ファナック株式会社 ロボット事業本部長 稲葉清典氏(前編)ヒトと機械をつなぐ「緑のロボット」が工場を変える
ヒトとモノを巡る冒険 #001
2016.07.21
Updated by 特集:ヒトとモノを巡る冒険 on July 21, 2016, 15:20 pm JST Sponsored by ユニアデックス株式会社
ヒトとモノを巡る冒険 #001
2016.07.21
Updated by 特集:ヒトとモノを巡る冒険 on July 21, 2016, 15:20 pm JST Sponsored by ユニアデックス株式会社
ユニアデックス株式会社でIoT事業推進に取り組む山平哲也が、「モノ」「ヒト」「サービス」の3つの分野で先進的な取り組みをされている企業様へのインタビューを通し、IoTがもたらす未来とそこまでの道筋を描きだすことに挑戦する本特集『ヒトとモノを巡る冒険』。第1回目は製造業の要であるファクトリー・オートメーションの先端をはしるファナック株式会社 専務取締役/ロボット事業本部長の稲葉清典氏に聞きます。(構成:WirelessWire News編集部)
山平:私共ユニアデックス株式会社は、マルチベンダーで、ICT環境をワンストップで構築し、運用のご支援もさせていただくという、ICT関連のインフラビジネスを約20年やってきました。これからはIoTというキーワードで、今までに無かったような分野の方々とのビジネスを進めていこうと、「IoTエコシステムラボ」を立ち上げて活動しています。
稲葉:IoTは、関わる業界が広いですよね。我々はその中でも一分野であるという認識を持っています。業界によってIoTに対するスピード感に差はあるのでしょうか。
山平:製造業の方は、早く取り組まれてらっしゃるイメージですね。やはりグローバルな競争に直面されている企業様ほど、そういう危機感を強くお持ちなのでしょうか。
稲葉:そうですか。私の中では「製造業は遅い」というイメージがあったもので(笑)、少し意外な感じがしました。
稲葉:ファナックにお越しいただくのは初めてですよね。ようこそ、富士山の麓までお越し頂きました。私どもはここで設計、製造を行っています。我々の事業はCNC、モータからスタートしています。そのCNC、モータの技術を応用して、ロボット事業を展開しています。ロボットは、極端に申し上げるとアームとモータで構成されています。モータのサーボ技術を応用してアームを動かし、ロボットという商品に応用しているわけです。
現在までに、累計約42万台のロボットをお客様に供給しました。最近の傾向としては、目で見て、力を感じて、考える「知能ロボット」というカテゴリーのものが増えてきています。
例えば、同じ形の部品を色別に高速に仕分ける作業、ギアの組み立てといった作業を、ロボットが行います。ギアの組み立て時には、先端部の力センサーで力を検知しながら差し込みます。また、ラインナップも小さなものから大きなものまで100種類以上のロボットがあります。
▼同じ形の部品を色別に高速に仕分ける作業(動画提供:ファナック株式会社)
▼ギアの組立(動画提供:ファナック株式会社)
山平:一番大きなロボットというと、どのくらいになるのでしょうか。
稲葉:2.3トン、自動車の中型くらいをそのまま持ち上げることができるロボットが一番大きなサイズですね。
ロボットは、導入されている業界を見ても幅広く、食品、薬品、化粧品といったところから、物流、家電、農業、自動車、そして最近は航空も増えてきています。分野ごとによっても自動化率は大きく違います。自動車業界は自動化が非常に進んでいます。しかしながら、工程の中でも差があります。溶接工程はほぼ自動化されています。それに対して、組み立てになると自動化率は大きく下がります。最も自動化の進んでいる自動車業界でも、このような状況です。業界全体を俯瞰すると、自動化要求に応えることができているのは2〜3割程度で、7〜8割はまだこれからです。今後はこのような分野をどのように自動化するかという点がロボットの課題になってきます。
山平:人の作業はどこからロボットへと置き換わっていくものなんでしょうか。世の中的には、ロボットって何でもできそうな感じがありますが。
稲葉:確かに、何でもできそうな感じではありますけれども(笑)、実はロボットはまだまだ出来ない事の方が多いですね。
今後、ロボットは組み立て工程等、簡単ではない工程にも少しずつ使われてゆくと思います。ロボットに作業をさせることは簡単に見えても簡単でない部分がありまして、使いこなすにはある程度の技術が必要です。ひとつめの課題としては、どれだけ簡単に使いやすくできるか、という点です。もうひとつの課題は、どれだけロボットが、自分自身で自律して作業できるか、という点です。
ロボットの考える力は、残念ながら小学生に到達するかしないか、というレベルです。もちろん人には到底持てないような、2.3トンというようなモノを持つことはできますが、自分で考えて何かするというようなことは、まだまだ発展の余地があります。
また、柔らかいモノを扱うのは、ロボットは苦手です。人工知能で取り出せそうであっても、取り出すためのハンド等を汎用的に設計することは非常に難易度が高いです。限定されたものを取り出すためのハンドの設計は可能だと思いますが、汎用的なハンドを設計するためには、相当の開発工数が必要だと思います。しかし、非常に面白い分野だとは個人的には思っています。
自動化は進めて行きたいと思っていますが、全ての工程を自動化することが最善であるかどうかということについては、ケースバイケースになります。だからこそ、半自動化、「人と一緒に働ける」と点を検討することが重要だと考えています。
自動車業界に今急速に普及してきているのが、「コラボレーティブ・ロボット」です。
弊社では「協働ロボット」という言い方をしています。しかも、色は会社のカラー(黄色)ではないんです(笑)。緑色なんです。
▼ファナックの協働ロボット CR-35iA
