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継続的にデータ解析し社員に適切なメンタルケアを 「AI実践道場」ステップアップコース

2021.04.19

Updated by SAGOJO on April 19, 2021, 13:12 pm JST Sponsored by 石川県AI実践道場

中小企業向けのAI活用講座「AI実践道場」。石川県、金沢工業大学(KIT)、日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM)、株式会社イーネットソリューションズ、株式会社金沢総合研究所が産学官連携で行っているこの講座は、AIテクノロジーの導入により、データ分析をビジネスに活用する方法を身に付けてもらうことを目的に2018年に開講された。

創生する未来では、この「AI実践道場」の取り組みについての連載を開始。第1回では石川県庁の担当者・清塚大輔氏より、本プロジェクト発足の経緯から産学官連携の取り組みに寄せる期待を聞き、第2回では、IBM Watsonを用いた自然言語処理の実習が組み込まれた、集合研修の内容を詳しく紹介した。

また第3回と今回の2回に渡り、実際の自社データを用いてデータ解析並びにAIを作り上げる「ステップアップコース」受講企業のインタビューをお送りする。本稿に登場いただくのは、各種ソフトウェアの設計・開発、システム構築、システムの運用、保守、調査、サポートなどを行う株式会社ユーコムだ。戦略マーケティング部の関文徳氏に、AI実践道場参加の経緯から、自社データ分析の手応え、今後の展望まで、詳しく話を聞いた。

勤怠データを丁寧に読み解くことで、メンタル疾患予防の可能性にチャレンジ

「AI実践道場」が始まった2018年当時、ユーコムはシステム会社として、AIに関する案件が徐々に始まるタイミングだった。しかし、扱っていたのはデータモデル開発ではなく、AIを活用したエンジン開発や、AIが学習するための教師データをクレンジングする作業を請け負っていたに過ぎなかった。そのため、AIがどのように活用できるかについては具体的な知識に乏しく、自社でどう役立てられるかという点でも全く手探りの状況だった。

「『AI実践道場』は、金沢工業大学さんからのご紹介を受けて参加しました。AIで分析するのに必要なデータには、コンピュータが理解しやすいよう整理された『構造化データ』と、メールやチャットテキストなど整理されていない『非構造データ』という二種類があると教えていただき、社内にあるデータのどれが使えそうか、またAIによってどんな自社の課題を解決できそうか、常に頭の中でシミュレートしながら研修を受けていました」

▲株式会社ユーコム 戦略マーケティング部の関文徳氏

社内のデータを掘り起こすうち、勤怠システムに蓄積された15年分の勤務データに注目するようになった。15年程前に勤怠システムを作ったのは、他ならぬ関氏のチーム。そのため、日々入力されたデータがどのようなものかは熟知していた。データの中には、仕事の忙しさや、休職する人の休む傾向などもある。この「構造化データ」とAIを用いて、社員のメンタル疾患や離職の予防ができないか、と考えたという。

「IT業界は離職率の高いイメージがありますが、当社は全国平均からみても半分程度の割合に留まっていて、相対的には『良い方』だと思っていました。ただ、離職に至る原因の中に少なからず心の病、メンタル疾患があり、残念ながら回復することなく退職してしまう社員が少なくないことに問題意識を持っていました。メンタル疾患による離職者の場合、多くはその前に休職、欠勤が発生しています」

現在は、必要に応じて面談をするなどして対応している。しかしここに、一人ひとりの勤務データや日々のバイタルデータ(生体情報)、健康診断やIoT機器などと連携したデータを継続的にチェックし、不調を事前に察知してアクションを起こして声を掛けてくれる「ロボット産業医」がいてくれたら、状況を改善することができるのではないか。

このアイデアを「AI実践道場」集合研修の総括で発表したところ、講師陣の評価も高く、ユーコムは翌年「ステップアップコース」で本格的にデータ解析に取り組むことになった。

仮説を立てイレギュラー値を検証。改善を加え続けるデータ分析

「ステップアップコース」でユーコムは、社員約40人のデータを解析することになった。

ユニークな取り組みとして、まず各人には、MBTIというパーソナルタイプ分け(性格診断)を実施してもらったという。このMBTIによる16のパーソナリティのタイプ分けを一つの仮定として標準値とし、その後、IBM Watson Explorerのパーソナリティ・インサイト・モデルを使い、個人ごとにイレギュラー値を見るという分析手法を採った。その結果、ユーコムでは調整役を担うようなパーソナリティを持った人物の割合が非常に多かったという。

「この手法は『AI実践道場』でアドバイスいただいて思い付いたものです。『だいたいこういう傾向』と分かっているタイプの中で、ある人だけ協調性が突出していたら『何か問題があるのではないか』『ちょっと無理してるんじゃないか』と仮説を立てることができます。目の前にあるデータをただ見ているだけでは何も分かりません。何か仮説を立て、その仮説が正しいかどうか見て、違っていたらまた違う仮定を立てる。その繰り返しで検証を進めました」

