千葉工業大学 先進工学部 知能メディア工学科 教授 安藤昌也氏

千葉工業大学 先進工学部 知能メディア工学科 教授 安藤昌也氏(後編)「技術による社会のバージョンアップ」の受け入れ方を決めるのがUXデザインの役割

ヒトとモノを巡る冒険 #003

2016.10.07

Updated by 特集:ヒトとモノを巡る冒険 on 10月 7, 2016, 12:00 pm JST Sponsored by ユニアデックス株式会社

IoTへの取り組みに、サービスデザインやUXデザインの考え方をどう生かせるのでしょうか。千葉工業大学 先進工学部 知能メディア工学科 教授安藤昌也氏に、ユニアデックス株式会社 山平哲也が、引き続きお話をうかがいます。(構成:WirelessWire News編集部)

千葉工業大学 先進工学部 知能メディア工学科 教授 安藤昌也氏

安藤 昌也(あんどう・まさや)
千葉工業大学 先進工学部 知能メディア工学科 教授。総合研究大学院大学文化科学研究科メディア社会文化専攻修了。博士(学術)。ユーザエクスペリエンス、人間中心設計、エスノグラフィックデザインアプローチなどの研究、教育に従事。人間中心設計およびアクセシビリティの国際規格に関するISO/TC159(人間工学) 国内対策員会委員。人間中心設計に関するJIS規格の原案作成委員長を務める。また、NPO法人 人間中心設計推進機構(HCD-net)理事等を歴任。同機構認定 人間中心設計専門家。

サービスデザインへの第一歩は、「やったらええがな」な社内カルチャー

山平:IoTに関して我々にご相談頂いている方々に、「フェイルファスト(fail fast)ですよ」とか、「ウォーターフォール・モデルで企画を進めてはうまくいかないですよ」とか、「小さくいっぱい失敗してその中からアタリをみつけていくんですよ」とお伝えしても、頭ではなんとなくわかってるんですけど、アクションするところまですごい距離があります。そういうところに『サービスデザイン』というような言葉がスッと入っていってくれるといいのになぁと思うことがあるんです。

安藤:『サービスデザイン』という言葉を、学術的に定義するのは簡単なんです。「計画したユーザー体験を提供するために、タッチポイント全体を通して一貫した仕組みを設計すること」と説明はできますが、「自分たちのタッチポイントがどこにあるのか」という見方を常にしていないと難しいかな、とは思いますよね。

山平:我々にご相談いただくお客様にタッチポイントを探し出す一歩を踏み出して貰うために、刺さる言葉はそれぞれで違うとは思うのですが、アクションをイメージできるように伝えられる何かがあるといいなと思ってるんですが……。

安藤:何から取り組めばいいかは難しいですね。難しいなとは思うんですけど、いつも僕は「やったらええがな」って思うんですよね(笑)。

『UXデザインの教科書』にタクシー会社の事例を書いたのですが、この会社は社長が先進的で柔軟な考え方の持ち主で、ニコニコ動画で会社説明会をやったり(笑)、社員がいろいろ自由に出来るんです。そういう柔軟な社内カルチャーが大事で、そこが全てなんじゃないかという気がします。

▼安藤 昌也 著『UXデザインの教科書』丸善出版 2016年
安藤 昌也 著『UXデザインの教科書』丸善出版 2016年

安藤:今さまざまな企業がある中で、「やったらええがな」が「できる」カルチャー作りが必要で、そのためには上の人が「よくわからないからやらない」というのをやめないと。また、トップダウンでコンセプトを決めるだけで全てがうまく動くことは絶対にありません。

僕がコンサルティングで協力している企業にUXデザインの考え方を導入する際には、既にボトムアップで取り組んでいく人達と一緒に、会社の上の人達を上手く巻き込んでいくという役割を果たすことが多いですね。そういう方が社内にいることが重要で、草の根でそういう方がいないと進められないだろうなと思います。もし会社が儲かってるんだったら、やったらいいじゃないかと思いますけどね(笑)。

山平:儲かってる間にこういうことをやらないと、間に合いませんよね。

安藤:特にIoTやITをサービスに繋げようとすると、昨日今日、危機が迫ってからやりだしても間に合わないですよね。例えば「自社の製品の運転状況をデータ通信で集めてサービス化しましょう」と思っても、その時点では通信モジュールが入っていないわけで、今からやると10年後で危機を打開するような施策としては間に合わない、というような話になったりするわけです。ですから最初からそこを見越して、取り組める時に取り組んでおかないと。今儲かる話ではなくて、未来に儲けるために資産を作っていかなきゃいけなない。そこが一番重要なんだろうなと思いますけどね。

