はたらきやすさを実現するネットワークとIoT 〜最新IT技術でオフィスが変わる〜

【イベント報告】「はたらきやすさを実現するネットワークとIoT」 多様性を受け入れる「オフィス」の実現が課題

2016.11.30

Updated by WirelessWire News編集部 on 11月 30, 2016, 16:30 pm JST Sponsored by NOKIA

去る10月18日、KDDIビジネススクエア丸の内にて、パネルディスカッション「はたらきやすさを実現するネットワークとIoT 〜最新IT技術でオフィスが変わる〜」が開催されました。オフィスと働き方の専門家、通信事業者、ネットワークベンダーそれぞれの立場から見た「あるべきオフィスの姿」について、交わされた議論の一部を紹介します。

写真左から、平山 信彦氏(株式会社内田洋行 執行役員 知的生産性研究所所長)、有泉 健氏(KDDI株式会社 執行役員ソリューション事業本部 ソリューション推進本部長)、櫻井 航氏(NOKIA シニア・ソリューション・マネージャー)、本江 正茂氏(モデレーター:東北大学大学院工学研究科 都市・建築学専攻准教授 博士(環境学))

写真左から、平山 信彦氏(株式会社内田洋行 執行役員 知的生産性研究所所長)、有泉 健氏(KDDI株式会社 執行役員ソリューション事業本部 ソリューション推進本部長)、櫻井 航氏(NOKIA シニア・ソリューション・マネージャー)、本江 正茂氏(モデレーター:東北大学大学院工学研究科 都市・建築学専攻准教授 博士(環境学))

働き方の多様化が進行している

パネルディスカッションに先立ち、は平山氏、有泉氏、櫻井氏がそれぞれの立場からオフィスに求められる機能や役割についてプレゼンテーションを行いました。

平山 信彦氏(株式会社内田洋行 執行役員 知的生産性研究所所長)

平山 信彦氏(株式会社内田洋行 執行役員 知的生産性研究所所長)

平山氏はオフィスに求められるものの前提としてオフィスワーカーの働き方変革を論じるにあたり、まず「2つのハピネス、3つの物差し、2つのアプローチ」という概念を提示しました。2つのハピネス、とは「働き方変革の目的」であり、経営側と社員側の2つの視点があります。経営側から見ると「生産性が高く、強く、生き残れる会社になること」、社員から見ると「働き甲斐を感じる、働いていて楽しく、幸せだと感じる職場を作る」ということで、「社員にとってのハピネスが体感できないと経営から見たハピネスも高まらない」ということを指摘しました。そして2つのハピネスを測定する指標として、「創造性」「効率性」「躍動性」の3つのものさし、指標を上げるためのアプローチとして「働く環境の整備」と「オフィスワーカーの意識や行動を変える」ことを挙げました。

働き方変革による期待効果はまず生産性向上や時短といったところに現れますが、それだけではなくコミュニケーション活性化による風通しの良さやダイバーシティ(多様性)、ひいてはイノベーションの生まれやすい風土といったことが期待できます。実際にやることは会議の見直し、ペーパレス化、モバイルワークなどさまざまな方向性があり、「その結果は多様性を持った社会をつくっていくのではないだろうか、という仮説を私たちは持っています」と平山氏は述べました。

働き方の多様化に伴い求められるコンセプトとして、平山氏は「いつでもどこでも(Anytime,Anywhere)」、「ユビキタス」「セレンディピティ」「インターセクション」「コンフォート」の5つのコンセプトを提示しました。

空間の価値創造につながるスーパーセンシング

続いて、KDDIの有泉氏は、「空間の価値を創る」というタイトルで、センシング技術を入口にした価値づくりの取り組みである「スーパーセンシング」について紹介しました。

有泉 健氏(KDDI株式会社 執行役員ソリューション事業本部 ソリューション推進本部長)

有泉 健氏(KDDI株式会社 執行役員ソリューション事業本部 ソリューション推進本部長)