▲データ解析によって得られた結果を見ながら、仮説を検証する

「構造化データ」については、勤怠システムの過去データを利用することで目処が立った。一方で、「非構造データ」として何を利用するか、試行錯誤は続いた。

週報、自己申告票、個人面談記録、健康診断、産業医面談問診票議事録、年に一回のストレスチェック、メールデータやビジネスチャット等が「その人の状態を表すもの」と考えられた。その中から、今回はメーリングリスト・サーバーにあるメールデータと、社内ビジネスチャット(Slack)の、パブリックチャンネルの約半年分のデータを非構造データとしてインプットすることに決めた。

「データのクレンジングには時間をかけましたね。一番苦労したのは、Slackやメールデータの中に山のようにある、ノイズデータの除去です。例えば『お疲れ様です』という言葉、これが一番よく出てくる言葉だったりするんですよね。そのまま受け取ってしまうと、みんないつも凄く疲れていることになってしまう。Pythonでクレンジングアプリケーションを作って実施したんですが、何回やっても次々に新しいノイズに気付いて、プログラム修正にものすごく時間がかかりました」

この分析結果の例として、特徴的なイレギュラー値が出た2人を紹介しよう。

1人目はMBTI分析で「INFP(仲介者)」型と出たYKOさん。このタイプ群の他の人と比べると「大胆性」の値が比較的低く、知的好奇心も値が低かったという。そのようなイレギュラー値が見えた場合に、何かケアが必要な環境や要因があるのではないか、と考えることができる。また同じく「仲介者」型だったNNAさんは、注意深さの値が他の人よりも高かった。そこで「いつも以上に慎重さが求められている局面にいるのではないか」と考えることができる。

システムリプレース時に改めて問い直す「価値あるデータ」とは何か

「まだ着手できていないところではありますが、今後これらのデータを元にAIのチャットボットシステムを作ることを考えています。今までは、年に1度の健康診断書と直近3カ月の勤務表だけを出して産業医と面談していたのですが、このチャットボットがいてくれることで、メンタル疾患になる前に早期にケアが実現できるのではないかと思っています」

こう語る関氏だが、一方で懸念点についても語る。一つ目は、タイプ分けに使った「MBTI」が適切なのかという点。そもそも用いた仮定が違うかもしれないし、性格診断が16分割で良いのかは議論が分かれるところだ。最近は遺伝子検査も容易に安価に行えるようになったため、性格診断よりもこちらを利用する方法も考えられるだろう。

二点目は、このようなAIシステムそのものに対する拒否反応や嫌悪感を持つ人がいることについて、どう対策を練っていくのかということだ。

「このシステムについて社内で案を共有したところ、『それはすごくいいね』という人もいれば、嫌悪感を示す人もいました。特に、実際に鬱やその予備軍になっている人からは拒否反応がありました。このようなシステムに慣れていないと『チャットボットの後ろに誰かいるんじゃないか』と思ってしまうようなんですね。一方で、今の若い人は大学で既にAIの授業を受けていて、知識もあります。全体的なITリテラシーが高まっていくことで、導入の心理的障壁は低くなり、データが増えれば増えるほど適切なアドバイスが得られることが実感として分かってくれば、抵抗感は減っていくのではないかと思っています」

関氏は今後、さらに取得データを増やして時系列に並べ、分析の正確性を向上させていきたいと語る。社長直属のチームに所属している関氏は、このようなチャレンジを積極的に進めることができるという。さらに、学んだことをビジネスで活用することがミッションとして与えられており、外販サービスへ適用したり、分析した内容を既存顧客や社内へフィードバックするなど、具体的なアクションが求められている。

「実は今後、勤怠システムをリプレースしようとしているんです。既存システムは15年前のものなので、単純に動きが遅いということもありますし、会社の外から接続できないような状態です。このコロナ禍にはマッチしていないシステムになってしまいました。システムを構築する中で、これを解消するAIを組み込むことができるのではないかと考えています。また勤怠データも、今はただ入力しているだけ。そのデータからどういった傾向が読み解けるのか見ることができていないので、それは続けて取り組んでいきたいと思っています」

どういうデータを集めることが業務改善につながるのか、AIで利用しやすいデータになるのか、価値のあるデータとはどのようなものなのか。「AI実践道場」がAI活用に向けたファーストステップとして目指したのは、まさにこの、データに対する意識付けに他ならない。「この学びを踏まえて、ユーコムの社内システムをどう構築するのか考えていきたい」と関氏は語る。

今回は「AI実践道場」ステップアップコース参加企業である、ユーコムの取り組みについて紹介した。最終回となる次回は、2021年に行われた「AI実践道場」で作成された、学生と企業のマッチングAIアプリケーションについて紹介する。

(取材・文:かのうよしこ 編集:杉田研人 企画:SAGOJO)

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プロフェッショナルなスキルを持つ旅人のプラットフォームSAGOJOのライターが、現地取材をもとに現地住民が見落としている、ソトモノだからこそわかる現地の魅力・課題を掘り起こします。