山平:銀の弾など無い、というわけですね(笑)。

サービスを考えるキーワード「ありがた迷惑」と「おせっかい」

山平: ここまでは「サービス」、「デザイン」を中心に伺ってきましたが、IoTやサービスデザイン、仕組みのデザイン、そういうものに今後影響を与えそうな技術や、あるいは技術以外の動きで、今注目されていることはありますか。

安藤:僕が今興味持っているのは『ありがた迷惑の研究』。同じサービスでも、ユーザーが「ありがたい」と感じる場合と、「ありがた迷惑だな」と感じる境目はどこか、ということです。例えばスマートフォンアプリの通知機能一つ取ったとしても、どのタイミングで出してあげたら嬉しいか、これは本気でもっと研究する必要があると思うんです。

例えば駅構内にいる人に「この近くにおいしいレストランがありますよ」という通知を出したとして、その人が急いで走っていたら迷惑ですよね。でも、ゆったり歩いていたらそういう情報はありがたいかもしれない。そういうユーザーの文脈が分かるような技術って、今、どんどん増えてると思うんですね。

ビーコンやひとつひとつのセンサーを統合して、もっとユーザーの文脈が分かるように、技術を文脈に転換する部分に今後期待したいです。サービス側の研究としては、ユーザーの状況が分かった時に、どうしたらふさわしい情報提供になるか、良いタイミング、ありがた迷惑のタイミングを見つける研究が必要で、もし両方出来るようになったら、すごく良いサービスになるだろうなと思います。

今僕は「誰かのためにやってあげる」ということを『利他的UX』と考えていて、社会だけではなく、例えば会社の中で、そういう振る舞いが人事考課に繋がるというのも、今後あり得ると思うんですね。そういう新しい働き方とか、新しいサービスとかに、会社の中の人が意欲的に取り組む環境とか姿勢を許容していくマネジメントこそが、企業の差になっていくだろうと思います。

山平:受ける側からすると「ありがた迷惑」ですけど、やる側からすると少し「おせっかい」なところがありますね。そこが利他的と言えば利他的ですね。

安藤:そうですね。サービスって多分、そういう側面があると思うんです。

山平:そこにいる人の誰かがちょっとおせっかいじゃないと、サービスに限らず、いろんな物事って進まないんですよ(笑)。日本人は、問いかけられるまでは大人しく黙っている方が増えていますから。おせっかいって、意外と重要なキーワードになるのかもしれません。

技術は社会のOSをバージョンアップするもの

安藤:あと、ソリューションということではなくAIやIoTという観点では、シンギュラリティといって、これから人間は機械に仕事を奪われていくんじゃないかとか、そういう論調もないわけではないです。でも一方で技術が私たちの生活をドライブする部分というのは必ずある。そういう意味では、技術の可能性を制約をおかずに追求する側面は、僕は、不可欠だと思うんです。

その上で、人間中心設計やUXの専門家が、そういったものをどう活用していくか、どうやって社会に浸透させるか、利用していくかっていうことを考えれば良い。今の時代はまだ、いきすぎた人間中心設計を推し進める時期では無くて、技術が先行して構わないと思いますし、可能性を是非探索して欲しいですね。

例えば時計が出てきた時も、きっと、困った人達は沢山いたと思うんですね。昔は教会の鐘で生きてきた人達が、時間が目に見えるようになった瞬間に、「こんなものいらない」「こんなことされたら困る」という人達はいたと思います。でも私たちの社会は、時計が支配する時間の中で生活するように、更新されてきたんですね。僕はこれを社会のOSのバージョンアップっていうふうに考えています。

これと同じように、新しい技術が出来てきた時に、どう生きていくかはこれから我々が考えなきゃいけないけれども、でも今は、技術が議論をドライブする、そういう時期だと思うので、大いに挑戦してもらいたいと思います。

AIやメディア技術を駆使し、UXデザインできるエンジニアを育てる

山平:そういうシンギュラリティに到達する、あるいは人工知能のような技術が先行して変化をもたらす可能性がある未来、社会に出て行く安藤研究室からの卒業生には、どんな活躍をして欲しいですか。

安藤:「人工知能とかメディア技術をもってなおかつ、人間中心でデザインできるエンジニア」として、技術を上手く人に適応できる、新しいサービスを提案できる、そういうエンジニアを目指してもらいたいと思っています。

学生たちには実践的にデザインを体験してもらいたいと、色々なプロジェクトをやってもらっています。随分前になりますが、千葉県、県観光物産協会、そごう千葉店と共同企画して、「ちば土産プロジェクト」というデザインプロジェクトをしたことがあります。学生が千葉の特産品のパッケージのデザインをして、実際に販売して頂いています。

