画像はイメージです original image: © bennnn - Fotolia.com
薬を正しく飲ませるためにITで何ができるのか?
2017.11.22
Updated by WirelessWire News編集部 on November 22, 2017, 07:00 am JST
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2017.11.22
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「コンプライアンス」という言葉は、かつての医療業界では病院などで処方された薬を患者に正しく使わせることを意味していた。現在では、主に企業などの法令遵守を指す言葉として定着しつつあるが、医師の指示・指導を順守する、つまり言われた通りに薬を飲んだり軟膏を塗ったりすることを患者に強いる、上から下へ向かうような言葉だった。
しかし、学校の先生から言われたことであっても、会社の上司からの指示であっても、なかなかその通りにするのは難しいものだ。その後、薬を正しく使うことをアドヒアランスというようになる。アドヒア(adhere)とは、信念に忠実とか計画に執着する、といった意味の単語で、患者の側が薬を正しく飲むことの意義に納得して、合意された計画に従ってきちんと薬を飲むということだ。治癒や症状の緩和への効果、副作用などを理解すれば、自発的に飲むようになるという患者の視点も加味した用語に変わったわけだ。
とはいえ、食事や睡眠を忘れることはないが、薬を飲むことは、たとえその意義を理解していても忘れてしまいがちだ。例えば、毎晩、夕食後に飲むように指導されて納得した薬であっても、一回忘れただけで症状が急変することはほぼない。何日かは正しく飲んで、症状が改善したという自覚があれば、面倒だし、薬の服用は結局のところ異物を摂り込むことだからと、素人の判断で意図的にやめてしまうこともある。
かくして、一定期間正しく飲めば効果があるという臨床試験に基づいて認可され、処方された薬が放置され、捨てられる。日本の残薬は年間100億円と推計されている(「医療保険財政への残薬の影響とその解消方策に関する研究(中間報告)」)。つまり、処方する際に医師や薬剤師がきちんと説明して納得させても、忘れてしまったり、飲まなくなってしまうというのが普通の患者の普通の行動なのだろう。
そこで、薬の飲み忘れを防止する仕掛けがいろいろと考案されている。イスラエルの「Vaica」というスタートアップが開発したデバイスは、薬を飲む計画を患者や医療関係者がPCなどからクラウドに登録するものだ。スケジュールがデバイスにダウンロードされると、ライトや音で飲む時間が来たことが知らされる。薬を飲んだら、クラウドに記録が残る。飲み忘れたら、患者に通知が行く。それでも飲まなければ、家族や医療関係者に通知が行く。
ただし、薬を実際には口に入れなくても、装置を操作すれば騙せてしまうので、中には、薬そのものにチップを埋め込んで、飲んだことをセンサーでチェックしてしまおうという取り組み(「大塚製薬とプロテウス社が開発したデジタルメディスン(服薬測定ツール)の新薬承認申請を米国FDAが受理」)もある。
残薬は厚労省だけでなく、WHO(世界保健機関)も大きな問題と捉えており(「ADHERENCE TO LONG-TERM THERAPIES: EVIDENCE FOR ACTION」)、世界各国で同じ課題に取り組む研究が行われている。
カメラで薬が減っているか確認するものや、薬を瓶容器で渡し、瓶の蓋の開閉をセンサーで調べるもの(「服用者を見守る服薬確認システム」)もあれば、ソーシャル機能を使って、複数の患者(匿名)で薬を正しく飲むことをゲームにして競わせるもの(「Mango Health takes aim at medication adherence with game design principles」)もある。
漫談家の綾小路きみまろさんの数ある高齢者ネタの中に、奥さんがご主人に執拗に「ねえ、私、今朝、薬飲んだかしら」と質問するというものがある。前の晩の食事を思い出すことも難しい中高年にとって、朝、薬を飲んだかどうかを正確に思い出すことは難しい。袋に入れてもらった錠剤の残りを見ても、今朝飲んだかどうかはまったく分からない。ご主人の答えば、「うるさいな、ゴミ箱をご覧」というものだった。
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