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和の事象をリフレーミングし和を再生する

2021.06.25

Updated by Shigeru Takeda on June 25, 2021, 11:18 am JST

人間は、バイアス(bias)の塊だ。成功した人のエピソードだけをかき集めて何か法則らしきものをでっち上げてしまう認知バイアス、南海トラフ地震が発生してもまあ俺は大丈夫だろうという根拠のない正常性バイアスなどが比較的良く知られている。

これらは、是正されるべきという文脈で語られることが多いが、バイアスをある種の偏向だとすれば、それはそのまま「個性」と言い換えることができるのも事実である。医療関係者や科学者にとっては「ノイズやブレ」に過ぎない他人との些細な差が個性だとすれば、これに人生を賭けざるを得ない人(ヒト)という生き物は、命をかけて自分自身が持つバイアスとともに生きる宿命にあるとも言える。

というわけで、いろいろな問題を孕みつつも、まあ個人の場合はバイアスは致し方ない、ということにしておこう。しかし、これが組織や国を挙げての偏向になってくると話が変わってくる。

例えば「玉砕」は、玉が美しく砕け散っても霊魂はその尊厳を保ったまま(永久に)生きながらえる、という荒唐無稽な考え方だ。新渡戸稲造が外国人に日本人を分かりやすく説明するためにでっち上げた「武士道」とも妙に相性が良い。

しかし、この「極限まで突き進んだ組織的な正常性バイアス」が恐ろしい結果を招いたのは、今更言うまでもない。というわけで、組織のバイアスはやはり破壊(break)すべき、ということになる。

企業も同様だ。「遠い将来や他の業界はともかく、今しばらくはまだなんとかなるだろう」という正常性バイアスが働いている新聞社などのオールドメディアは、メディア環境の変化に対して積極的に鈍感になろうとしているように見える。

老舗(しにせ)は、娘婿(むすめむこ)の入社をきっかけに、このバイアス・ブレイクに積極的に取り組むことが多いという(溺愛する娘が選んだ伴侶を過大評価しているだけのような気もするが)。老舗の老舗たる所以は、長い年月の間に定期的に行われるバイアス・ブレイクにある。古くから続く企業ほど革新的、ということだ。

バイアス・ブレイクは、リフレーミング(reframing)と言い換えることができる。無意識に設定されている枠組みを一旦取り払い、別の枠組みを再設定・再構築する作業である。このリフレーミングの達人としてよく知られているのが、故・内田義彦氏である。名著『形の発見』(藤原書店、 改訂新版 2013年)を読むと目から鱗の連続である。さらに、もっと身近に存在する達人としては、詩人が挙げられる。以下の詩をご一読いただきたい。

積もった雪(金子みすゞ )  

上の雪、さむかろな。つめたい月がさしていて。
下の雪、重かろな。何百人ものせていて。
中の雪、さみしかろな。空も地面じべたもみえないで。

※別冊太陽122 金子みすゞ (別冊太陽―日本のこころ)平凡社(2003)より引用

単に雪が積もっているだけにしか見えない風景も、金子にはそれが三層構造に見える。白眉は「中の雪」だ。根雪と新雪の区別くらいは付くが、「中の雪」は雪国生まれの筆者にもなかなか見えてこない。この「私たちには見えていないものを見せてくれる能力(=リフレーミング)」に詩人は秀でているのだ。

そして、私たち日本人は、「和」そのものをリフレーミングしなければならない。例えば、新教養主義宣言・和室学の講義において、和室イコール畳+せいぜい床の間、くらいの単純な理解しかなかった筆者に「いや、あれは態度のことだ。自然を観察する態度のことを私たちは(便宜的に)和室と呼んでいる」と諭してくれた藤田盟児氏(奈良女子大学教授)氏なども、リフレーミングの達人であろう。

食レポだらけのテレビ番組を見ていると、日本は「和」で世界制覇できるかもしれないという錯覚に陥るが、「和」も他の道具同様に得手不得手を併せ持つ、と考えるのが普通だろう。「万能」を謳う道具ほど、実際に使える場面は少ない。和の強みは、様々なメディアで繰り返し報道されているが、同じくらい弱点もあると考えるべきだ。強みと弱点をリフレーミングすることから生まれてくる新しい和のサービスや和の事業が求められているはずである。