お土産を買う時、買う人は「お土産をあげる時の体験」をイメージして、誰にあげようかな、とか、その人はどういう風に反応するかな、とか思いながら物を買うわけですが、パッケージからなんとなくその手がかりが見えると、「買いたい」ってなる。そういう意味では、パッケージはエクスペリエンスデザインなんですね。日用品ではなくお土産ですから、結構高いですよ。でも、売れているんです。

▼永井鰹節店「食べる かつお」「食べる さば」
永井鰹節店「食べる かつお」「食べる さば」

▼「半立から付落花生」
「半立から付落花生」

安藤:展示会のエクスペリエンスデザインもやりました。例えば中小企業の技術紹介ですね。昔はパネルを置いて、誰か説明員が立っているというような形だったようなんですが、なかなか内容が難しくて見て貰えない。実際に企業訪問をしてみると、確かに説明が難しいんです。商工会議所の催しなので、市民に内容を伝えたいということで、どうしたらいいか工夫を考えました。そういうことも、デザインの仕事かなと思っています。

▼中小企業の一般向け技術紹介展示会のエクスペリエンスデザイン
中小企業の一般向け技術紹介展示会のエクスペリエンスデザイン

良いUXデザインの第一歩は、仕事を「自分事化」すること

山平:最後に、今サービスデザイン、UXデザイン、人間中心デザインという研究活動をされているところから見て、我々のようなITサービスやSIer企業に対して期待するところがあればお伺いしたいのですが。

安藤:今回ユニアデックスさんのお仕事内容を伺って「いいなぁ」と思ったのは、純粋な物作りの会社の、サポートをされているというところでした。

山平:お褒めいただき、ありがとうございます(笑)。

安藤:最近SIのイイ話聞かないじゃないですか、正直言うと(笑)。それは、お客さんのために、その人が求めているものを作ってあげる、実現してあげるっていうのが、他人事だとやっぱり難しいってことを意味していると思うんですよね。

だからといってどこまで一緒に出来るのかっていうのは、ビジネスだから難しいとは思うんですけれども、どんな技術でも、使う人というか、エンドユーザーはいます。「ほんとうのユーザー」という人がどういう環境に在るかっていうのを、みんなで意識持って欲しいなと思います。

山平:お客さんと、うまく「作る関係」になるっていうことになっていかないといけないと、日々痛感しています。

安藤:共創の関係はすごく重要で、一緒に作るということが大事ですよね。そして、プロトタイプにして、サービスをとりあえず進めてみることが、一番大事なのかなと思いますね。

いい体験をしたひとが、いいUXを作る

安藤:もう一つ、僕は今、働き方の研究をしているんですけれども、SIの働き方っていうのを、SIの人自身が提案してほしいっていうのは思いますね。

山平:確かに3Kとか言われて、かならずしもいい働き方だと誇れる業界ではない現状ですし……。

安藤:UXデザインに取り組んでいると、作る人が「いい体験」とか「嬉しい体験」ということを理解できていないと、「いい体験」を作れないんです。そういう意味では、業界全体が良い働き方をしないと良いソリューションは作れないんじゃないかと、本当にそう思っています。

山平:働き方そのものについて、このままではいけないという危機感は、業界全体にあります。少しずつ取り組んでいますが、まだまだ足りないと思います。そして、自分の「いい体験」をお客様への「いい体験」につなげていくことはこれからの課題です。今日はありがとうございました。

IoTの実現に向けたユニアデックスの取り組みはこちらをご覧下さい。

安藤 昌也/山平哲也

【聞き手】山平 哲也
ユニアデックス株式会社 エクセレントサービス創生本部 プロダクト&サービス部 IoTビジネス開発室長
企業向けシステムエンジニアとしてキャリアをスタートし、インターネット普及に伴いIPネットワーキング技術などを担当。2001年に米国シリコンバレーにおける拠点立ち上げ。2007年からICTソリューションのマーケティング企画部門を経て、現在、IoTを中心としたエコシステム構築とビジネス創造を推進している。
山平哲也氏によるインタビュー“あとがき”は、ユニアデックスのオウンドメディア「NexTalk」をご覧ください。

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ユニアデックスは、IoTで新たな価値を創造すべくさまざまな取り組みを進めています。本特集では、エクセレントサービス創⽣生本部 プロダクト&サービス部 IoT ビジネス開発室⻑である山平哲也が、「モノ」「ヒト」「サービス」の 3 つの分野で先進的な取り組みをされている企業様へのインタビューを通し、IoTがもたらす未来と、そこへ至る道筋を描きだすことに挑戦します。(提供:ユニアデックス株式会社