Local Knowledge
「測る」とは何か? 測定することの喜びを改めて見直す
the meaning of the act of "measuring"
2024.11.08
Updated by Shigeru Takeda on November 8, 2024, 14:50 pm JST
Local Knowledge
the meaning of the act of "measuring"
2024.11.08
Updated by Shigeru Takeda on November 8, 2024, 14:50 pm JST
全てのシステムは(オートポイエーシスのような生命系における自己言及システムを除けば)、(A)データの入力→(B)アルゴリズムによる処理→(C)出力という仕組みになっています。現在(A)としてのLLM、そして(B)としての生成AI(Transformer)がIT業界における話題の中心ですが、この(A)に先立つものとして「測定(はかる)」という行為があります(自然言語処理システムは基本的にこのプロセスをスキップしています)。
「測定」は、和語で表現すれば「はかる」ということになるわけですが、ここには実にたくさんの漢字が割り当てられていて、「計る」「測る」「量る」は、体温、距離、時間、数、長さ、高さ、深さ、広さ、重量、容積などに加えて、「真意を測りかねる」という具合に人の気持ちまでが観測の対象になります。「悪事を謀る」「会議に諮る」「便宜を図る」なども「はかる」です。生成AIでガッツリ儲けようとする時にも、それが本当に儲かるのかどうかを図る(=企てる)必要があるでしょう。
繰り返しになりますが、この「はかる」は全てのシステムの上位概念として君臨する、ということに留意しましょう。初対面の相手と名刺交換するときに私たちが「はかっている」ものから始まって、走査型電子顕微鏡(SEM)で、半導体のウェーハ上に形成された微細パターンの寸法を「はかる」ものまで、このはかるという行為のダイナミックレンジの広さ、そしてそれが全てに先立つ、ということは、私たちの生活や仕事の全てが森羅万象を「はかる」から始まることを意味します。つまり、人生の面白さの起点は「はかる」にある、ということになり、それが「はかること自体の」面白さにつながっているとも言えるわけです。
ここでもう一つ重要なポイントは、「はかるという行為には個性が大きく左右する、自分の個性を活かすことができる」ということですね。誰が入力しても出力結果が同じになるのが一般的な工学系のシステムですから、そこには個性という概念が存在しません。ところが、立派な音響工学に基づいて作られたはずのピアノは、誰が入力(弾く)するかで、結果が決定的に異なるのは言うまでもありません。この時「弾く」という行為は「データの入力」ではなく「鍵盤と手先の距離や想いをはかる」行為、とみなすことができます(チック・コリアとキース・ジャレットを比較すると意味がよくご理解いただけると思います)。
「何を対象にどうはかるか」は全て自己裁量で決定できます。何しろ今回のセッション3に登場する森川淳子さん(科学大・教授)は「熱をはかる」専門家です。何が面白いのか私にはよくわかりませんが、森川さんはそこに大きな可能性を感じたはずなのです。
11月23日(勤労感謝の日)に開催される「物質知性と共に育むサステナビリティ価値創造」のセッション3では、“データ”そのものを導く過程に先立つプロセスとしての「観察/測定すること」の喜びを改めて見直してみたいと思います。
来る11月23日に開催される「物質知性と共に育むサスティナビリティ価値創造」のセッション3(14:00開始)では、関 修平(京都大学)、森川淳子(東京科学大)、陣内浩司(東北大学 )の3名が、「測る」とは何か/測定することの喜びを改めて見直す」をテーマに議論します。ぜひご参加ください(無料)。
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登録はこちら日経BP社の全ての初期ウェブメディアのプロデュース業務・統括業務を経て、2004年にスタイル株式会社を設立。WirelessWire News、Modern Times、localknowledgeなどのウェブメディアの発行人兼プロデューサ。理工系大学や国立研究開発法人など、研究開発にフォーカスした団体のウエブサイトの開発・運営も得意とする。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997-2003年)、情報処理推進機構(IPA)Ai社会実装推進委員、著書に『会社をつくれば自由になれる』(インプレス、2018年) など。