウフルに参画。コンサルティング部門長、人事総務部門長等を歴任し、現在はIoT事業の推進とアライアンス推進を担当中。

デバイス・クラウド・ネットワークの接着剤になるのがウフルの役割

大手SIerが考えるIoTソリューションって、結局プラットフォームビジネスで、隙あらばベンダーロックインしようとしますよね。でもそんなことをお客様は望んでいません。

IoTに関するコンソーシアムがたくさんできていますが、経産省と総務省の「IoT推進ラボ」を除けば、後はだいたい特定プラットフォームを持つSIerや通信事業者が中心になっています。つまりベンダー依存で、エコシステムじゃないんです。なぜそうなるかというと、小さな会社が音頭をとってもメンバーが集まらないから。でも長年歴史がある大きな会社がやれば「周りにいれば何かおこぼれがもらえるかもしれない」と考える人が集まってきます。本当はそういうことじゃないはずです。

ウフルが今作ろうとしているエコシステムはプラットフォームに依存せず、本当に皆でビジネスを作ろうという集まりです。そのためにまず「ウフルがIoTをやっている」と認知していただけるようお金もかけたし、パブリシティもしてきました。

ウフルにとって運が良かったのは、Salesforceのパートナーとして、IoTにカテゴライズできる案件の実績をつめたことです。実際にやってみると技術的な課題も明らかになってきます。構想だけでなく、リアリティがある提案ができるようになりました。経験があって課題がわかっているから、「IoTで大量のデータを扱うのであれば、Salesforceで構築されたシステムにおいてもAWSを使おう」といった、適材適所で複数のクラウドを組み合わせた提案も可能になりました。

またウフルの最大の特徴であり、他のSIerにないところは、マーケティング寄りのスキルがある人が集まっていることです。彼らはもともとデータを加工したり分析することに長けています。システムの構築からデータの分析までやれる会社は探してみるとあまり無いですね。逆にうちにないのはハードウェアですが、在庫を持つことに手を出す気はありません。そこは協業でうまくやりたいと思っています。

NTTコミュニケーションズの林さん(同社クラウド・エヴァンジェリスト 林雅之氏)が日経コンピュータのコラムにウフルのことを「企業と大手事業者の接着剤」と紹介して下さったのですが、その通り、デバイス、クラウド、ネットワークの接着剤になるのが役割だと思っています。本当にユーザー企業が欲しいのは、そのような、コンシェルジュ的な役割を果たしてくれるパートナーではないでしょうか。

IoTはデータから始まるビジネス

IoTがデータからはじまるビジネスであるということに可能性を感じています。今まで、ほとんどのデータはセンサーデバイスからクラウドに吸い上げても役に立てずに捨ててしまったり、吸い上げることすらしてきませんでした。今、あらためてクラウドに貯まったデータを見て、何かに使えるんじゃないかとようやく動き出したのがここ1-2年の話です。

たとえば、会議室の中に二酸化炭素センサーを置くことで、会議が長時間になると文字通りの意味で空気が悪くなっていることが可視化され、「会議が長すぎるから休憩しよう」という気付きが得られます。今までは勘で扱うしかなかったものを可視化して制御できるようになるのは、ビジネスの種になります。

今、IoTベンチャーのStrobo社と一緒に仕掛けているのが、彼らの「Connected Chair」を使ったサービスです。椅子にセンサーを置いて、座っている人の状況を可視化します。すると、事務所の中で人が集まって座っている場所や、長時間座っている人が誰かといったことが全部わかります。このデータは、社員の健康管理や、社内レイアウトの適正化に使えます。可視化してウェブサイトに公開すれば、この会社では何時から何時まで人が働いているのかが嘘偽りなく分かり、採用活動にも活用できます。

また、IoTに取り組む前からTwitterやFacebookの書き込みを分析してマーケティングに活かす、「ソーシャルリスニングサービス」を手がけてきました。これもデータを集めて可視化するビジネスという意味ではつながっています。人が入力するデータとセンサーが取得したデータを組み合わせた新しいビジネスも考えられますね。