その背景には、「顧客体験価値の向上」という課題があります。顧客接点における顧客の感情を知り、それに対するプロアクティブかつベストプラクティスを回し続けることが顧客体験価値を高めるためには必要であるという考え方です。「人と空間があって、その接点があるところをセンサーで測定し、蓄積されたログがAIやアプリによってバリューに変化され、人や空間に戻る、というロジックを考えています(有泉氏)」IoTやビッグデータという言葉ではなく、どのような価値を提供できるかが重要であるという考えを示しました。

スーパーセンシングでは、測定される空間の温度、湿度、光といった物理的な数値と空間の気配や雰囲気、あるいは人間の感情の相関を明らかにすることによって、空間の価値を測定し、向上することを狙いとします。「オフィス空間の価値としては、先ほど平山さんのお話にも出てきました『ポジティブな意識の定着』『モチベーションの高揚』。あるいは、『知的生産性や創造力の上がる環境』『集合知のジェネレーション』、といったところだと考えています」と有泉氏は述べました。

スーパーセンシングの研究を進めている「スーパーセンシングフォーラム」には現在企業、大学、研究機関など50団体ほどが集まり、センサーの開発やデータの解析、PoCの開発を進めています。

最後に有泉氏は、「空間の価値」に対する事業運営上の投資対効果の考え方として、「外部環境の変化に備える」「企業価値の創出」「顧客満足度の向上」「人材育成・ガバナンス」の4つの軸による評価を提示しました。

さまざまなデバイスをつなぐためにネットワークが重要に

ノキアの櫻井氏は、IoTの導入事例を中心に紹介しました。IoTを「Quality of Lifeを向上するために創造していく新しい技術でありビジネス」と定義し、ヘルスケア、小売、産業分野、自動運転、スマートホーム、スマートシティ、公共分野などさまざまな分野に加え、オフィスにおけるIoTについて詳しく事例を紹介しました。

櫻井 航氏(NOKIA シニア・ソリューション・マネージャー)

櫻井 航氏(NOKIA シニア・ソリューション・マネージャー)

「スマートスケジューリング」の事例は、スケジューラーと顧客名刺のデータベースを統合し、スケジューラーによる通知時にお客様のプロフィールもあわせて送信することで、事前にお客様の知識を頭に入れて置けるというものです。また会議室で使用するスマートグラスとAIによって、より白熱した議論ができる会議システムも紹介されました。

また、最新のデスクシステムとして、「スマートスタンディングデスク」も紹介されました。机にAIが搭載されており、出社時に机に向かって話しかけることにより、適切な高さに机を調整したり、血圧や心拍数や歩数計などの情報から「そろそろ座った方がいい」とアドバイスをくれたり、話しかけるだけでランチのケータリングを注文してくれるというものです。

オフィス環境をよくするIoTとしては、スマートサーモスタット、セキュリティカメラのライブ映像配信、植物の状態監視、照明のコントロールなどが紹介されました。また注目の会社として、スウェーデンのヤンジーネットワークスという会社を紹介しました。複数のセンサーの情報を統合して、トイレの使用頻度を測定して掃除を促したり、会議室の利用状況を検知するシステムを提供しています。

「IoTはさまざまなデバイスがつながっていくので、まずはネットワーク、インフラをどうするのかを考えなくてはいけない。帯域幅はどのくらいあれば足りるのか、あとは増え続ける帯域幅ニーズをどうやって支えていくかが問題」と桜井氏は指摘。既存のメタルネットワークから光ネットワークに変えていくことにより容量を増加し、既存のサービスはそのままにIoT製品も接続することが実現するとしました。

技術が提供できることは「選択肢」

3名のプレゼンテーションの後、モデレーターの本江氏も参加して、いくつかの視点からオフィスにおけるITが提供する「価値」について議論が展開されました。

はたらきやすさを実現するネットワークとIoT 〜最新IT技術でオフィスが変わる〜

一つ目の問題提起は、「価値を提供するといっても、実際には技術者が提供しやすいことをしているにすぎないのではないか?それが本当にユーザーが求めている「価値」なのか?できることをしているうちに、もともとの目的を見失っているところがあるのではないか?」というものです。

例として挙げられたのは会議中に空気が悪くなってきたことをセンサーが察知したときに、窓を自動であけるシステムでした。櫻井氏は「人が窓を開ければいいというのは正論だが、『窓を開ける』ことが会議の集中を遮断してしまうことになるので、そのようなことがなく議論に集中できるのは価値なのではないか」と意見を述べました。