黄色いロボットは「危険物」です。柵を使って、必ず安全性を確保して作業しなければいけない。しかし緑のロボットは柵を無くして使える点が大きな特徴です。その上、作業者と協働で作業が出来るようになっている。これがもうひとつの大きな特徴です。ロボットを使うための基本的な教育は必要ですが、それを習得した方であれば、協働ロボットも使用することが出来ます。そして、実は外側は緑色ですが、中は黄色のロボットが入っているのです。それ故、黄色のロボットにおける信頼性、様々な汎用性をそのまま引き継ぎ、緑のジャケットを装着すると更に安全機能が加わり、柵がいらなくなるわけです。
▼協働ロボットと人は並んで作業することができる
例えばどんなことが出来るのかといいますと、重い荷物を自分の目で見ながらロボットがある程度のところまでは持ってきて、そこから先は人が一緒に置き場所まで持っていく。今までは柵があるとロボットは切り離されていました。モノをロボットから受け取ることが出来なかったのですが、こういう形で、モノを受け取っての作業が可能になります。
山平:柵を無くして人とロボットが協調することで、より早く、より正確に、ということなんでしょうか。
稲葉:従来の黄色のロボットを動かすためには、ロボットが働けるような環境を新たに作らなければなりませんでした。大きな柵を作ると、今までそこにいた作業員は周辺に押し出されてしまいます。現場のセルを少し変更したい場合も、周辺を作り直して、物流も変わってしまう。そういう意味では、影響、作業量が大きいのです。緑のロボットの良いところは、人が既にたくさんいる工場の中に、ポンと置けることですね。
小型のロボットでしたら人が横で作業できますので、硬い部品をロボットが組み込み、その横で人が配線や柔らかい部品の組みつけを作業することが可能になります。大型のロボットでは、自動車のタイヤの組み付け等に使用されます。タイヤをロボットが目で見て作業者に持ってゆき、作業者がロボットでタイヤを動かし、取り付ける。取り付けた後、人がスクリューで締める、といったことが可能になります。今まではこうした適材適所の協働作業が難しかったです。
今までのような柵が不要になることで、ロボット導入のハードルを下げていく。「半自動化」ということが今まで非常に厳しかったのですが、緑のロボットはそれを推進していくツールになるのではないかと期待しています。
稲葉:私たちの日常の生活においては、今は世の中全体がネットワークで繋がっていると感じます。そして、PCやケータイを見てもカスタマイズ化が進んでいるなと感じます。では製造業はどうかといえば、まだまだ不便だと思います。通信規格が機械ごとに違い、様々な組み合わせがあり、それらの機械を一つに組み込んでシステムとして使うことのハードルが、結構高いです。カスタマイズ化の流れが世界的に強くなってきている今、製造業におけるカスタマイズ化をどのような形で実現していけるのかが課題となっています。
そこで弊社では「FIELD system」というプラットフォームを開発しています。PCでは、好きなキーボード、マウスやプリンターなどさまざまなハードウェアが当たり前のように使えるのと同じように、様々なCNCの工作機械、ロボットや周辺機器、PLC、センサーなどが自由に繋げられます。このプラットフォーム上で、将来的には様々なものがネットワーク上で繋がっていく。またPCではユーザーの好みに合わせたソフトウェアが入っているように、自由にソフトを入れられるような枠組みを作って、ものづくりのカスタマイズ化を実現していきたいと思っています。
山平:今おっしゃっていたような「もの作りのカスタマイズ化」や、好みに合わせて準備したいというのは、お客さまの声として大きかったのでしょうか?
稲葉:現時点では、それほどお客様の意識に無いと思います。ものづくりにおいては「今あるものを使う」のが当たり前で、不便だけれども、それを使いこなすのが「技術」、「腕の見せ所」というニュアンスが非常に強いと思います。
山平:そういう認識の中で「FIELD system」を出されたのは、ものづくりや製造の現場がそのように変わっていくだろうと予想されたからでしょうか。
稲葉:ものづくり自体がどのように動いていくか考え、少し先回りしたところはあります。たまたま「インダストリー4.0」「IoT」という言葉が話題となっているタイミングで、我々の取り組みが発表できたというのは、非常に良かったと思っています。
「FIELD system」というのは、「FANUC Intelligent Edge Link & Drive System」の略です。少し長いですけれども(笑)。ネットワーク上で賢く繋がることによって、賢く、つながる(Link、Edge)、そして、情報技術との融合であっても、実体のあるものを動かすことが目的であるということからDrive、そして現場でそれを実現するということからEdgeという言葉を入れました。頭文字を取って、「FIELD」、そのような「場」をパートナーの皆さんと一緒に作れるようにしたいという願いも込めました。
山平:緑のロボットと、この「FIELD system」は、連携して動いていくものなのでしょうか。
稲葉:そうですね、私はそのように考えています。機械がネットワークで繋がる、そうすると当然、そこには機械だけでなく、人がいます。そして人と繋がってくるのが、協働ロボット。人と機械を含めて全て繋ぐという意味でも、緑の協働ロボットは、今後重要になってくると思います。
(後編に続く)
IoTの実現に向けたユニアデックスの取り組みはこちらをご覧下さい。
写真:宮地たか子
おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)
登録はこちらユニアデックスは、IoTで新たな価値を創造すべくさまざまな取り組みを進めています。本特集では、エクセレントサービス創⽣生本部 プロダクト&サービス部 IoT ビジネス開発室⻑である山平哲也が、「モノ」「ヒト」「サービス」の 3 つの分野で先進的な取り組みをされている企業様へのインタビューを通し、IoTがもたらす未来と、そこへ至る道筋を描きだすことに挑戦します。(提供:ユニアデックス株式会社)