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エフェクチュエーション5つの原則 - 起業家を成功に導く「エフェクチュエーション」とは何か(前編)

2020.01.04

Updated by Takeo Inoue on January 4, 2020, 12:32 pm UTC

以前、創生する未来「人」その3において、サイボウズ / NKアグリ / コラボワークス 中村龍太氏をお迎えした際に、「エフェクチュエーション」という経営の方法論の話題が飛び出した。今回は、この理論について掘り下げてご紹介したい。前編では、最近注目を浴び始めたエフェクチュエーションとはいったいどのようなものなのか? という点に絞って解説する。

成功を引き寄せる! 5原則で構成されるエフェクチュエーション

さて、エフェクチュエーションとはいったい何なのか?

これはインドの経営学者であるサラス・サラスバシー氏が2008年に体系化した意思決定の理論だ。優れた起業家は連続して新しい事業を立ち上げ成功することがあるが、彼らには産業・地域・時代に関わらず共通した思考プロセスがあるという。それを発見し、体系化したものが「エフェクチュエーション」だ。

エフェクチュエーションは海外では非常に有名な理論で、経営学のトップジャーナルでは引用論文も多いという。日本では2015年に翻訳本が出て、最近ようやく話題にのぼるようになった。では、優れた起業家に共通する原則とは何だろうか?

エフェクチュエーションには以下のような5つの行動原則がある。それぞれ簡単に解説しよう。

▲エフェクチュエーション5つの行動原則。サラスによれば、成功する起業家の共通する行動様式・思考パターンだという。

【1】「手中の鳥」(Bird in Hand)の原則

優れた起業家は、ビジネスチャンスを生み出すときに、手持ちの手段で新しいチャンスを作っている。何らかの新しい方法を新たに発見することは大変だが、もともと持っている自分のリソース(能力、専門性、人脈など)を認識すれば、無理をせず利用できる。

そのためにサラスは「Who I am」「What I know」「Whom I know」という3つの手持ち手段を活用すべきだと提唱している。自分が何者であり(資質・能力・特徴)、何を知り(経済、教育、専門性)、誰を知っているか(社会的ネットワーク、コネクション)を認識し、それらを使うところから始まるという。これを「手中の鳥」の原則という。

【2】「許容可能な損失」(Affordable Loss)の原則

まだ起きていない未来の投資対効果に対して、創業すべきか、あるいは断念すべきかという点はすぐには判断しないことが大切だが、起業する際にどこまで損失を許容する気があるのか、あらかじめコミットしておくことを「許容可能な損失」の原則という。

つまりは最初から大きな一歩を踏み込んでリターンを大きくすることを求めるのではなく、小さな一歩から始めればいい。そうすれば致命傷を負うことはなく、失敗を恐れずに次のリアクションも起こせる。小さな失敗を積み重ねながら、それを学習経験として蓄積し、次のプロセスへ進んでいくことが大切だ。

【3】「クレイジーキルト」(Crazy-Quilt)の原則

「クレイジーキルト」の原則は、エフェクチュエーションのなかでも、関係性やつながりを考えるときにポイントとなるものだ。クレイジーキルトとは、不定形の布をパズルのように縫い付けたキルトのこと。自分を取り巻く周囲において、コミットする意思を持つすべての関与者と交渉し、関係性を持ちながらパートナーシップを作り上げていくことを表す。

その際に、従来のマーケティング戦略で行うように「自身」と「競合」を対立するものだと分けて考えるのではなく、競合もパートナーとしてみなす考え方だ。成功しているIT企業は、自社のプラットフォーム上で競合も取り込んでエコシステムをつくるケースが多い。自身に関与する多くの人々を巻き込んでパートナーシップを築くことができれば、新しい事業を拡げていけるという考え方だ。

【4】「レモネード」(Lemonade)の原則

「レモネード」の原則とは「悪いレモンが手に入ったらレモネードにする」というものの例えだ。優れた起業家は、予測不可能な要因による損失をむしろプラクティスの機会と捉え、偶発的な負の出来事もチャンスと考える。そして不確実性・偶然性を、逆にテコにして活用してしまう。

