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日本のインターネットサービスプロバイダーの草分けの一つであるBIGLOBEは、MVNOによるモバイルインターネット接続サービスを提供しています。ビッグローブ株式会社の黒川 英貴氏より、BIGLOBEモバイルのゼロレーティングサービスにおける技術適用事例をご紹介いただきました。

▼ビッグローブ株式会社 システム基盤本部 黒川 英貴氏
ビッグローブ株式会社 システム基盤本部 黒川 英貴氏

MVNOへのサービスニーズが変化

当社は1980年代にパソコン通信サービスから始まり、1995年からインターネット接続事業を開始しました。現在はインターネットを快適にさまざまなデバイスでご利用いただくべく、光回線によるブロードバンドアクセスサービス、Wi-Fiアクセスサービス、そしてMVNOとしてモバイルインターネットアクセスサービス「BIGLOBEモバイル」を提供しています。

2012年2月にNTTドコモのMVNOとして、3G接続サービスを開始しました。2012年8月にLTE接続プラン、2014年7月に音声通話プランのサービスを開始しました。以後、2015年4月にはデータ繰り越しサービス、2015年11月には家族間・デバイス間のデータシェアサービスなどを拡充してきました。

従来日本では、MVNOは「格安SIM」と呼ばれ、安くて大容量のプランが求められていました。しかし2016年頃からお客様のニーズは「安く賢く使いたい」という方向に変化しています。BIGLOBEはいち早くこの変化に対応して、2016年からはデータ容量拡充よりもサービスやオプションを追加するように方針を変更しました。

2016年11月に開始した「エンタメフリー」は、月額480円でサービス対象となる動画・音楽配信サービスは無制限に使用できるゼロレーティングサービスです。2017年には、MM総研大賞にて「話題賞」を受賞しました。最近、動画やSNSを使い放題にするゼロレーティングサービスは増えていますが、BIGLOBEは日本におけるこの分野の先駆者です。

重要なのはトラフィックマネジメント

一番重要なのは快適にご利用いただくためのトラフィックマネジメントです。サービスの提供には技術的なチャレンジが必要でした。

BIGLOBEは3GPP標準の網構成をとっており、キャリア網とPGW(Packet Gateway)で接続し、SGiリファレンスポイントの様々なシステムで構成しています。

PGWとPCEF(Policy and Charging Enforcement Function)

重要な役割を担っているのが、PGWとPCEF(Policy and Charging Enforcement Function)で、ここでデータ量のカウント、アプリケーション識別、公平制御機能を実現しています。

重要なのは「アプリケーション識別」と「公平制御」

ゼロレーティングサービス実現に重要なポイントが2つあります。一つは、アプリケーションを正確に識別し、全体のデータ量とアプリケーション・サービスごとのデータ量をそれぞれ正確にカウントして、ゼロレーティングの対象となるデータ量を正確に把握することです。エンタメフリーでは、Layer3、Layer4の情報を、また増えている暗号化トラフィックについてはTLSのハンドシェイク時のSNI(Server Name Indication)を、ステートフルなパケットインスペクションによりカウントすることで、アプリケーションを識別し、セッション開始から終了までのデータ量を正しくカウントしています。

もう一つの重要なポイントが、公平制御です。有限な帯域を公平に使うという観点から、安心・快適という価値を提供するためには、ユーザー間の公平と、アプリケーション・サービス間の公平、2つの側面からケアする必要があります。

ユーザー間での公平性とは、ゼロレーティングのユーザーのトラフィックがそれ以外のユーザーのトラフィックの品質劣化を及ぼさないこと、またゼロレーティングのユーザーの中でも一部のヘビーユーザーが他のユーザーのトラフィックの品質劣化を与えないようにすることです。他のユーザーよりも多くトラフィックを使うユーザーに対しては帯域を使いすぎないよう、PCEFによって柔軟かつきめ細かく制御しています。

アプリケーション・サービス間の公平制御も同様で、ゼロレーティング対象のサービスが非対象サービスの品質の劣化を招かないこと、またゼロレーティング対象のサービスだけでも特定のヘビーなサービスが帯域を使いすぎないよう、同様にPCEFを使って正確に制御しています。

アプリケーションの識別精度の維持と向上が課題

昨今、ゼロレーティングサービスは通信キャリアや他MVNOでも提供されていますが、アプリケーション識別と公平制御によってお客様に品質の良いサービスを提供していけると考えています。

課題は、アプリケーションの識別精度の維持と向上であると考えています。対象サービスのバージョンアップやサーバー追加によりトラフィックが変化した時に、アプリケーションの誤検知が発生するリスクをなるべく軽減する必要があります。また、オンラインサービスプロバイダーのコンテンツもどんどん増えていますので、新たなサービスを迅速に識別して追加していくことで、エンタメフリー・オプションがより魅力あるものになります。

もう一つの課題が暗号化トラフィックへの対応です。いまやトラフィックの6割以上が暗号化されています。今後TLS1.3が導入されると、従来は取得できていたSNIが取得できなくなることで、アプリケーションが識別できなくなることを懸念しています。ゼロレーティングサービスを提供し続けるためには、暗号化されたトラフィックに対してもオンラインサービスを正確に識別する必要があります。

こうした技術変化、あるいはオンラインサービスプロバイダーの変化の中で、我々としては今後もエンタメフリー・オプションを永続的に魅力あるサービスとしてお客様に提供し続けたいと考えています。そのために、技術課題、オンラインサービスプロバイダーのトラフィック変化にも追従できる形で、サンドバインの製品が進化し続けることを願っています。

ビッグローブ株式会社 システム基盤本部 黒川 英貴氏

【関連情報】
ネットワークインテリジェントを提供する サンドバイン
メールでのお問い合わせはこちらまで japansales@sandvine.com

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