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工場、養豚、訪日客おもてなし、トイレ--IoTの検証状況をIoTビジネス共創ラボが報告

2016.12.06

Updated by Naohisa Iwamoto on December 6, 2016, 06:25 am JST

IoTビジネスを国内で起動に乗せるためのコミュニティ「IoTビジネス共創ラボ」が、2016年12月1日にパートナーラウンドテーブルを開催した。IoTビジネス共創ラボは、2016年2月9日に発足したコミュニティで、Microsoft AzureをプラットフォームとしたIoTプロジェクトの共同検証を通じてノウハウの共有を目指すコミュニティ。発足から10カ月ほど経過し、その中間報告といった意味合いもある。

▼IoT共創ラボの11社の参加企業を紹介20161205_iot001

まずIoT共創ラボの幹事会社である東京エレクトロンデバイスのIoTカンパニー Vice presidentの福田良平氏が、IoT共創ラボの歩みを紹介した。「参加企業は当初の10社にソフトバンクロボティクスが加わり11社になり、6つのワーキンググループで活動を進めている。一般会員は218社に上り、IoTに興味を持っている企業が多いという認識をしている」。

続いて、プロジェクトを共同検証するビジネスWGを除く5つのワーキンググループから、活動の報告があった。

製造WGでは、東京エレクトロンデバイス IoTカンパニー エンベデッドソリューション部 部長代理の西脇章彦氏が、コンテックの小牧工場におけるIoT見える化の検証プロジェクトについて説明した。コンテックはダイフクのグループ企業で、ラインの稼働状況などをデジタル化して作業効率や品質向上につなげたい考えがある。「検証プロジェクトの1つとして、温度・湿度計測による環境管理を行った。工場の作業エリアの温度・湿度をデジタル化して集中管理し、熱中症指数など作業者の環境も見える化を実現した。効果としては、デジタル化でデータが共有されるようになったことで、作業者の意識が変わったことはもちろん、工場以外の人も工場のデータを共有できることで意識に変化が出てきている」という。今後は、データを活用した実際の効率化やコスト削減につなげるため、分析・活用の段階につなげていくことが課題だと説明があった。

▼温度・湿度の計測により、ラインだけでなく人間の作業環境も見える化20161205_iot002

物流・社会インフラWGでは、養豚の出荷予測の検証プロジェクトを実施した。説明に立ったナレッジコミュニケーション 取締役 執行役員 COOの小泉裕二氏は「養豚業を営むグローバルピッグファームで検証を実施した。出産から出荷までの日数を、過去10年分の出荷データや天候などの外部データを用いたAzure Machine Learningで推測、実績と比べて1週間程度の誤差で機械学習による予測ができることを検証できた。属人性から、一般化への一定の成果が得られた」と語る。検証によってわかったこととして、現場で利用するセンサーには耐久性が必要だということ。「豚舎では高圧洗浄するとセンサーデバイスが壊れることがある。水圧や衝撃に強いセンサーが、Azure Certifiedのラインアップとして増えることに期待する」(小泉氏)。

▼養豚で機械学習を活用した出荷予測の検証20161205_iot003

分析WGでは、インバウンド客に対する寿司屋でのおもてなしのユースケースを作成中という。ブレインパッド ソリューション本部 プロダクトサービス部 部長の熊谷誠一氏は、「寿司屋のおもてなしもすでに一部分ならばAI(人工知能)化できるだろう。今回の検証では一連のおもてなしの流れをAzureでAI化することが目標だった」と語る。例えば、来店時に混雑している場合は待ち時間をロボットが外国語で説明する。タブレットによる注文では、Azureの顔認証APIであるFace APIを使って年齢を認識し、大人と子どもで異なる寿司のメニューを表示する。さらに、Bing Speech APIを使って、音声注文を受けるといった具合だ。「コグニティブサービスを使って、AIと人間でおもてなしの新しい体験を提供したい」(熊谷氏)という。

▼タブレットで顔認識をして表示するメニューを年齢層で切り替え20161205_iot004

ヘルスケアWGでは、複数の検証を行っている。ユニアデックス マーケティング本部 ビジネス開発部 新ビジネス企画室 グループマネジャーの椿健太郎氏は、「トイレIoTと介護サービスIoTの2つの取り組みを実施した」と語る。トイレIoTでは、混雑しがちな日本のオフィスのトイレの個室に、IoTのセンサーを取り付けて利用状況を可視化した。「男性用の個室は1日中ほとんど埋まっている。スマホや居眠りで長居している人には警告音を出すなど、利用状況をデータ化することで対策が施せる。オフィスライフと生産性の向上につなげられる検証プロジェクトだ」(椿氏)。介護サービスIoTでは、Pepperを使って高齢者などといかにコミュニケーションを取るかの実証実験を始めた。「現状では、Pepperが高齢者の声を聞き取れず、感情をうまく認識できないことも多い。また、ITリテラシーが高くない介護士に対して、継続してロボットなどを活用できるようにするケアも必要なことがわかってきた」(椿氏)という。

▼トイレ個室の利用状況を見える化し、オフィスライフの快適さと生産性の向上を目指す20161205_iot005

Pepper WGの説明は、ソフトバンクロボティクス 事業推進本部 エンタープライズ&グローバル事業推進部 エンタープライズ事業課の村林圭子氏が行った。法人向けのPepper for Bizが2015年10月の開始以来1700社に導入されたことをまず説明。「Pepperへの期待値はとても高い。しかし低価格のロボットであり、できることと期待と差がある部分もある。Azureとつなぐことでできることが増えることを想定している」と語る。Pepper単体では、顔認識も10人、20人程度であり、音声認識にも課題があるが、Azure連携により、何千人の顔認識や自然言語の認識が可能になると見込む。Pepper WGでは、8月以降に毎月勉強会を開催し、デベロッパーなどが多く参加しているという。「より業務に入り込んだエンゲージメントにPepperが利用できるよう、勉強会や実証実験の場を提供していきたい」(村林氏)。

▼Pepperの得意な分野を生かしつつ、Azureで苦手な部分を補うソリューションを検証20161205_iot006

同じくPepper WGでは、日本ビジネスシステムズ システムインテグレーション統括本部 AOソリューション本部 本部長の福田雅和氏が、異なる視点での指摘を行った。それは、Pepper自身もIoTデバイスであるということ。「Pepperは、重いものを背負ったり、激しく握った手を振られたりすると、モーターがいかれてしまう。Azureと連携して、手を強く振られたら『もう手を振らないでください』といった発言をするなど、Pepper自身の健康状態を管理する必要もある」という。

▼米国本社マイクロソフト クラウド&エンタープライズ担当 コーポレートバイスプレジデントの沼本健氏20161205_iot007

事務局を務める日本マイクロソフトから、米国本社マイクロソフト クラウド&エンタープライズ担当 コーポレートバイスプレジデントの沼本健氏がコメントを行った。「IoTは非常に面白い分野だ。マイクロソフトは、レベニューを遥かに超えた投資をしている。クラウドはソリューションがあってなんぼのものであり、IoTはクラウドのソリューションとして期待されている。すでにIoT関連で1週間に7兆メッセージぐらいが飛び交い、ユースケースも広がっている。ただし、最終的には面白いのは分析してインサイトを抽出したり、ビジネスモデル変革のトリガーになるものを見つけたりすることだ。トリガーになる企業にとって、価値があるエコシステムを作っていくことはマイクロソフトの役割として重要だと考えている」。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。