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海外の経営情報を15年かけて「見える化」――積水化学工業のデータ活用の歴史

2019.06.05

Updated by Naohisa Iwamoto on June 5, 2019, 06:25 am UTC

セキスイハイムで知られる住宅事業やケミカル事業などを手がける積水化学工業は、グローバル事業の経営情報の「見える化」を進めている。15年近くの時間をかけて推進してきた「見える化」の歴史から、企業のデータ活用のポイントが見えてきそうだ。

「2005年ころ、経営の見える化に道具を使い始めました。会計システムやデータウェアハウス、ビジネスインテリジェンス(BI)ツールなどです。データウェアハウスには以前からテラデータを利用し、そのデータを元に連結決算や事業分析をしていました。しかし、グローバル事業は当時まだ大きくなく、Excelのシートで情報を収集して連結システムに転記しているような状況でした」

こう語るのは積水化学工業 経営戦略部 情報システムグループで業務システム室長を務める竹村稔氏。日本テラデータが主催した「Teradata Universe Tokyo 2019」における講演でのことである。積水化学工業は、現在ではグローバルへビジネスを展開し、連結売上の4分の1ほどをグローバル事業が占める。ただし、「私が入社したころには海外事業などはほとんどありませんでした」と竹村氏が語るように、グローバル化への対応が急速に求められるようになっていた。

▼積水化学工業の事業展開

もう1つ積水化学工業の情報システムの特徴としては、基幹システムにERPパッケージなどを導入せず、ほぼ手作りでフルスクラッチのシステムを構築していることがある。「事業はたくさんありますが、それぞれの規模が小さいことから、基盤はAWS(Amazon Web Services)で連結システムもメールもグループウエアも手作りです。手作りしたほうがパッケージソフトのライセンスよりもコストを下げられるケースもありますし、業務に合わせたカスタマイズもできます」(竹村氏)。そうした文化の中で、グローバル経営情報の見える化に取り組んできたのだ。

リーマンショックが契機

Excelのシートで経営情報を取り寄せて、転記するといったシステムの使い方は、2008年のリーマンショックをきっかけに変化が必要になった。リーマンショックで売上はどんどん落ちていく。しかし、グローバル事業からの業績データは相変わらずExcelで集めていた。それも3カ月遅れのデータを連結データとして利用していたのだ。「国内の売上は落ちているのに、海外は3カ月の時間差があるので減少していないといったことが頻発しました。経営層から、“これでは経営判断ができない、海外の売上もデイリーで見せろ”と指示されました」。

当時、海外からデータを集めるための専用のネットワークなどはなかった。そこで、「インターネットを使ってメールに売上データを載せて送ってもいいのではないかと考えました。暗号化して1日1回のデータを海外から集約できるようにするレポーティングネットワークのプログラムを1週間程度で開発しました」(竹村氏)。集約したデータはデータウェアハウスに格納し、グローバルのデータも含めて売上速報として見られるようにするものだった。仕組みは簡単そうに見えるが、電子メールを暗号化して送ると詐称を疑われてメールが届かないこともあるなど、実際には導入に苦労したという。最終的には1年ほどかかってレポーティングネットワークが完成した。「経営陣に報告に行ったところ、“遅い”と叱られました。システムを作ってくれなんて言っていない、電話をしてでも毎日のデータを見せてくれればいいということでした」と竹村氏は当時の苦労を振り返る。

▼グローバルの会計データの見える化に尽力した積水化学工業の竹村稔氏

2011年ころになると、積水化学工業は海外企業とのM&Aを積極的に行うようにあり、ITの対応も課題になった。「海外で戦うとなると、武器が必要になります。そこで方針を決めてITの標準化を行い、英語版の社内規定を作ってルールを定めました。海外事業はフルスクラッチのシステムでは対応が難しく、マイクロソフトのERPパッケージ『Microsoft Dynamics AX』で統一して展開することにしました」(竹村氏)。グローバルの経営情報の見える化を進める下地が整ってきた。

グローバルのデータウェアハウスを構築

海外事業のITシステムの標準化が進み、取り組みが社内でも評価されてきた2014年ころになると、海外のデータ活用した経営の効率化に向けたニーズが経営陣からも高まってきた。データの見える化とともに、グローバルのデータウェアハウスを作る機運が高まってきた。

2014年に積水化学工業では、テラデータのサーバーを更新し3代目のシステムになった。2011年の東日本大震災の教訓からBCP対策としてバックアップのデータセンターを作り、データセンター間でデータを同期する仕組みを導入したのだ。テラデータのサーバーを、それまでの1台の運用から、西日本と東日本のデータセンターに各1台の2台構成にした。同時に複数のシステム環境を単一のエコシステムとして運用できるTeradata Unityを導入することでBCP対策を強固なものにした。

そうしてバックアップ体制を採った上で、グローバルのデータウェアハウスの検討に当たった。「まずテラデータのパフォーマンスの検証をしました。バックアップのセンターには本番データがそのまま格納されています。また昼間は基本的には稼働していないので、検証の負荷をかけても問題ありません。そこで20年分、12億件ほどの取引データをSQLでつついてみたところ、パフォーマンスには問題がないことがわかりました」と竹村氏は語る。BCP対策、パフォーマンスと可用性、さらにグローバルに利用を拡大したときの拡張性などを勘案し、テラデータでグローバルのデータウェアハウスを構築することにした。

ニーズにできるだけタイムリーな対応を

2018年、グローバルのデータウェアハウスが完成した。会計データのうち、国内で利用しているスクラッチの会計システム(AIS)と海外のDynamics AXのデータ連携が完了。売上比で58%のデータをデータウェアハウスで網羅できるようになった。

▼2018年にグローバルのデータウェアハウスが完成した時点のシステム構成

データウェアハウスでは国内外の約60社のデータを同じフォーマットで管理し、さらに9つのデータレイアウトに集約することでわかりやすく使いやすいモデルを提供する方針を立てた。「海外で利用しているDynamics AXのデータと国内のAISのデータの整合性を取ることには苦労しました。Dynamics AXには約8000の多くのテーブルがあって、国内のシステムと数字が合わないケースが散見され、行ったり来たりしながらデータを検証しました」(竹村氏)。

データウェアハウスに素材としてのデータが集まったら、データマートでいかに使いやすく見える化するかが次のポイントになる。「味付けも好みも利用する人や事業部によって異なります。それぞれの経営者、事業部のニーズに応えてデータマートをどんどん作り、不要になったら使い捨てる方針です。意思決定に必要な情報をタイムリーに提供するため、データマートは3日以内に開発するようにしています。さらに流行のBIツールも使って、グローバル事業の見える化に貢献しているところです」と竹村氏は語る。

今後1~2年で、グローバル事業の経営情報の見える化が完成し、すべての国内外の会計データがデータウェアハウスに集まる形が整うことを見込む。そしてさらにその後は、会計データだけでなく多様なデータをデータウェアハウスに取り込んで、経営情報の分析を進めたい考えだ。竹村氏は「BIツールによる見える化に加えて、今後はAIなども使ってより高度な情報の見える化を実現していきたいです」という。データを集約して、そのデータを経営判断に使えるようにタイムリーに見える化するシステムを長年にわたって構築してきた積水化学工業。自前主義にこだわりながらも、システム作りを目的にするのではなく、データを活用する人に対してタイムリーに使いやすい情報を提供するポリシーは、将来の展開も含めて変わることがなさそうだ。

※お詫びと訂正
住宅事業のブランド名を誤って記載いたしておりましたので訂正いたしました。関係各位にお詫びを申し上げます。[2019/6/5 14:22]

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。