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急速に接近するAIとメタヴァース、そして5G

2022.03.11

Updated by Ryo Shimizu on March 11, 2022, 05:44 am JST

角川アスキー総研の遠藤諭によれば、「同じ時代に急速に育った一見全く無関係なテクノロジーはある日突然合体し、強力なニューテクノロジーに変貌する」という。

この現象を生物学に例えたのが、ケヴィン・ケリーの「テクニウム」だ。

テクニウムとは、個々のテクノロジーを一つの生物と捉え、生物のように増殖し、生物のように他の生物と合成され、進化するものと解釈する考え方のこと。

技術の未来予測を行う方法は二つある。一つは、未来の技術そのものを作り出すこと。もう一つは、技術を生物に捉えて解釈し、進化論的に技術を俯瞰することで、次なる技術的進化を予測することだ。

テクニウムとはまさしく後者の考え方である。
遠藤諭はたとえばそのような例として、「半導体とコンピュータ」をあげる。

今やこの二つはあまりにも密接に結びついていて見落としがちだが、確かに、半導体そのものとコンピュータの出現は全く無関係に行われた。
コンピュータに半導体が使われ出したのは、コンピュータ(職業ではなく機械としての)が発明されてから半世紀ほど経った後だった。

1890年のアメリカ合衆国国勢調査のために公募された結果、集計機(タビュレーティングマシン)が発明され、人間が13年かかると言われた計算を13ヶ月まで短縮することに成功した。これを最初の実用的なデジタルコンピュータ(自動計算機)の起源と考えると、これが電子化されたENIACの時代(1940年代)まで、たっぷり半世紀もかかっていることになる。

半導体の発明は1947年で、最初は真空管の代替品として作られた。この当時の真空管の主な利用用途はラジオやアンプ(増幅装置)であり、これらはもちろんコンピュータとは全く無関係だった。最初の半導体はトランジスタと名付けられ、1950年代には価格も下がり大量生産されるようになった。

ただ、電子化されたコンピュータには大量の真空管が使われており、真空管の持つハード的脆弱性を解決する手段として、真空管をトランジスタに代替するように進化する。これによって、コンピュータは小型化と低価格化を手に入れ、同時に安定するようになった。

真空管を使っていたコンピュータが真空管の代替品として製造されたトランジスタ(半導体)に置き換わるのは、今では当たり前かもしれないが、トランジスタが発明された当初はトランジスタの使い道について、誰も具体的なイメージを持っていなかったという。

というのも、最初機のトランジスタは性能が低く、ラジオに使うのさえ難しいとされていた。そこで考えだされたのが、ヘルメット型の補聴器だ。これならトランジスタの特性を活かせるとアピールされたものの、普及はしなかった。

トランジスタの主な利用目的はアナログ回路で、デジタルコンピュータとは根本が違っていた。
しかし今日、コンピュータと半導体を切り離して考える人はいない。それほどまでにデジタルコンピュータと半導体は密接に結びつき、ほとんど運命的とも言える進化を遂げた。

半導体とコンピュータの関係が決定的になったのはトランジスタを満載した集積回路(IC)が発明されたことで、これで従来はビル一つとか部屋一つ分、トランジスタを使っても冷蔵庫何個分のサイズだったコンピュータが、親指大のマイクロチップに凝縮され、秋葉原で誰でも手に入れられるようになった。

テクニウムには、生物と同じように、ある性質がある。それは生物よりもずっと明確で、我々人類にとってはもっとも予想しやすい性質だ。

簡単に言えば、テクノロジーは、必ず、「小さく」「軽く」「安く」「速く」なる方向へ進化する。そして、その結果、他のテクノロジーと結合し、進化する。
あらゆるテクノロジーにはこの傾向がある。

逆に言えば、テクノロジーの淘汰圧は「大きく」「重く」「高い」「遅い」ということになる。
大きすぎるテクノロジーは値段が高く、重量が重い。そうしたテクノロジーは必ず淘汰される。

たとえば、ブラウン管が液晶になり、液晶が有機ELになる。その過程では、プラズマディスプレイや無機EL、LEDアレイ、電子ペーパーなども開発されたが、大きさや重さ、遅ささなどが原因でディスプレイの勝者にはなっていない。

大量生産されることが前提のテクノロジーは、大量生産されればされるほど安くなる。
つまり、ヒット商品に寄生するテクノロジーは進化しやすい。

たとえば、1980年代のコンピュータにとって、複雑な科学計算をするためのモジュールだったFPU(浮動小数点演算ユニット)は、出現そのものは早かったが、それより後に出現したGPU(グラフィックス処理ユニット)の方が先にゲーム機に搭載され、数億台オーダーで生産されることで爆発的に安価になり、進化が促進された。

