佐賀県・佐賀大学・オプティム 夜間作業可能な農業用ドローンなど発表 農業収益5割増を目指す

2016.06.08

Updated by Asako Itagaki on 6月 8, 2016, 10:36 am JST

佐賀県・佐賀大学・オプティムは、「IT農業に関する三者連携協定」(以下三者連携協定)の成果報告会を開催した。2016年4月に予定していたが、熊本地震の影響によりこの日まで延期されていたもの。2015年8月から2016年3月までの実証実験結果の報告およびその知見にもとづき開発されたドローンなどが公開された。

ドローン撮影画像の解析による害虫検出に成功、映像解析技術の開発に取り組む

三者連携協定は、日本有数の農業県である佐賀県が抱える農業従事者の高齢化、後継者不足、技術継承の難しさ、TPPをはじめとする環境変化への対応といった課題に対応すべく、「世界 No.1 農業ビッグデータ地域を目指す」「ウェアラブルでつながる世界で一番、楽しく、かっこいい農業ができる地域を目指す」「IoT で安心・安全で美味しい農作物を届ける世界 No.1 県を目指す」という目標を掲げ、2015年8月に締結された。

以来、データ収集、映像解析技術の開発、人材育成などの活動を行ってきた。

▼三社連携協定の活動実績
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現在は、先行してデータ収集を行っていた大豆について、ドローンを利用したIT農業の実証実験を行っている。また、佐賀県内の7箇所の圃場で28品目の作物について、ドローン空撮およびセンサーによるデータ収集・蓄積を行い、来年度以降の実証実験に備えたアプリケーション開発に取り組む。

▼現在のデータ収集状況

IoT導入効果の定量的評価のロジック

これまでに得られた知見をもとに、三者連携の効果を定量化するために、品目ごとにIT農業によって「へらす指標」「ふやせる指標」を明確化した。

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▼効果仮説の例(たまねぎ)。品目別に仮説を設定して、そのための技術開発を行う。

ドローンとカメラによる精密な映像撮影と画像解析により、農作業の負担軽減、効率化、最適化がはかれる。これによって害虫の早期発見・駆除、見回りの労力軽減、不良作物削減、画像解析による部分除草や農薬散布、収穫時期最適化などの効果が得られるという仮説を立てている。ウェアラブルデバイス(スマートグラス)による作業支援と自動作業記録なども合わせ、2割の労働力軽減と3割の売上増加で、合わせて5割の収益改善を目指す。

農業専用「アグリドローン」と陸走型カメラ「アグリクローラー」を開発

これまでの知見をもとに、農業用途に特化したドローン「アグリドローン」を開発。この日、公開された。

▼アグリドローンのお披露目。写真左から、佐賀大学農学部 田中宗浩教授、佐賀大学農学部 渡邉啓一学長、佐賀県農業試験研究センター 田崎博文所長、株式会社オプティム 菅谷俊二社長。

可視光だけでなく近赤外線、サーモなどマルチスペクトル撮影機能、自動農薬散布機能、ドローン対応殺虫器、通信機能などを備える。これにより、撮影による生育管理、病害虫発見、自動農薬散布・駆虫、圃場内に設置されたセンサーデータの収集とクラウドへの送信などの機能を1台で実現する。開発中の自動飛行機能が完成すれば、撮影、画像解析、病害虫発見、除去を全自動で行えるようになる。

画期的な機能が、夜間自動飛行と殺虫器による自動駆虫だ。害虫は天敵の鳥を避けて昼間は葉の裏に潜り、夜間表面に出てくることが多く、夜間に殺虫器を使うことで、効果的かつ農薬をつかわず害虫を取り除ける。オプティムの菅谷俊二社長は、「これまで農業生産に夜間の時間帯は活用されていなかったが、ドローンを導入することで使えるようになる。大げさに言えば、人類の農業を大きく前進させるのではないか」と述べた。

また、ドローンの弱点である「建物の中は撮影できない」すなわちハウス栽培などでは利用できないという弱点を補うために、陸走型全天球カメラ「アグリクローラー」も発表。天井などに据え付けたネットワークカメラでは撮影できない葉の影などもくまなく撮影することで、いちごの栽培ハウスで病害虫駆除や収穫時期予測などに活用されている例が紹介された。

▼アグリクローラー

ウェアラブルデバイスについても、テレパシージャパンと共同開発した遠隔操作支援専用スマートグラス「Remote Action」の新型機を使用し、作業支援と作業記録を行っている。

撮影した映像や作業記録は全て「OPTiM Cloud IoT OS」にアップロードして蓄積する。データ解析アプリの実行やデバイス管理などはブラウザ上で行えるインターフェイスとなっている。作物によって画像解析のポイントが異なるため、作物ごとに異なるAIとアプリを開発している。2016年8月のリリースを目指し、現在性能評価を実施中だ。

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今回の三社連携協定は3年を1サイクルと考えて進めている。先行して研究を開始した大豆については害虫のハスモンヨトウが発見できることが2015年に分かったので、2016年の1年間をかけて自動化のための実証実験に取り組み、2017年には自動化生産の実現を目指す。現在は佐賀大学IT農業センターが提供した実証実験用圃場で全自動の駆虫と栽培の実証実験を行っている。

その他の作物については現在基礎研究中で、2017年に実証実験を行い、2018年からドローン、IoT、AIが育成した作物として出荷を目指す。

IT農業で作られる「スマートやさい」という新コンセプト

三者連携により生まれた、佐賀県農産物の新コンセプトが「スマートやさい」だ。「ITでスマートに育てた野菜は、スマートに自己紹介して、スマートにお客様との長い関係を作り、スマートに皆様を笑顔にする」(佐賀大学農学部学部長 渡邉啓一氏)というコンセプトで、生産者情報だけでなく、クラウド上に蓄積された生産過程の作業記録も全て消費者に開示する。

SNS機能と連動して、消費者による感想やレシピなどもスマートやさいのプラットフォーム上で見ることができる。生産者はこうした情報を品質改善や販売計画立案に役立てられる。

▼発表会場で配布された「スマート玉ねぎ」のQRコードから読み取った情報。作業記録やレシピなどの情報が表示される(クリックで拡大)。
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スマートやさい2016年夏モデルではトレーサビリティ機能を実現しており、今後随時新しい機能を提供していく。

【報道発表資料】
佐賀大学農学部・佐賀県農林水産部・オプティムが三者連携による最新のIT農業に対する取り組みを発表

【関連情報】
スマートやさい

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。