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ニューノーマル時代に突入した、大学へのAI教育の導入

2020.05.27

Updated by Ryo Shimizu on May 27, 2020, 13:24 pm JST

緊急事態宣言が解除され、夜の街に徐々に活気が戻ってきた。
しかしこれまでの自粛の影響か、筆者自身も混んでいる店はなんとなく避けるようになってしまった。

やはり第二波が来るのは怖いし、コロナにかかるのはもっと怖い。
人々の意識が二ヶ月前とはまるで変わってしまった。特に都会に暮らす人々はそうだろう。
これがニューノーマルである。

一方で、学校は徐々に再開の動きを見せている。9月入学という話もあったが、そうはならないで済みそうだ。受験生はこれから今まで以上に大変になるはずだ。

もっと大変なのは大学だろう。
そもそも子供の数が減っているので、大学はここ数年、30%くらいの大学が定員割れをしていた。
その中で、どうやってサバイブしていくか。その模索をしているなかで、今回の騒動によって、そもそも大学には広大なキャンパスが必要なのかどうかという点が改めて問われる形になった。

密集を避ける、という意味では大講堂で間隔を空けて授業をするとか、リモートの授業をするとかでカバーできるとしても、カフェテリアの運営などにはこれまで以上に注意が必要だ。

特に大学の場合、原理的に密集を避けることができないのがパソコン教室などのファシリティを必要とする施設だ。

そもそも機材の都合上、必然的に一人一台で教えるとすると密集を避けるにも限界がある。
たとえばパソコン教室のパソコンを間引いて、二つのパソコン教室を作ってしまうという方法も検討しなくてはならない。

昨年の内閣が発表したAI制作の基本方針では、2025年までに全ての大学、文理を問わず全ての学科でAI教育を導入することが示された。つまり、全ての分野においてAIの基礎知識を身につけさせ、社会実装できるような人材の育成が求められているのだ。

しかし、大学の授業でクラウドを使うと、思わぬトラブルが起こりやすい。
実際、筆者は東京大学松尾研の寄付講座を受講していた時期があるが、クラウド(AWS)をベースに構築されたiPython notebookベースの学習環境は、頻繁に動作が止まったり、重たくなったりしてうまく学習できなかった。非常に人気のある講座だったため、小さい教室に人が密集してWiFi自体もパンクしていたのも原因の一つだろう。受講者は全員が持ち込みのノートPC(各自のMacまたはWindows)でやっていたが、クラウドの場合、実際の負荷が読みきれず予算化するのが難しいという別の問題もある。寄付講座だからできたのかもしれない。

筆者はこの講座を受講したときの反省点を踏まえ、新潟県長岡市で開催した中高生向けのAIプログラミング講座では、1台の深層学習用PCを3人の生徒で併用するかたちで行った。

これはこれで学習ができなくはないが、やはり効率の面ではやや劣る。
そこで、新たに大学などに提案しているのが、ひとつの教室に深層学習用サーバーを1台設置して、これを教室の生徒の全員でWiFi経由で共有するという方法だ。

この方法ならば、コストをグッと抑えることができる。
実際、NTT PCコミュニケーションズの調査では、オンプレミス(教室などに設置するPCサーバー)のほうがクラウドの半額程度で運用できることが報告されている。

次の問題は、「文理を問わず」という点、つまりコンピュータの専門家ではない生徒に対してどうやってAIを教えていくかという問題だ。

そもそもプログラミング教育の義務教育への適用が難しいのは、全ての教員がプログラミングができるわけではないからだ。というか実際にはその反対で、ほとんど全ての教員が、プログラミングに関する知識がないのだ。

義務教育、特に小学校では、担任の先生が全ての科目を教えるケースがある。体育や音楽、美術のように、プログラミング専門の先生を雇う形にするにしても、まだまだ課題が多いのが現実である。

同じ問題が、五年後に大学教育の現場で起きる。

全ての学科の学生が、AIについて学ぶということは、文理を問わず全ての大学に一人はAIを教える先生を用意しなければならないということでもある。ポスドクの有力な就職先になる可能性はあるが、AIを専門とするポスドクは世界中で引っ張りだこなので、実際には他分野の先生が何らかの資格認定を得て教えるということになるだろう。

たとえばディープラーニング協会のG検定、E検定といった公認資格を持った人が大学の非常勤講師のようなかたちで教えることになるかもしれない。

ただ、「AIを教える≠プログラミングを教える」ではないので教育の現場ではNVIDIAのDigitsや、手前味噌だがギリアのDeepAnalyzerのようなGUIベースのツールを使うのが現実的だろう。

クラウド上で動く似たツールもあるにはあるのだが、本格的な学習をするにはどうも帯に短し襷に長しといった類のものが多い。

それは、やはり深層学習にはGPUが必要不可欠で、GPUをクラウドで運用するには恐ろしく高価なサーバーを購入・維持しなければならないからだ。

最近、これまでAIは高価で難しくて手が出ない、とかんがえていたような人たちと雑談していると、二言目には「こういうことにAIを使えないものか」と相談されることが増えてきた。

AIの第三次ブームである深層学習の持つ性質や扱い方が、ようやく一般の人々にも浸透してきたからこそ、そういう質問や興味につながっていくのだろう。

外出自粛で平日は毎日ZOOM飲み会をしていた筆者だが、思わぬ業界の方から「こういうことにAIを使ってみたい」と言われるようになってきて驚いている。たぶん人々の意識が「新しい日常(ニューノーマル
)」に移行していく中で、必然的にAIの持つ役割や活用のあり方がイメージできるようになってきたのではないかと思う。

一般の大学生がAIの知識を身につけることで、どんな未来が描かれるのか、今から楽しみだ。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。

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