第3回 グローバル市場での通信運用自動化の動向(1)
AI for Network Operations
2018.12.11
Updated by Takashi Kokubo on December 11, 2018, 08:16 am JST
AI for Network Operations
2018.12.11
Updated by Takashi Kokubo on December 11, 2018, 08:16 am JST
第2回では、通信事業者における運用自動化やAI導入に関して、実際にどのようなものが世の中で導入されているのか、Tupl(トゥプル)の事例を用いて説明しました。営業活動をされている方にはご理解いただけると思いますが、我々のようなソリューション・ベンダーがお客様へ提案活動をすると、自社事例に加えて業界トレンドや他社動向の質問を受けることが多くあります。特に通信の世界では、LTEなどのグローバルで標準化されている技術を使っていることから、ほとんどの方が海外事業者の動向を気にされます。そこで、今回から2回に渡って、グローバル視点で通信の運用自動化のマーケット動向を整理してみたいと思います。
「海外の通信事業者は運用の自動化に積極的なのか?」と問われると、私はいつも「はい」と答えています。ベンダーは営業の一環として、世の中のトレンドを大げさに強調することもありますが、自動化に関しては既に通信事業者も様々なアピールを行っています。その一例として最近のニュースを以下にリンクします。
LightReading “BT's McRae: Vendors Need to Support Automation or They're Out” – BT McRae氏:ベンダーは自動化をサポートするか、もしくは去ってもらうかだ。(2018/11/7)
なかなか刺激的なタイトルですが、英国の大手通信事業者BTのChief ArchitectのNeil McRae氏が、2018月11月に行われたイベントで「“Automation is not a choice, it's a necessity. Basically, if we can't see a path to automation [from a product], we won't buy it.” 自動化はオプションではなく必須。もしベンダー製品が自動化へのパスを示せないのであれば、我々はその製品は購入しない。」(記事より一部抜粋して翻訳)、という発言をしたそうです。
ここまで直接的な発言ではないとしても、多くの大手通信事業者がネットワーク運用の自動化やAI導入に対して、今後必須の技術分野として様々な取り組みをスタートさせています。公になっている情報なので表面的な内容にはなってしまいますが、各通信事業者の公式サイトやニュースサイトに見られるここ半年の発表を以下にいくつか挙げてみます。
【大手通信事業者の運用自動化・AI導入の取組(日本語訳は小久保追記)】
・Verizon “How Verizon is using artificial intelligence and machine learning to help maintain network superiority” Verizonはネットワークの優位性を維持するために、どのように人工知能と機械学習を活用しているか(2018/10/5)
・LightReading “Vodafone Prioritizes Automation as Efficiency Bolsters Margins” 効率化による利益向上のため、Vodafoneは自動化を優先(2018/5/15)
・LightReading “AT&T VP: Using AI to Hyper-Automate Processes” AT&T VP:プロセスを超自動化するためAIを活用(2018/8/8)
・LightReading “Orange Plans '5G Plus Automation' RFP This Year” Orangeが今年中に ‘5G + 自動化’ のRFPを計画(2018/9/4)
また、10月31日から11月1日にロンドンで“Telco Data Analytics & AI Europe”という興味深いカンファレンス・イベントが開催されていました。11月末に米国でも同じシリーズのイベントが開催されています。実はこのイベントは、昨年までは “Telco Data Analytics” という名称だったところ、この2018年から「& AI」がイベント名に追加されて開催されています。日本でも「AI」と名前が付いた展示会は非常に盛況ですが、通信業界の中でいかにAIが当たり前の議論トピックになったかを象徴する変更だと感じています。
残念ながらTuplはこの会議に参加していないため、内容や実現度のレベルは分からないのですが、タイトルだけを元に(企業名は見ずに)私が興味を惹かれた、本連載と関連しそうな講演を表にまとめてみました。
イベント名の “Data Analytics” が示すように、このイベント内で紹介されている取組は、「いかに通信事業者が持つビッグデータを活用するか」という方向性を示すものになります。第2回のACCRの事例(二つ目のイメージ図)でも示したように、通信事業者は多くのデータを保持しています。これまでは、その様々なデータソースを関連付けた上で上手く解析し、ネットワークやエンドユーザーに何が起こっているのかの新たな洞察・インサイトを得ることが、このデータ解析分野のメインテーマでした。例えば、その取組を端的に表すキーワードとして、日本では「見える化」という言葉が有名です。
一方で、通信の世界に限らず、解析結果はそのままではビジネスに対して何のインパクトも持ちません。ビジネスに生かすためには、その結果を元に何らかのアクションを取る必要があります。そこで、これまでに得られた洞察とAI・機械学習の技術を組み合わせ、ネットワーク分析と対応するアクションをネットワーク運用の一連の作業として自動的に流れるようにすることが、次のステップとして注目されています。例えば以下の二つの講演タイトルはまさにその方向性を表していると思います。
・Machine learning to Automate Network Analytics and Troubleshooting ネットワーク分析とトラブルシューティングを自動化する機械学習
・Defining AI-Ops: Operationalising Big Data AI-Opsを定義する:ビッグデータを運用可能に
グローバルでは、これ以外にも運用自動化やAIの議論が交わされる様々なイベントが行われており、大手通信ベンダーが主催しているものも多くあります。先に挙げたような、通信系の海外ニュースサイトにイベントの記事が掲載された際には、合わせてイベントサイトへ訪問して各社の講演タイトルをチェックするだけでもグローバル動向をより深く感じることができます。興味がある方はぜひイベントサイトもチェックしてみてください。
今回はグローバル動向として、多くの通信事業者が自動化やAIに積極的であること、ネットワーク・データの解析とその後のアクションにAIを用いる流れが始まっていることを、ニュースやイベントを元に説明しました。
個人的には、このようなグローバルの変化に対して日本の通信事業者が同じスピード感で取り組むことができるのか、若干の心配があります。というのも、比較的近いIoT分野で日本と海外のギャップを肌で感じたことがあるからです。第1回で触れたように、私は米国(CA州とKS州の2ヵ所)とフィンランド(ヘルシンキ)に居住したことがあるのですが、そのいずれでもスマートメーターにより日々の電気使用量をネットで確認することが普通でした。ところが帰国してみると、そのようなIoT活用がまだ十分に普及しておらず、残念ながら日本の方が遅れているように感じてしまいました。様々な事情があるとは想定できますが、スタートアップ企業としてはエンドユーザーも含めて、新しい技術に対する積極的な取組や変化を前向きに歓迎するような社会になればと感じています。
次回は、引き続き運用自動化やAI導入のマーケット動向を、この分野に関連した標準化の面から説明したいと思います。
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登録はこちらTUPL ジャパン・カントリー・マネージャー。NTTドコモにてネットワーク装置開発や経営企画に従事後、2009年に外資通信機器ベンダーであるノキアシーメンスネットワークス(現ノキアソリューションズ&ネットワークス)へ転職。ノキアでは日本の事業戦略統括やフィンランド本社での事業分析責任者を歴任。2017年2月より現職。2001年京都大学情報学研究科社会情報学専攻修了。