ビジネスのネタの最小単位はデータです。ウフルはデータドリブンの会社として、信頼できるデータを提供することをサービス化していきたいと考えており、「ウフル・データサイエンス研究所」に社内の各専門分野のプロフェッショナルを結集させ、基礎研究の論文・ブログ等によるオープンな共有、プロダクトの開発・提供をはかっています。

「勇気を持って踏み出す」人を応援する日本に

株式会社ウフル IoT推進事業部長 杉山恒司氏

クラウドやIoTをやってきたここ数年で感じるのが、それらに特化した話ではないですが、日本企業、特に大企業の組織構造の問題です。我々はCXOに営業することが多いのですが、彼らは最新の技術には疎いことが多いので「現場に聞いてみます」となってしまう。そして現場の部長レベルでOKが出ても、上から「前例がないと採用できない」などと言われてなかなか決まらない。そうこうしているうちにどんどん時間がかかって競合他社に出し抜かれてしまう。負のスパイラルです。

日本人は他がやっていないことを不安がるのは、「失敗したらクビが飛ぶ」から。そうじゃなくて、失敗が許される風土にしないと、組織はどんどん硬直化します。技術じゃなくて新しい文化を入れる場合には、誰かが勇気を持って一歩踏み出すしかない。そうでないと世界から取り残されます。

あとは、私自身が大手企業からベンチャーに来たので強く感じるのですが、100人規模の会社の名刺を持って大企業に行くと向こうからすごく偉そうにされているのがわかるんですよね。でも、そういう会社って、もともと数万人の会社にいた優秀な人が、硬直化した組織に耐えられなくて外に飛び出して作ったことが多いんです。その人達はとても優秀で、かつ大企業のお作法を知っています。そういう人たちを見下す文化は間違っているし、そういう意識を変えていかないといつまでも前に進めない感じがします。

ソラコムが登場した時には、通信事業者の中の人たちはみんな衝撃を受けていましたよね。NTTが何年もかけて構築してきたNGNを、彼らは3ヶ月でやっちゃったんだなと。そういう“もやもや”を抱えている人は大企業の中にもたくさんいると思いますよ。

玉川さん(株式会社ソラコム代表取締役社長 玉川憲氏)はIBMからAWSに行った人ですから、日本企業に長年いた人とはおそらく志向が違いますが、それでも5人のベンチャーでキャリアっぽいことをしようなんて普通は思わないでしょう。そして彼の周りには錚々たる企業、人々が集まって応援している。ソラコムのような企業が突破口になるのは素晴らしいことだと思うし、後に続く企業がどんどん出てきてほしいと思います。

IoTは知識を有効に使う人を増やすための道具だ

私自身が現役でいるのはあと10年だと思っていますから、セカンドライフのことを考えます。例えばリタイヤしたら農家をやりたい、という人もいますけど、その人達にとっては、農業のやり方を覚えるために本を読んだり、セミナーに行ったり、あるいは農家の人に教わったり、という時間がもったいないと思います。

コマツのスマートコンストラクションで、ベテラン作業員が動かす建設現場の重機にセンサーをつけることで重機の動きがコピーできるように、農業や漁業のノウハウも、人伝いだけではなく機械でサポートして継承することで、人生がもっと広がる気がします。そんなことを手助けしたいと思っています。3年修行しないとできなかったことが1、2日でできるかもしれません。すごいことじゃないですか。夢はどんどん広がります。

スキルや情報がセンサーデータですぐに移植できる時代になると、平準化した社会になりそうに一見思えます。たしかにIoTとAIとロボットが進化することで、単純労働はほぼ機械に置き換わるでしょう。でもそれは決して人が不要になるということではなく、人間の役割は「考えること」になるのではないでしょうか。考える人が増える世界になればいいと思うし、IoTは知識を有効に使う人を増やすための道具だと考えています。

結局、それは地球全体、人類全体が良くなるということにつながります。私は、IoTで地球を良くしたい。IoTがあれば、小さい会社でも人類のためにする仕事ができる。ひとりでも、5人でも、2000人の会社でなくてはできなかったことができる仕組みだと思います。

▼Uhuru受付にいるPepperも、IoTにつながるデバイスの一つだ
Uhuru受付にいるPepperも、IoTにつながるデバイスの一つだ

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