例えば、日本人が得意ということになっている「高品質」は、ある閾値を超えると「過剰品質」に転じる。高品質は強みかもしれないが、過剰品質は「適度な品質で低価格な商品」に絶対に勝てない。日本が一世を風靡した半導体で凋落したのは、これが理由だった。

リアドアから降りたVIPが、徹底的に磨き込まれたCピラーを鏡代わりに使う」などという話を聞くと、「さすが日本人」というよりは「他にやることがあるんじゃないか」と他人事ながら心配になる。特に「根性」「やる気」「大和魂」などという実態のないものを礼賛するムードは払拭した方が良い。

とりあえず、良くも悪くも「和」と思われる言葉を下記に集めてみた。

日本酒、燗酒、焼酎、醤油、味噌、豆腐、希少性の高い日本ならではの食材、旨味、食堂、弁当、駅弁、コメ、おにぎり、茶碗、箸、お茶、和紙、生け花、虫の音、ヒグラシ、茶道、筆、和菓子、神社仏閣、お遍路、大相撲、柔道・剣道などの武道、忍者、雪晒し(越後上布)などの布、和装、着流し、風呂敷、線香花火、お香、日本映画、日本画、大和絵、浮世絵、屏風、漫画、アニメ、非対称の美、和様(vs唐様)、歌舞伎、能、狂言、邦楽、和楽器(三味線、琴、和太鼓など)、演歌、薄化粧、日本刀、手仕事、下駄・傘などの雑貨(民藝)、旦那と出入りの職人、風鈴、和歌、俳句、詩、日本語(和語)、縦書き、助詞、文構造、和製英語、民話、民謡、地域の言葉(方言)、季節の言葉(e.g. 二十四節気/七十二候)、儀式、葬式、結(ゆい)、頼母子講、4枚の大陸プレート上の不安定な国土、温暖湿潤気候、台風、地震、火山、温泉、森林、水、水と安全はタダ、水に流す、島国根性、豊富な海岸線と広大な海域、縁側、土間、離れ、畳、床の間、茶室、欄間、神棚と仏壇(神仏混交)、障子、襖、大黒柱、カプセルホテル、陰翳礼讃、鳶職、空師、日本庭園、枯山水、借景、瓦、建築という言葉、秋田犬、芝犬などの和犬、和牛、世間(せけん)、間(あいだ)、付和雷同、本音と建前、輿論と世論、根回し、和風(和もどき)、信頼社会ではなく安心社会、村八分、姥捨、回覧板、和洋折衷、脱亜入欧、和魂洋才、タテ社会、イエ社会、家庭という概念、嫁(ヨメ)、終の住処、粋(いき)、阿吽の呼吸、忖度、おもてなし、玉虫色、お客様は神様です、武士道、自然を神と崇める態度、言霊、火葬、甘えの構造、東大・京大のみを全国民が特別扱いする学歴観、権威主義、儒教的価値観、理系・技官・科学の軽視、政府の子会社としての日本銀行、丁半博打、リテラシー教育の欠落、議会制民主主義のフリをした緩い社会主義に居心地の良さを感じる国民性、米国が策定した憲法、民意を反映しない中選挙区制、低い投票率、英米法ではなく大陸法の模倣、律令制、天皇制、小資源による貧乏臭さ(もったいない、など)、請負制度、系列、財閥、カンバン方式、擦り合わせ、前倒し、先送り、約束の時間を守る、残業、社宅、独身寮、我慢、勤勉、穢れ、過労死、自殺、謙遜、不思議なほどの治安の良さ、etc

自慢できる事象とできれば闇に葬りたい悪癖が拮抗している、と感じられるはずだが、日本人(=日本語を母語とする人、とここでは定義しておく)であれば、誰もが上記のいずれかについて「言いたいことがあるはず」である。肩肘張った議論よりは曖昧な雑談に向いたテーマでもある。というわけで、「和に関する雑談」を新教養主義宣言として試験的に実施してみようと思う。

(詳細は別途 https://wirelesswire.jp/talk_event/ にてお知らせします)

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竹田 茂 (たけだ・しげる)

新潟県上越市出身。日経BP社にてBizTech(現在のnikkeibp.net)の立ち上げを皮切りに同社の様々なインターネット事業の企画・開発を統括/プロデュース後、2004年にスタイル株式会社を設立。主にB2B分野にフォーカスしたWebメディアを創刊・運営。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997-2003年)。著書に『会社をつくれば自由になれる』(インプレス、2018年)など。