original image: © Syda Productions - Fotolia.com
人事評価の新潮流~GEが9ブロックを止めたのは本当だった!
2016.11.14
Updated by WirelessWire News編集部 on November 14, 2016, 11:09 am JST
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2016.11.14
Updated by WirelessWire News編集部 on November 14, 2016, 11:09 am JST
2016年10月16日、僕は東京・渋谷・代官山で会社が法人会員になっている「人材育成学会」の研究会に参加した。研究会のテーマは『パフォーマンス評価の新潮流』。その研究会での講演で、僕は、GE社などの人事部マネジャーから、「パフォーマンス評価の新しい取り組み」を直接聴くことができた。
日本の企業の人事部が手本にしてきた米GEの人事制度である「セッションC」。後継者の育成・配置のための人材評価の仕組みで、「9(ナイン)ブロック」が評価ツールとして活用されている。「業績結果×GEバリュー発揮」の2軸のレベルをそれぞれ3段階に分けた9ブロックの中で社員を順位付けする。
僕は起業前の前職(リクルート)時代(2000年代初頭)に、某大手グローバル電機メーカーの評価者トレーニングの設計に関与したことがある。この企業も「業績×バリュー発揮」の評価制度に転換した。
当時僕はGE社の評価システムを研究し、それを当時のJ・ウェルチCEOの掲げる「ビジョンと戦略」を実現する、アライメントがとれた優れた評価システムと認識していた。また、バリュー発揮の切り口(ディメンジョン)や項目は、僕がコンピテンシー作成をする際のベンチマークにもなっていた。
そのGEが9ブロックを2016年から止める。
「人材育成学会」の研究会での、GEの人事部マネジャーからの話は僕にとって衝撃だった。
「インダストリアルインターネット」。
米GE社が掲げる成長のための新構想だ。航空機のジェットエンジンや発電所のタービンシステム、鉄道車両、建設機械などをネットワークに繋げ、そこから、生み出されるビックデータを解析し、オペレーションの効率化や新たな顧客ニーズの発見につなげる取組みである。GE社はIoTビジネスを中心に据えて、既存事業の変革を図ろうとしている。
昨今のビジネス環境は「VUCA」と呼ばれることがある。Volatility(不安定)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧模糊)の4つの頭文字からできている。
加速度的な変化がこのVUCAを常態化する環境に如何に対応できるか?強い組織、強い人材が求められることは必然である。GE社もシリコンバレーにラボを作り、エンジニアを大量採用し、シリコンバレーの文化を積極的に導入している。
米GE社CEOジェフリー・イメルトはこう語る。
「…産業の変化に対応するには最適な実行者が不可欠。同時に、よく素早く、よりインタラクティブな文化を身につける必要がある….」(日経ビジネス 2016.10.17号 P13)。
米GE社はこれまで導入していた「シックス・シグマ」「ワークアウト」「CAP(チェンジ・アクセラレーション・プロセス)」という変革手法に加えて、「ファストワーク」という新たな製品開発プロセス手法を2012年頃から開始した。
「ファストワークス」とは文字通り、「素早く働く」ことを意味する。システム開発でのキーワードである「アジャイル(俊敏さ)」と同義である。重厚長大企業の代表格であるGEに最も欠けていた「アジャイル」を求める革新的な取り組みといえる。
「準備に時間をかけるのではなく、まずは作ってみる。顧客からは定期的にフィードバックを受け、必要あれば思い切って方向転換する」。
まさに、デザイン思考的に「プロトタイプ」を作り、顧客とのコミュケーションの中で新たなインサイトを発見していき、プロダクト(またはサービス)の改善を図っていくプロセスを推し進めている。
このようなアジャイルに対応する文化形成にとって、年2回の「9(ナイン)ブロック」評価がそぐわなくなってきた。期初に上司が部下と設定した目標も環境の変化により意味がなくなる。
GE社はカルチャー・チェンジに向けて、米ITスタートアップ企業やシリコンバレー系企業を調査・研究する。折しも、2015年にGoogle社人事担当上級副社長ラズロ・ボックが自社の採用・育成・評価について書いた『Work Rules』(東洋経済新報社)がベストセラーになったのも偶然ではないだろう。
GE社は、2016年度より、下記のように人事評価を改める。
(1)No Rating(レイティングの廃止)
SABCDなどのレイティングを付け、それを説明するためのプロセスを廃止
(2)No Curve(正規分布の廃止)
評価の調整の際に、あらかじめ定めた正規分布率(ベルカーブ)に収めるのを廃止
「インダストリアルインターネット」を核にしたビジネス変革を促進するために、GE社はこれまでの評価のあり方について、以下のような問題意識を持った。
企業として、成果を追い求める姿勢、つまり、成果主義は当然捨て去ることはできない。しかし、これまでの目標管理(MBO)および評価システムは、成果を上げることに繋がっていたのか?
