コロナ時代に高まるAIの必要性、人間を中心に据えたAI活用で恩恵を人類に共有
2020.06.03
Updated by Naohisa Iwamoto on June 3, 2020, 06:25 am JST
2020.06.03
Updated by Naohisa Iwamoto on June 3, 2020, 06:25 am JST
「新型コロナウイルスの流行により、ビジネスでもプライベートでもAIの活用が加速していく。そこで重要なのが“人間中心のAI”だ」。こう語るのは、デジタルマーケティング分野でAIを活用したソリューションを提供している台湾AppierでチーフAIサイエンティストを務めるミン・スン氏。同社が開催した報道関係者向けのオンラインセミナー「「人間中心AI」“Withコロナ”で見えてきたAIと人間の新たな関係」の一コマである。
まず、新型コロナウイルスが出てきたことで、世界が変化を始めたことを改めて説明した。「例えば在宅勤務が増え、出張がほとんどなくなった。会議はオンラインになり、テレプレゼンスロボットを使ってバーチャルに卒業式を実現した例も日本であった。コロナウイルスにより社会が変化し、AIの重要性はさらに高まっている。ツイッターに投稿されたイラストに『あなたの会社のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しているのは誰か? 2020年の答はCEO(最高執行責任者)でもCTO(最高技術責任者)でもなく、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)だ』というものがあった。コロナウイルスがDXを推進させ、膨大な量のデータが発生するようになると、AIの必要性が更に高まってくる」(スン氏)。
そうした中で求められるのが、「人間中心AI」だとスン氏は語る。人間中心AIについては、スタンフォード大学がHuman-Centered AI Institute(HAI)を立ち上げている。スン氏の博士課程時代の担当教授でもありAIの権威でもあるフェイフェイ・リー教授と、ジョン・エチェメンディ教授が共同運営責任者を務める研究機関である。スン氏は、「スタンフォード大学HAIでは、AIは汎用技術であり、良くも悪くも使えるものだという基本的な考えに立っている。AIそのものに良し悪しがあるわけではなく、どう使うかが問題。我々は、あくまでも人間中心のAIを使うべきで、恩恵はすべての人類が受け、広く共有されるべきと考える」と語る。
人間中心のAIを使うために、3つのポイントがあるとスン氏は指摘する。それが、「人間を中心に据えたAI活用」「AIが人間社会によい影響を与えるということに対する研究と訴求」「次世代のAI技術の開発」だ。人間中心のAI活用では、特定の職種の人をAIに置き換えるのではなく、ルーティン作業を効率的に自動化するようなAIソリューションを開発するように考える。「例えば、AIはEメール作成を支援するようになっている。最初は文法やスペルの間違いを指摘するものだったが、次に表現を提案するようになった。さらに文章を自動で修正するようになるならば、人間はAIの支援により短時間で多くのEメールを出すことができるが、働き手をAIが代替することはない」(スン氏)。
2つ目の社会に対する良い影響についての研究と訴求では、「AIの利用は、人によって感じ方が違う。例えば顔認証技術を使うことについて、正当に感じる人もいれば、プライバシーの侵害と感じる人もいる。理解のレベルが人によって異なるため、すべての分野の専門家が、良い使い方、悪い使い方について協議すべき」とスン氏は語る。最も悪いことは、「問題がありそうだから全面的に禁止ししてしまおう」という考えで、政府を含めてAIの利用の倫理的な側面、法的な側面、経済的・社会的な側面の問題を解決するように考えていく必要があると説明する。
3つ目の次世代のAI技術については、3つの方向性を示した。1番目は「保証付きのAIシステム」。ミスを犯すことが許されない分野では、完全に保証がついたAIシステムを使う必要があり、今後は保証を担保できるAIシステムを開発することも考えなければならないという。2番目は、「わからないときは、わからないと答えるAIシステム」。現在のAIシステムは精度が高くなっていて、99.99%で正しい答を出せるものもあるとスン氏は指摘する。その上で「それでも1万件に1件も間違いがあり、そのときには自信を持って答えるのが現在のAI。次世代のAIでは、間違いかもしれない1万件に1件には『わからない』と答えさせたい」と語る。3番目は「少ないラベル付きデータからの学習」。現在のAIは膨大な量のラベル付きデータを用意して学習する方法が主流だが、非常にコストがかかる。もっと少ない、ラベル付きのデータでも効率的に学習できるようにする技術が次世代のAI技術として求められるという。
人間中心のAIについて説明したスン氏は、「120年前に現れた電気という汎用技術が、すべての工場の生産性を高めるまでに30年かかった。それまでの作業プロセスに電気を適用しただけでは生産性は上がらなかった。工場の中に人間中心の電気の使い方がデザインされて初めて生産性が上がった。AIという汎用技術も同様に、業界によって生産性の向上までにかかる時間がことなり、すべての産業でAIが生産性を向上させるまでには長い時間がかかる。Appierではマーケターにとって使いやすいAI活用のツールの開発に注力している。産業界としても人間中心のAIを使うためのデザインを検討し続けていく必要がある」とセミナー締めくくった。
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登録はこちら日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。