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ワイン ソムリエ 批評 イメージ

直接の広告収入を求めないYouTuberたちの台頭

2019.10.04

Updated by Ryo Shimizu on October 4, 2019, 08:16 am UTC

YouTuberという存在にしばらく前から興味を持っている。
いまさら遅い、と言われるかもしれないが、YouTuberの有り様が、最初に話題になってから現在に至るまでの間で、随分と違ってきた印象があるのだ。

日本における最初期のYouTuberは、なんとなくニコニコ動画の歌い手や生主から流れてきた人たちと、ツイキャスから流れてきた人たちで構成されていた印象がある(あくまで筆者の印象であって完全にそうであるとは言い切れない)。

鎌倉にあったころのAppBank社は、当時でたばかりのiPhoneアプリを紹介するWeb媒体を運営する、小さな仲間うちの会社だった。
筆者もなんどか鎌倉まで遊びに行ったことがあるが、そこで彼らはおもむろにiPhoneを取り出し、「これから生放送をする」と宣言した。

「せっかくだから清水さんも出演してよ」

と言われて戸惑ったのを覚えている。

個人的には、ネットを通じた生放送をした経験は短くない。Ustreamが登場したときに散々使い倒したし、学生だった1995年頃の、RealPlayerの頃から動画配信をしていた。それが15年近く経過して、「いままた、動画配信ブームなのか」という戸惑いを確かに感じたのである。

AppBankの放送に集まってきたツイキャスの視聴者数は30〜40人くらいといったところか。突発的に始めた割には意外と視聴者がいるんだな、というところに驚いた。

この時の僕は、彼らがこの動画配信をメイン事業にするとは夢にも思わなかった。我ながら、不明を恥じるところだ。

それからしばらくして、世の中から「マックスむらい」という謎の人物についての噂を聞くようになった。なんでも、子どもたちに絶大な人気を誇っているというのである。

それがあの日鎌倉でツイキャスをやっていた村井智建さんのことだとわかるまでにはだいぶ時間がかかった。
これとて、もう10年近く前の思い出である。

それからまた時は流れて、今度は「YouTuberです」と名乗る人たちと出会うようになった。
といっても、巷間に流れるCMで言われるように「好きなことだけをして」生きている、というようには見えない。

たとえば先日Forbsでインフルエンサーとしてとりあげられたdrikin氏もその1人だ。

https://www.youtube.com/user/drikin

彼は積極的にカメラや編集機材を購入し、試し、レビューして、それでいて対価を直接なにかに求めたりはしない。基本的には趣味の延長線上にあり、それで5万人以上のチャンネル登録者数を誇る。

チャンネル登録者数数万という猛者もいるが、多くは1000前後の、どちらかというとYouTubeによる動画配信を趣味としているような人々である。

こうした人々の中にも世代があって、一定世代以下の人たちは、もはや撮影や編集に高価な機材を使わない。iPhoneで撮影し、iPhoneのみで編集する、という大胆な方針の人もいる。

そして別にそれで構わない。というのだ。
彼らは演出に凝ったり、機材にお金をかけたりするよりも、中身にこだわりたい。

たとえば二人のソムリエによるワイン紹介番組「ソムリンTV」はまさしくiPhoneのみで撮影され、iPhoneのみで編集され公開されている。

それでも1400人ものチャンネル登録者数を誇る。

しかし彼らにとって重要なのは、単なるチャンネル登録者数ではない。
筆者は実際に彼らの取材の現場であるワインの試飲会に同行したことがある。

本当に唐突に撮影していて、しかしいきあたりばったりではなく、ちゃんと一通りのワインを試飲したあとで、本当にピックアップすべきお酒だけを厳選して取材申し込みをしている。このあたりは、むしろ本職のテレビ局のスタッフよりもよほど誠実である。

というのも、彼等の本職はワインの「目利き」としての腕であり、それを証明するための手段としてYouTuberをやっているに過ぎないからだ。

テレビを始め多くのマス・メディアでは、「まず、話題性ありき」「視聴率ありき」「シズル感ありき」といった視点から、見た目的に面白そうとか、キャラが立っているとか、大手だとか有名だとか、とにかく実際の「味」そのものとは無関係に取材対象が選ばれることが少なくない。なぜならばマス・メディアにとってのKPIは視聴率やPV、再生数であって、視聴者の信頼を獲得することとかならずしも一致しないからだ。

ところがソムリエが本職のYouTuberにとっては、再生数よりも自分たちの目利きとしての評判の方が大事である。そして彼等の助言に基づいて実際にワインを購入し、「確かに美味しい」と視聴者にわかってもらうことは、彼等自身の評価を上げることに繋がる。

その結果、ワイン業界での彼等の名前が上がることになる。これはこれで、YouTubeという新しいメディアの使いこなし方ではないだろうか。そこで求められているのは単なる人気取りでも悪目立ちすることでもなく、見知らぬ人との信頼関係の構築である。

そうしてソムリンのうち1人の浦川哲也氏は映画出演まで果たすことになる。

そろそろ公開されるはず・・・と思ったらたまたま本日公開だった。

彼等の真似をして、僕もひとつ手元のスマホで動画編集をしてみようと画策してみたが・・・

中々どうして、意外にもスマホの縦長画面は編集に向いていた。

PCだと横長画面が基本なので、どうしても編集する対象である画面と、タイムラインがドンづまってしまって15インチのノートPCですらスペースが足りなく感じてしまうのだが、手のひらに入るスマホでの編集は、むしろスペースを広く感じるというのは言い過ぎにしても、編集したい対象さえピシッと決まっていれば、これで充分かもしれないと思えるほどには機能が充実していた。

Macを持っていても、Macに転送して編集するよりも手元のスマホやタブレットで編集してしまうほうが「ラク」である、と、今の世代の人たちは感じているらしい。

ただ、個人的にはやはり昔ながらの編集方法に慣れてしまっているので、どうしてもMacに取り込んでから編集、というスタイルを僕個人はまだまだ崩せそうにない。オールドタイプなのだ。

最近は勝間和代氏もVlogを始めたともっぱらの評判なので、今再びVlog(ビデオブログ)が流行しはじめているのかもしれない。

ある種、ブログというのは内容が詰まれば詰まるほど文章量が長くなり、読むのが苦痛になってくる(マクルーハン的にはHotになってくる)のだが、絶対的な情報量は動画のほうが多いものの、伝えたいメッセージは文章よりもむしろ少なくなる(Coolになる)ので、画面が高解像度(HD=Hot)になると同時に、伝えるべきメッセージがシンプル(LD=Cool)になる効果を期待できる。

子供の頃にみたラグビーをぜんぜん面白いと思えなかったのに、今はラグビーを見るのが楽しくてしょうがないというのは、放送局の全体的なワークフローの進化と無関係ではないのではないか。

画面が高精細になることによってむしろ伝わってくるメッセージはシンプルになる。それはサッカーのような高度な戦術眼や野球のような個人技に注目がいきがちなスポーツ中継において、ラグビーの持つシンプルさが今の時代にマッチしているのではないか。

これまでラグビーのW杯が全く知られていなかった日本において、またたく間にブームを巻き起こしつつあるのは、もちろん日本代表ブレイブ・ブロッサムズの躍進はあるとしても、それ以上にこの時代にこのスポーツの持つ特質がフィットしたことにも原因があるのではないかと思えてくる。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。

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