画像はイメージです original image: © Tomasz Zajda - Fotolia.com
アンディ・ルービンが目をつけたナウト(Nauto)にトヨタとBMWが呉越同舟する理由
2016.10.12
Updated by Hayashi Sakawa on October 12, 2016, 07:00 am JST
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2016.10.12
Updated by Hayashi Sakawa on October 12, 2016, 07:00 am JST
昨年トヨタが米国で設立したAI関連の研究開発子会社トヨタ・リサーチ・インスティチュート(Toyota Research Institute、TRI)、BMWのベンチャー投資部門(BMW iVentures)、それにドイツの保険大手アリアンツのベンチャー投資部門(Allianz Ventures)の3社が、ナウト(Nauto)というシリコンバレーのベンチャー企業に出資したという話題が先週後半に一部の媒体でニュースになっていた。
トヨタとBMWが呉越同舟するベンチャーってどんな会社だろう。そんな疑問が浮かんで、調べてみたところ、次のような事柄がわかってきた。
ナウトは今年4月に設立されたかなり新しい会社。設立とほぼ同時に実施されたシリーズAの資金調達ラウンドで、アンディー・ルービン(「アンドロイドOSの生みの親」)が昨年設立したプレイグラウンド・グローバルというインキュベータがリードインベスターとして参加していたことが一部のニュースで採り上げられていた。
このプレイグラウンド・グローバルのことを特集したWIRED記事(昨年2月のもの)のなかに、「ルービンがどうやら車載カメラ(dashcam)を無料で配って、映像データを収集しようとしているらしい(ルービン本人は詳しいことは語りたがらなかった)」との一節があり、それが他の媒体でも話題になっていた。
ナウトがこのダッシュカム関連の取り組みそのものかどうかを確認できる情報は見つからない。ただ、ルービンが狙いとする「人工知能(AI)がその真価を発揮するには、物理的な世界のデータを扱えるようにする必要がある」「データを収集できるハードウェアをたくさん配置し、そこから集まるデータを使ってAIを鍛えられるようにすれば、データ量の増加に伴ってAIはどんどん賢くなる」「AIが賢くなれば、それがより良いハードウェアの開発につながる」といった好循環はナウトの取り組みとも共通するもの。つまり、ナウトが現在提供している車載カメラやセンサー類から集まるデータ量が増えるほど、同社のデータ解析技術は向上し、得られる解析結果の質も向上して、新たなハードウェア(この場合は自動運転車)の開発に役立つ」といったことだ。
ナウトが現在提供しているサービスは、運輸事業者(トラックやタクシー会社など)が仕事で使う車両に、後付け式のデータ収集用装置(バックミラーに装着する2台の車載カメラやセンサー類、GPSなど)を取り付け、そこから得られたリアルタイムのデータを事故の予防に役立てたり、事故が起こりそうになった状況を事業者が把握できるようにする、といったもの。車内を撮影するカメラでよそ見しているドライバーにアラートを出すといった機能もあるらしい。またその派生物として、保険会社向けにドライバーごとのリスクを計測するためのデータ提供なども行なっている。今回の増資にアリアンツが参加しているのはこの流れと思われる。
ナウトにもともとAIを使った解析技術があり、その応用先として自動車や道路関連のデータが選ばれたのかどうか。この点もよくわからないが、同社が路上でのデータ収集のとっかかりとして、まずは運輸事業者の車両に焦点を絞ったというのはほぼ間違いない。なぜなら、後付け式のデータ収集用装置を一般向けにリリースするよりも、装置の導入メリットがより明確な事業者のほうが話が早く、同時にサービス提供とかたちで収入源確保も見込めると考えられるからだ。ルービンのプレイグラウンドは、ハードウェア開発の専門家が揃い、デバイス開発面でもインキュベートする企業をサポートできるのが強みという説明がWIRED記事にはある。その点も考え合わせると、ナウトが必要とされるデバイスを導入先の話を聞きながら開発したという可能性も思い浮かぶ。いずれにしても、事業者の車両を使って自社システムの実験を行い、それで得られた結果をもとにトヨタとBMWに出資・提携の話を持ちかけたとの可能性が高そうだ。
今回の話を伝えたRecode記事には、トヨタやBMWが自動運転車用のソフトウェア開発に使うデータをナウトが提供することになったとある。両社とも自動運転車の開発は進めているので、自社の取り組みから得られるデータでは足りない分をナウトのそれで補うということだろうか。さらに、ナウトは将来的に自社のソフトウェアを両社の車両に搭載させたい考えで、また2社以外との自動車メーカーとも協議を進めているという同社のステファン・ヘック(Stephen Heck)CEOの話も出ている。
Recode記事には、TRIでデータ責任者兼事業開発担当を務めるジム・アドラーという幹部が登場し、ナウトと組むことにしたトヨタ側の考えを説明している。「自動運転車はいろいろな状況に対応できなくてはならない。われわれがたくさんの状況をシミュレーションできることも確かだが、経験できる状況は多ければ多いほどいい」「ナウトが集めたデータのなかには、われわれが想定していなかった状況のデータも含まれているかもしれない」「ナウトのデータと比較することでわれわれのシミュレーションが正しいかどうかを確かめることができる」などとアドラーはコメントしている。
なお、ナウトに集まるデータ量に関して、「来年中には累計の走行距離が10億マイル(billions of miles)の大台に乗る見込み」というヘックCEOのコメントも目を引いた。具体的に何台程度の車両に同社の装置が導入されているかといった説明がないため額面通り受け取れない部分も感じるが、これが本当だとすると、Google Carの「200万マイル(two million miles)」(直近の数字)とはまさしく桁違いということになる(集まるデータの種類の違いはあるにしても)。
ナウトとの提携で、トヨタはBMWと車両の安全に関連するデータを共有しあうことになるが、その点について(不都合はないかと)訊かれたアドラーは「(ナウトが集めているようなデータを利用する)セーフティ機能は、さほど大きな競争上の優位にはならない」「アンチロック・ブレーキが登場したてのころにはそれがとても大きなアドバンテージになると自動車メーカー側は考えていたが、いまではほぼどの車種にも採用されている(ナウトの仕組みを利用する機能もそれと同じこと)」などと答えている。
なお、このアドラーという人物、ロッキード・マーチンでの宇宙船制御関連の仕事を振り出しに、一貫してデータを扱う技術の開発に携わってきたとMediumの自分のページに記している。TRIではいまのところ所長のギル・プラットだけが表に顔を出しているとの印象もあるが、今後は現場の責任者のひとりとしてこのアドラーが出てくることも増えるのかもしれない。
【参照情報】
BMW and Toyota just bet on the same self-driving tech startup - Recode
BMW, Toyota and Allianz back NAUTO and its camera-based approach to making autonomous vehicles - TechCrunch
Startups like Nauto look to cash in on automakers' need for autonomous tech - Recode
ANDY RUBIN UNLEASHED ANDROID ON THE WORLD. NOW WATCH HIM DO THE SAME WITH AI - Wired
Next Leg: I’ve Joined Toyota Research Institute - Medium
ハードウェア無料配布でデータ収集 - AI開発に焦点を定めるアンディ・ルービン氏
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登録はこちらオンラインニュース編集者。慶應義塾大学文学部卒。大手流通企業で社会人生活をスタート、その後複数のネット系ベンチャーの創業などに関わった後、現在はオンラインニュース編集者。関心の対象は、日本の社会と産業、テクノロジーと経済・社会の変化、メディア(コンテンツ)ビジネス全般。