WirelessWire News Technology to implement the future

by Category

産業化仮説検証型の研究開発のススメ

2016.04.30

Updated by Satoshi Watanabe on April 30, 2016, 17:18 pm JST

定期的にお仕事として頂くテーマとして、技術の事業化機会の探索、あるいは技術の産業化についての検討がある。本テーマも裾野の広い課題であり、全体を知悉している訳ではないため全体論はとても語れるものではないが、昨今起きている動きを踏まえて手の届く範囲で幾つか整理を試みたい。

◇産業成果を求められる大学

国内の政策動向事情として、シード技術を持っている機関、大学や研究機関については新規性の高い論文などの研究成果を出すのみならず、成果の社会への還元(≒産業化)が期待されるようになってきている。各所での政策検討の動きを見ていると、根っこの根っこには国の財政問題もあるが、せっかく生み出された研究成果が上手く国あるいは産業競争力や新事業に転換できていないのでは?論文の質(のみ)が問題なのではなく、質の高い論文が出されたあとの施策が上手く回っていないのでは?との仮説が見て取れる。

内閣府の「科学技術イノベーション総合戦略」においても、集中すべき研究テーマや拠点の絞り込み検討と並んで、研究プロセスや官民の協力スキームについてのてこ入れについても相応に文字数が割かれている。

という世の中の大きな動きを背景に、相談が舞い込む際には、「**という新しい技術があって+++という領域での事業化を検討しているのですが、どうやって進めていいか、どういう機会がありそうか調査検討をお願いできますか?」との依頼のされ方となる。

大学あるいは研究機関からの相談の場合、事業化仮説をリストすることは出来ても、仮説に見込みがありそうかの検証段階がたいていボトルネックになる。大学、あるいは研究機関は少なくとも現時点ではビジネス推進を行う組織ではないため、このプロセスがボトルネックになるのは当然といえば当然であろう。つきあいのある共同研究先との意見交換は出来ても、それ以外の部分でどのような企業にどうやってヒアリングをかければいいのか分からない、ましてやどのような製品、サービスを想定しればいいのかは思いもつかない、というのが解決課題となる。

◇その道にお客さんはいるのか?

実際にヒアリングをかけてみると、結構な率で出くわすのは、
・初期仮説になかった領域での機会の発見
・初期仮説領域での当初想定以上の難所の発見
との調査結果である。

初期仮説のズレは、応用研究に実はもう着手していました、とのケースの場合はピボットするかどうかの判断を迫られることになる。国の事業化プログラムなど外部予算を引っ張って計画が進められている場合は、外部のステークホルダー、あるいはスポンサー先も巻き込んでの調整が発生し、予算面及び体制面でのサンクコストが発生してしまう。そして、着手してしまっているケースも各所話を伺っていると少なくない。胃が痛い話である。

そう簡単に外部向けの予算を捻出したりお財布事情があることはそれなりに理解しつつも、「もうちょっと早い段階でカジュアルでもいいからニーズヒアリングがせめて出来ていれば…」と思うこともまた少なくない。研究に限らず、企業のプロダクト開発でも良くある話であるが、POC(Proof Of Concept)、コンセプト検証があやふやなままにβ製品を仕上げてしまうとよほどセンスのあるケースを除いて同種の問題に大なり小なりぶつかっているのをみかける。

◇体系的な失敗とPDCA

上記問題系をクリアするに、有効なアプローチとして注目が高まりつつあるのが、体系だったものとしては、ステージゲート法やリーンスタートアップなど、上流での仮説検証と”早めの失敗”を重視する手法群である。あるいは、最終的なプロダクトデザインで、特にコンシューマー領域に近いところではデザイン思考を加えてもよいかもしれない。

米国のベンチャーを含めた事業化プロセスにおいても、アクセラレーターの提供しているプログラムが分かりやすいが、体系的に早め早めに失敗して少ない資金で有効な事業領域の選定や、プロダクト仮説の検証を行って確度を上げたあとに段階的に資金提供を行うとのやり方に変わってきている。もちろん、ある特定のメソドロジーやプロセスに則って事を進めたからといって、自動的に成功が約束される訳ではない。穴埋め問題を埋めるように、どうすればいいかの答えが自動的に浮かび上がってくるものでもない。ステージを進めたあとで解けない課題が発覚するリスクがゼロになる訳でもない。

研究活動を邪魔する形になっては元も子もないが、産業成果あるいは社会成果を目するのであれば、もう少し市場サイド、ビジネスサイドの声が研究現場や開発現場に上手く反映させられるようになれば、どうにも方針転換が出来ないため空中分解するか、上手いことごにょごにょと説明をつけてそっと閉じるというアクションしか取れなくなるとの事態に追い込まれることは減らせるのではないかと感じている次第である。

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

渡辺 聡(わたなべ・さとし)

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任助教。神戸大学法学部(行政学・法社会学専攻)卒。NECソフトを経てインターネットビジネスの世界へ。独立後、個人事務所を設立を経て、08年にクロサカタツヤ氏と共同で株式会社企(くわだて)を設立。大手事業会社からインターネット企業までの事業戦略、経営の立て直し、テクノロジー課題の解決、マーケティング全般の見直しなど幅広くコンサルティングサービスを提供している。主な著書・監修に『マーケティング2.0』『アルファブロガー』(ともに翔泳社)など多数。