GPUと全く無関係に進化していた人工知能が、2012年ごろに急速に接近し、人工知能研究が爆発的に進歩したのがここ10年の出来事である。もはや人工知能分野へのGPUの貢献を疑う人はいないだろう。しかしその裏側には、そもそもGPUの大量生産と低価格化という淘汰圧が効いていたのである。もしもゲーム機にGPUではなくFPUが先に搭載されていたら、今のような人工知能の進歩はなかっただろう。

同じことが、最近、全く無関係に進歩しつつある二つのテクノロジーを結びつけようとしている。

それがメタヴァースとAIに今起きつつあることだ。

メタヴァースの起源をどこに求めるかは諸説あるだろうが、1968年のアイヴァン・サザーランドのヘッドマウントディスプレイ(HMD)を挙げる人は多い。

サザーランドの研究室では、ヘッドマウントディスプレイに高速な3D映像を表示するための研究として、GPUが開発された。GPUは当初非常に高価だったため、映画制作やゲーム制作のために使われる数千万円から数億円する高価なワークステーション製品として実用化された。

サザーランドはその前に初のインタラクティブ・ディスプレイである「スケッチパッド」を開発しており、これが全世界の研究者から注目を浴び、数多くの才能が彼の元に集結した。Adobeの創業者ジョン・ワーノック、Pixarの創業者エド・キャットムル、Netscape(Firefox)の創業者ジム・クラーク、そしてビル・ゲイツとスティーブ・ジョブズの共通の師であるアラン・ケイである。アラン・ケイが1968年に提唱した「ダイナブック(dynabook)」コンセプトは、2010年にiPadとして商品化されている(ケイ自身はiPadとdynabookの関係性を否定しているが、ジョブズがdynabookにインスピレーションを得たのは明らかである)。

しかし、「高価である」という淘汰圧はGPUを必然的に「小さくて安い」ものへと置き換えていった。高価なグラフィックワークステーションを販売するメーカーは全て倒産するか撤退し、エンジニアはゲーム会社や映画会社に転職した。

ただし、HMDはずっと高価であり続けた。ディスプレイ技術や空間認識技術が進化しないと安くならなかったからだ。
それでもHMDの副産物である、人の動きを三次元的に認識する技術は、「モーションキャプチャー」技術として、ゲームや映画に使われ始めた。ゲームや映画に使われ始めると安価になる。最終的にはMicrosoftのKinectのように、ゲーム機向けの技術として大量生産された。

21世紀に入り、ディスプレイ技術が真空管(ブラウン管)から液晶、有機ELへと進化していったことで、再びHMDの進化が再開された。
それにはディスプレイ技術の未熟さをソフトウェアで補うという手法が併用されることもあった。初期のOculus Riftはそのようにして破壊的な低価格を実現した。

さらに大量生産される土壌としてゲーム機よりも遥かに製造数の多い機械、スマートフォンに寄生することでディスプレイ技術、プロセッサ技術、省電力技術が飛躍的に進化した。

スマートフォン向けに作られた技術のほぼ全てが現在のHMDに投入されている。
言ってみれば、現代のHMD、そしてメタヴァースと呼ばれるムーブメントは全ての始まりであったサザーランドの最初期の研究目標への回帰と言える。

サザーランドの研究グループには一つだけ全く省みられないものがあり、それが人工知能だった。
当時、人工知能にはインタラクティブ・コンピュータの研究と同じくらい予算が投じられていた。

アメリカ国防総省国防高等研究計画局(ARPA)の研究部門の部長だったJ.C.R.リックライダーは、世界的な相互接続可能なネットワーク、インタラクティブ・コンピュータ、そして大規模な人工知能プロジェクトに予算を投じた。

このうち、ネットワークは現在のインターネットに、インタラクティブ・コンピュータは現在のスマートフォンへと順当に進化したが、残念ながら人工知能だけはなかなか芽が出なかった。

人工知能には羨望と失望のサイクルを繰り返すという性質があり、他の二つの分野の研究者は人工知能とは距離をとっていた。
ところがゲーム機とスマートフォンによってGPUが飛躍的に高性能化すると、突如、それまで全く失望されていた人工知能が急速に実用化された。

HMDにも最新の人工知能技術が応用されている。
OculusあらためMeta QuestというHMDには、人間の手の動きを追跡・認識する人工知能技術が使われている。しかしこれはまだかなり限定的な使い方だ。

