熊本地震から100日、現場から見た支援の課題(1)民間のボランティア組織とドローンの活用
2016.08.02
Updated by Asako Itagaki on August 2, 2016, 15:09 pm JST
2016.08.02
Updated by Asako Itagaki on August 2, 2016, 15:09 pm JST
一般社団法人 救急医療・災害対応無人機等自動支援システム活用推進協議会(元・Project Hecatonchair、略称EDAC)は、7月30日、トークイベント「民間・行政・医療 それぞれの立場で語る熊本地震100日史 ~あのとき現場で本当は何が起きていたのか~」を開催した。3回に分けてその様子を伝える。
4月の熊本地震は、2回続けて震度7の地震がくるという前代未聞の大規模災害であり、熊本在住のEDAC理事長・稲田悠樹氏は自らも被災者となった。彼が本震から3日後の気持ちを率直につづった「熊本在住です。しかしドローンにおいて今のところ私は無力」という文章は大きな反響を呼んだ。
その後稲田氏は民間ボランティアチーム「チーム熊本」での被災者支援活動、「BRIDGE KUMAMOTO」による産業支援活動、およびEDACによる被災地のドローン空撮支援などの活動に携わっている。また、EDAC副理事長の円城寺雄介氏は佐賀県庁職員であり、行政の立場から大きな被害を受けた熊本県西原村の支援に携わっている。この日のイベントでは、両名に加え、EDACと協力して実証実験を計画中の熊本赤十字病院国際医療救援部で赤十字による海外救援ミッションへの参加経験もある曽篠(そしの)恭裕氏が、それぞれの立場で熊本地震から100日間の支援の実際について語った。
▼左から円城寺氏・稲田氏・曽篠氏
稲田氏が活動するチーム熊本は、発災から100日間で延べ2200名のボランティアと1100トンの救援物資を受け入れ各地の避難所に配送している。
▼熊本地震の被害状況を説明する稲田氏
「最初の地震が4月14日で行政のボランティアセンターが立ち上がったのは4月22日。1週間かかっている。自分たちで頑張るしかないということで活動を始めました」(稲田氏)
活動を開始してすぐに明らかになったいくつかの課題がある。
課題となったのは「大量の物資の配送」。これだけの量になるとシンプルに「欲しい人」と「渡したい人」の間を「届ける人」がつなぐだけでは動かない。
「多くの人が専門的にさばかなくてはとてもさばけない」(稲田氏)と、組織を作り分業することの必要性を痛感したという。
またもう一つの課題がさまざまな人が善意で集まるからこそ発生する「人の不均一さ」だ。ITリテラシーのばらつき、作業に習熟していない、ひとりひとりは短期間の参加であり教育もできないことを前提として組織は組み立てる必要がある。
これらの課題を克服しつつ迅速な物資の配送を実現するために、チーム熊本では徹底したタスク単位での分業マニュアルを作成した。迅速性を優先して一次情報は紙で伝達し(宅配便の伝票のイメージだ)、物資を届ける輸送班と、紙の情報を入力してクラウド上に記録するデータ班に作業を分け、さらにタスクを細分化することで、迅速な配送とトレーサビリティを両立した。
このチャートは日々の業務の中で問題が起きたら都度改善するという形で徐々に確立していった。「朝やってみたやり方がうまくいかなければ夕方には変更する、その繰り返し。データ班も、確実に後追いができるように、活動開始から1週間後に新設した」(稲田氏)
SNSは即時性があり拡散が容易であるというメリットがあるが、一方で情報発信者と受信者の間に時差があることが問題となった。「物資が必要、と発信したものを2日後に見た人が支援物資を送ってくれても既に届いていたり、『もう届いています』と追記してもタイトルしか見られないで直観的にシェアされ拡散されるようなことがあり、困った」(稲田氏)
これを解決するためにチーム熊本がとったのが「電話番号」の掲載だ。物資が必要な方向け、炊き出し支援を行う方向け、ボランティア受付など目的別に電話番号をSNS上で公開し、この電話番号を拡散してもらうよう働きかけた。スタッフが「まず直接話す」ことで正確に現状を伝え、今必要な支援とボランティアをつないだ。
電話を利用することで、高齢者などスマホやネットを使えない人でも支援を求められるというメリットもあった。「避難所でおばあちゃんに学生が電話番号を教えて、電話をかけてこられることもよくありました」(稲田氏)
電話応答についても、詳細なスクリプトを作成して担当ボランティアに渡すことで、スムーズな物資配送やボランティア手配へとつなげた。
避難所内の情報伝達に大きな役割を果たす「掲示板」だが、最新の情報に更新するためには現地に行って「貼り紙」をしなくてはいけない。チーム熊本では最新情報を掲載したウェブサイトにアクセスできるQRコードを物資配送時にチラシの形で配布し、「スマホでかざせば最新の情報が得られる」ようにした。
避難所ではスマホを持っている人が持っていない人に最新の情報を伝えてもらうようにした。「(避難所には)デジタルは使えない人が圧倒的に多いので、アナログとデジタルをいかにまぜるか、人と情報をどうつなげるか考えた」(稲田氏)
▼最新の情報を集約するための作業フロー。現在も日々更新中だ。
「『ドローンは防災に役立つ』と考えていたのにいざ被災してみると、ドローンが飛ぶことが生きることに直結していなかった。命につながっていなかった。私自身のことをいえば、ドローンを飛ばしてほしいと依頼してくれるクライアントがいなかった。これらが相まって当初は何も活用できなかった」と稲田氏は被災当初の状況を振り返る。
だがその後、EDACとして西原村の被害状況を空撮して避難所で上映したときには、住民の方々にも大変喜ばれたという。
▼上映会の様子は新聞でも大きく報じられた
空撮することで被害状況を迅速正確に把握したり、危険で立ち入れない場所の被害状況をモデル化することができる。当日は撮影データを利用して作成した、倒壊した阿蘇神社の3Dモデルも紹介された。また現地に行くための道路状況を調べるためにドローンを飛ばすことで、事前に通行不可な道を知って効率的なルートで移動できる。
▼地割れの長さや方向についても空撮であればものの10分で正確にわかる
▼梯子をかけなくては分からない屋根の損壊状況も空撮であれば明確にわかる。「(今は認められていないが)迅速な罹災証明発行にも役立てられるのではないか」(稲田氏)
▼移動経路が寸断されており、ドローンによる事前調査は有効。
また、西原小学校からは、「映像を社会科の『自分たちの住んでいる地域を知る』という授業で使いたい」という相談もあったという。「役立つことはたくさんあるので、事前にどんなことができるかを伝え、訓練しておくことで価値が広がるのではないか」と稲田氏は述べ、今回の経験を生かして災害時のドローン活用について広く情報発信すると共に、関係各所との事前の取り決めを進めておくことの重要性を指摘した。
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登録はこちらWirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。