たとえば、亀田製菓の「柿の種」は、当初は小判型のせんべいだったが、型抜きを間違えて三日月型で作ってしまったそうだ。しかし納期が迫っていたため、それを出荷したところ、「面白い形で食べやすい」と評判になり、ヒット商品になってしまった。このように一見すると失敗に思えても、発想の転換やポジティブシンキングで難局を乗り切れることもあるのだ。

【5】「飛行機の中のパイロット」(Pilot-in-the-plane)の原則

5つ目は、前出の4つを貫く世界観を表す「飛行機の中のパイロット」の原則だ。飛行中のパイロットは操縦桿を握り、常に計器の数値を確認しながら、時々刻々と変化する状況に応じて、臨機応変に迅速に対応していく。ビジネスの世界でも、不確実な状況においては、組織や法人として活動している人間に働きかけて現在をコントロールしながら未来を舵取りしていけば良いという。

従来のアプローチとは逆に「手段」から始めるエフェクチュエーション

サラスは、このような5つの原則のもとで、優れた起業家がいくつものビジネスを成功させてきたとする。では、具体的に我々がビジネスにおいてエフェクチュエーションを適用していくためには、どのようにアプローチしていけばよいのだろうか。

と、その前に、これまでの意思決定のアプローチの仕方について整理しておこう。なぜならエフェクチュエーションは、イノベーション分野における従来手法(これを「コーゼーション」と呼ぶ)と考え方が対極にあるからだ。

コーゼーションは、端的に言えば最初に目的ありきの考え方。その目的に向かって「何をすべきか」を考えるので、目的から逆算して結果を生むための手段を考えて事業を進めていく。現実には未来は不確定・不確実なものだが、これをできる限り予想しながら進めるわけだ。これまでの経営学はこの考え方がメインだったので理解しやすいだろう。言い換えると、コーゼーションは、未来を「予測可能なもの」として捉えていると言える。そのため、目的や意思決定がブレないメリットがある反面、未来予測(仮説)が外れた時に事業にダメージを負うリスクもある。

ところがエフェクチュエーションでは、逆に「手段」から始める。手段を用いて何ができるか、を考えながら結果(目的)をデザインしていくのだ。もともと予測不可能なもの(未来)は、いくら予測してもわからない。ならば自分から影響を与えて周囲を変えていき、可能な限り不確実な未来をコントロールしていけばよい、と考えるスタンスだ。これを「非予測的コントロール」(non predictive control)と呼ぶ。コーゼーションを比較すると、リスクが軽減される一方で、目的が変化する(新たな目的が生まれる)可能性を含むスタンスと言える。

▲エフェクチュエーションの動力学モデル。まず、自分に何ができるのか? という手持ちの手段から考えていく。そして自分から影響を与え、周りを変えていき、不確実な未来をコントロールしていく。

ただし企業のライフサイクルにおいては、エフェクチュエーションとコーゼーションは優劣の問題でなく、両者を臨機応変に使い分けていくことがポイントになるという。エフェクチュエーションは「0→1」のイノベーションを起こすプロセスで有効だ。一方のコーゼーションは、ある程度は企業が成長し、「1→10」のフェーズでマネジメントを考慮すべき際に有効となる。

▲エフェクチュエーションとコーゼーションは対極にある考え方といえるだろう。しかし、優劣の問題でなく、両者を臨機応変に使い分けていくことがビジネス成功のカギになる。

後編では、エフェクチュエーションを適用した事業展開を、一般社団法人創生する未来が2019年立ち上げに携わった株式会社東北ITbookの実例に照らして紹介したい。

(執筆:井上猛雄 編集:杉田研人 企画・制作:SAGOJO)

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井上 猛雄 (いのうえ・たけお)

東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、株式会社アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにIT、ネットワーク、エンタープライズ、ロボット分野を中心に、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書は「災害とロボット」(オーム社)、「キカイはどこまで人の代わりができるか?」(SBクリエイティブ)などがある。