これに対し平山氏は、「会議中に窓をあけることは集中を削ぐこともあれば沈滞したムードを変えるきっかけにもなる、人の動きは理屈通りにいかないものなので、技術には選択肢を提供していただけるとありがたい、このケースで言うと勝手に換気を強めるのか『窓を開けろ』と言うのか、どちらでもできるのがよい」と述べ、有泉氏も同意しました。

人の多様性に空間はどう対応するのか

次の問題提起は「多数の人が集まる場所で、それぞれにとって異なる『心地よさ』をいかに共存させるか」というものでした。例えばエアコンの温度一つとっても、暑いと感じる人もいれば寒いと感じる人もいます。全体としてのモデルと多様性の尊重をいかに両立するかという点について議論がされました。

本江 正茂氏(モデレーター:東北大学大学院工学研究科 都市・建築学専攻准教授 博士(環境学))

本江 正茂氏(モデレーター:東北大学大学院工学研究科 都市・建築学専攻准教授 博士(環境学))

平山氏からは「全体としてコントロールする部分と個別にコントロールする部分をしっかり分けて考えることが重要ではないか」という提案がされました。これに対して本江氏からは、「建築の世界でも同じ考え方で、個別の座席にエアコンの吹き出し口を着けユーザーにコントロールを渡してしまうような考え方もある。が、実際には使われることは少ない。人は案外横着なので、パーソナライズといっても絵に描いた餅になるのではないか」との指摘がありました。

大勢の人が集まることによるパワーが生み出されてくる中、多くの人を扱うことと一人一人にきちんと価値を提供することのギャップをどう捉えるかという質問に対し、有泉氏は「空間には住空間、商業空間、公共空間があり、それぞれにおいて人がもたらす価値と人にもたらされる価値は異なっている。どの空間で誰にどんな価値・意味があるのか、まだまだ検討しきれていないこれからの課題」としました。

平山氏は、「オフィスのような公共空間はまだまだユニバーサルな状況であり、一度個別最適にチャレンジしてみたらどうかという気持ちはある。とはいえ、ITで多様性を実現できる情報システムとは違って物理的空間には限界があるので、空間側にさまざまな選択肢をおき、そこに自分のモードに合わせて好きな場所を使うというアプローチの方が自然ではないか」と提案しました。ただしそのための課題として、「個人が場を使い分けるスキルを磨く必要がある」という点を合わせて指摘しました。

オフィスの意味と情報技術の限界

本江氏からの次の問題提起は、「ITによる空間のパーソナライズは『ここにいれば何でもできる』空間につながるはずなのに、なぜ我々はオフィスを作りそこにみんなが集まることに価値があると考えるのか」。情報技術では提供できない価値があるからわざわざ物理的に集まっているのか、あるいは相乗効果を生み出そうとしているのか。オフィスがオフィスであることの、つまり人が集まる場であることの価値の本質は何なのか、という問いでした。

「はたらきやすさを実現するネットワークとIoT 〜最新IT技術でオフィスが変わる〜」

平山氏は「偶発性・セレンディピティ」と「一緒にがんばる、励まされるといったエモーショナルな部分」という2つの理由を挙げ、「特に生産性という観点から見たときに、エモーショナルな部分は決して軽視できない」という点を指摘しました。有泉氏は、加えて、人材育成において、職場における普段の人間関係が重要であるという持論を述べました。これについて、本江氏からは、一緒にいることによって伝わるスキルのトランスファーは教育理論でも「正統的周辺参加」として意味づけられていると補足がありました。

正統的周辺参加が重要な理由として、本江氏は「教わる側がどの程度できるかを見極めながら、少し安全圏においてトレーニングすることが重要である」ことを挙げました。ではそこで「どのくらいやらせても大丈夫か」をセンシングによって見極めることはできないだろうか、というのが次の問いです。