具体的な問題意識は以下の4点。
ここでのキーワードは『プライオリティ』。我々のプライオリティ、つまり、最優先事項は、顧客の求める価値と会社にとってのインパクトであると再認識したのである。これが上記(3)の答えだ。
「目標」は、この「プライオリティへの注力」が重要となる。しかも、ビジネス環境の変化にアジャイルに対応するためには、この「プライオリティ」は変動する。よって、「プライオリティへの注力」にむけて、「目標」も変動する。年に2回の目標設定と評価では、パフォーマンスを上げることには寄与しなくなる。これが上記(2)の答えだ。
また、上司は部下の評価を決めるために、部下の査定のレポートの作成に多大な時間や工数をかけているが、「目標」が変動する状況のなかでは更なるレポート作成工数が発生する。これは全く生産的でない。これが上記(4)の答えだ。
結論として、これまでのMBO-評価の仕組みは、社員が成果(パフォーマンス)をあげることを促進できないことに考えが至る。これが上記(1)の答えだ。
では、GE社はどのような評価システムの運用を図ろうとしているのか?
上記図(※本稿では割愛)にあるように、上司と部下の接触頻度は、これまでは期初に多く、以降は頻度が下がる傾向にあった。それをGE社は以下のように転換する。
a.期初の上司と部下での「プライオリティの設定」
期初に何を(プライオリティ)、どのように(GE Belief)を行うかを擦り合わせる。GE Beliefは、GE Valuesが進化した求められるコンピテンシーである。プライオリティの設定基準は、会社やビジネスが重視する結果(インパクト)に依拠する。
b.上司と部下との「タッチポイント」
「プライオリティの設定」後は、月2回程度の上司と部下の対話の場である「タッチポイント」を重視する。ここでは、
つまり、上司は部下を管理するのではなく、部下の成果に向けての活動をより促進する役割を担う、「パフォーマンス・ディベロップメント」が求められる。
評価時においては、上司は「タッチポイント・サマリー」のみを使用する。これは評価期間内に行われた部下との「タッチポイント」での記録の要約である。
しかも、SABCDなどのレイティングは付さない。部門での評価会議では、メンバーの顔つきの組織図が広げられ、該当のメンバーの報酬額を上司間で決定する。ここにおいて、あらかじめ定めた正規分布率(ベルカーブ)に収めるのを廃止している。では、どのように報酬額が配分されるか?
該当メンバーの直属の上司は、そのメンバーの業績や日々の活動について「タッチポイント」を通じて理解しているので、上司間で納得づくの話し合いがなされ、報酬額を決定する。
米国ではGE以外でも、「(1)No Rating(レイティングの廃止)」「 (2)No Curve(正規分布の廃止)」を行い評価システムの変革に取り組んでいる企業が増えている。これを実現するためには、GEの「タッチポイント」のような、上司と部下の対話の場が欠かせない。しかも、そこでは、インサイト&コーチングが前提となる。
2012年にビジネス渡米した際、米国Facebook社HRDマネジャーと面会する機会が持てた。その時の彼の話が印象的だった。
「我が社は上司と部下の対話の場を重視している。そのための空間も用意した」
「えっ、コミュニケーションはFacebookで行っているのでは?と、君は言うのかい!?No、あれではインサイトを共有できないよ。やっばり、面会して対話しないとね!」
※本文は2017.10.16に行われた「人材育成学会」での講演内容をベースに、他メディア(Web、記事、雑誌、書籍、論文など)の情報を盛り込み、著者によって記されたものです。よって、その内容はGE社および「人材育成学会」としての正式な発表内容ではないことを言及しておきます。
文:渡邉信光(Initiative & Solutions, Inc)
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