先日、Meta社のマーク・ザッカーバーグが行なったプレゼンテーションでは、メタヴァース世界の中で言葉によって世界を構築するというデモンストレーションが行われた。

マークが「ここに島が欲しい」と言えば島が出現し、「ここに木が欲しい」と言えば木が生える。
まるでゲームか、神話のような世界だ。

テクニウムにはもう一つ、重要な本能がある。「一見不要に思える技術も安価になれば新しいニーズが生まれる」というものだ。

トーマス・エジソンは「必要は発明の母」と呼んだが、テクニウムからみればむしろ「発明は必要の母」となる。
たとえば、5Gネットワークを必要だと感じてる人は今現在ほとんどいないだろう。

しかし、1995年に自宅に光回線が必要と考える人は、同じくらいか、もっと少なかった。
なぜなら、1995年当時は、インターネットそのものが小さく、ダウンロードすべき情報も少なかったからだ。

ところが回線はどんどん広く太く高速になり、しかも値段はそのままか、少し高価くらいで普及していく。
通信量と比較すると相対的には回線の価格は下がり続けている。

この秘密は、そもそもあらゆるテクノロジーは短命であるということに原因がある。
通信回線を構成するテクノロジーは、数年で老朽化する。

それを構成する部品もすぐに製造されなくなる。すると、必然的に数年に一回のサイクルで通信環境を再構築する必要が出てくる。
その際、新しい部品は常に高速かつ安価になっているので通信速度は上がってしまう。

再構築そのものも無料ではできないので、当然、新しい技術には新しい値段をつけて売り込むことになる。
しかし、通信が高速化したとしても、それを利用する目的がなければユーザーは恩恵を受けることができない。

これはインフラ側だけでなく消費者も同じで、常に携帯電話を数年サイクルで買い替える必要がある。

結果として、「携帯を買い替えたらたまたま5G対応だった」ということが放っておいても起きる。
それがある程度進むと、今度は「5Gじゃないと成立しないコンテンツ(利用目的)」が登場する。

そのうちの一つとして期待されるのがメタヴァースだ。
メタヴァースは圧倒的に情報量が多い。

ZOOM会議よりも情報量が遥かに多いので、5Gのアピールとしてはうってつけだ。
これが通信大手がこぞってメタヴァースに投資する理由でもある。

通信大手の目的はメタヴァースで覇権を取ることではなく、メタヴァースを盛り上げて5Gの活用事例を作李、5G時代の文化を創出することだ。
最終的にMeta社が覇権を取ろうがMicrosoftが取ろうが通信回線として5Gを使って貰えば問題ないのである。

反対に通信大手がAIへの投資に及び腰なのは、AIと5Gの関係性が見えないからである。

ただ、メタヴァースとAIは現在急速に距離を縮めつつある。
Meta社の示すビジョンは、AIがメタヴァース内の日常に入りこんでいる。

最近Meta社配下のFacebook Researchが発表したtextlesslibは、文字を使わない自然言語処理のためのフレームワークである。

文字をつかわない自然言語処理というと直感的に理解が難しいかもしれない。

現在の翻訳サービス、たとえば大ヒット商品であるソースネクスト社のポケトークは、人間が話した言葉を最初に音声認識して日本語の文字列にし、それをGoogle翻訳で英語に翻訳したものを音声合成で読み上げる、という三段階の処理をしている。

旅行で使う翻訳ツールとしてはこれで十分だが、メタヴァース内で見知らぬ人と友達になろうというときにこの方式は少し不便だ。

そこでFacebook Researchが考えるtextlessとは、日本語の音声から直接、英語の音声に翻訳するようなことができないかという可能性を含めた研究である。

それが実現すると、喋り方のニュアンスを残したまま先方の言語に翻訳できるし、逆に先方の喋り方を残したまま日本語で聞ける。

この技術を使うと、たとえばハリウッド映画が吹替なしで本人が直接流暢な日本語を話すように見ることができるようになる。
もちろんまだそこまでの技術は開発されていないが、このコンセプトが目指すのはそのような世界で、実際、ザッカーバーグはそうしたコンセプトを先日のビデオの中で語っている。

これはメタヴァースとAIの融合の始まりに過ぎない。
というのも、まだ「決定的」と言えるほどの進歩が感じられないからだ。

ザッカーバーグはSNSとAIというテーマに着目して何年も前から研究プロジェクトを支援しているが、なかなか上手い成果に結びついていない。
それは彼の目線がもっと遠くを見ているからで、研究の方向性としては正しくても実用化されるまでには時間のかかりそうに思える。

ひょっとすると、この瞬間は全く着目されていない、5GとAIの融合の方が先に発生するかもしれない。
それを考えるのも面白そうだ。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。

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