有泉氏は、スーパーセンシングの究極の姿として、「センサレスセンサ」という考え方で、そこにいる人が考えていることをセンサーとAIで察知する研究をしていることが紹介されました。上司と部下だけではなく、泣いている赤ちゃんが何を考えているかをわかれば、子育てはもっと楽しくできるだろうし幼児とのコミュニケーションもスムーズにいくのではないかと期待を述べ、本江氏も「あまり知りたくない、知られたくないことの方が多いかもしれない」と笑いつつ、「職場におけるダイバーシティが広がる中、理解し合えない状況を解決するひとつの技術かもしれない」としました。

櫻井氏からは、自身のテレワークやテレカンファレンスの経験から、「雑談が難しくどうしても必要最低限のコミュニケーションになり、相手が考えていることが分からない」「相手の顔や感情といった微妙なニュアンスが伝わらない」ことから、オフィスが残り続けないとコミュニケーションが破たんしてしまうのではないかという意見がありました。

「それは現在の技術の限界で、今後微妙な表情や心拍や体温なども拾ったテレカンファレンスのツールができれば分かるようになるのではないか」という本江氏の指摘に対して、有泉氏は「そうしたもので例えばストレスは測れるようになっているが、どうしてもわからないのは“熱意”のようなもの」と述べ、迅速に伝えることが必要なシーンと本当に顔を合わせて話をすべきシーンでツールは使い分けるべきであるという考えを述べました。

オフィス=執務空間、ではないからこそ集まることが必要

本江氏からの最後の問題提起は「普段使いのオフィスの意味とは」というもの。「エモーショナルなものを共有するためにオフィスは必要だというけれど、いつでもそんなことが必要なわけではないし、オフィスもそのようには作られていない」(本江氏)日常の淡々としたワークをこなすためにオフィスに集まることの意味や価値がどこにあるのか、という問いです。

「はたらきやすさを実現するネットワークとIoT 〜最新IT技術でオフィスが変わる〜」

平山氏は、「会議の結論はロビーで決まる」という言い回しで、「組織が根回しやポリティクスで動いている状況では、ロジカルなコミュニケーションが中心になるリモートワークだけでは難しい」ということを指摘しました。この点については、有泉氏も、たばこ部屋などでも同様のコミュニケーションが行われていると同意しました。

また、平山氏は、「普通の何もない日常でのオフィスの役割」としては、何もないようでも周囲の刺激が自分に対して影響を与え、それがいい形で仕事に作用すること、また通勤というセレモニーによって仕事のスイッチを切り替えるケースもあることを挙げました。

有泉氏は、「組織としての一体感を持つために、オン・オフ関係なく組織のルームがあり、自分の居場所がありラインで動いているという「感覚」に戻される環境としての職場、ルームは普遍的になくしてはいけないのではないか」と述べました。

櫻井氏は、自身が昼食時にエレベーターでチームメンバー以外と雑談することが新しい情報や考え方に接することを挙げて、「オフィスに行くことで、テレワークではできない雑談が仕事に直結することがある」と述べました。

これらの意見を受けて、本江氏は「オフィスといえば執務空間をイメージするが、実はその周辺のロビー、たばこ部屋、エレベーターホールやビル下のコンビニまで含む、誰かと一緒にいる“ルーム”である」という点を指摘しました。「それらの多様性の中を行き来しながら、“働きやすい場所”で働いている」のが実態であり、いかにも保守的なオフィス像ではあるがその価値自体は今もあまり変わらず、それをどのように補強していくのかがこれからの課題であるとしました。

データを人にどう「返す」のか、人はどう変わるのか

最後に本江氏は環境に埋め込まれた膨大なセンサーで「集めたデータを人にどう返すのか」というデザインにはまだまだ課題があること、技術が入り込むことで人の感覚も変わってくるはずであること、建築はそれを考慮してどのようなサービスが提供できるか考えなくてはいけないことを挙げ、議論を締めくくりました。

「話が大きく広がりなかなかすっきりと『これが未来のオフィス像です』という提示は難しかった」(本江氏)という議論でしたが、「オフィス=執務空間という考え方にとらわれず、多様性に対応した働く環境を技術によって提供する」ことの重要性と難しさが浮き彫りになったディスカッションでした。

ディスカッション終了後は、会場に展示されたKDDIのマルチタクションのデモンストレーションなどを交えて、懇親会が行われました。

「はたらきやすさを実現するネットワークとIoT 〜最新IT技術でオフィスが変わる〜」

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