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新産業としての日本の半導体は新しい物質知性とともに再設計される

Japan's semiconductors as a new industry

2024.11.12

Updated by Shigeru Takeda on November 12, 2024, 12:58 pm JST

IMF(国際通貨基金)協定(1944年)に始まり、シャウプ勧告(1949年)、朝鮮特需(1950年)、ニクソンショック(1971年)、レーガノミクス(1981年)、プラザ合意(1985年)、リーマンショック(2008年)、という具合に、戦後日本経済は(良くも悪くも)常に米国の関数、という形で推移してきました。その中でも、第一次および第二次日米半導体協定(1986〜)の締結は、それまで世界の半導体市場の約70%以上(特にDRAM)のシェアを誇っていた半導体産業が、その後に急速に力を失っていくきっかけになります。

さらに、3年程度で買い替えてしまうPC(パソコン)に日本の半導体は過剰品質、というムードが広まったことも、これに拍車をかけました。日本の電子産業は1990年前後、つまりバブル崩壊とともに急降下を続け、それが現在まで続くという状況です(対照的なのが自動車産業ですが、このあたりの事情については『電子立国は、なぜ凋落したか』西村吉雄(日経BP、2014)がとても参考になります)。

私たちの世代は、短期間の急速な発展と凋落を(ビジネスマンとしてまだ若かった頃に)目の当たりにしていますから、どうしても「夢よもう一度」というモードになりがちです。「実力はあるのに米国にしてやられた」と考えてしまうわけです。

しかし、周りを見渡してみると、もはや半導体を必要とする白物家電をはじめ、全ての電子機器市場から「日本の製品」は消えつつあります。焼け野原状態どころではなく、もはや「何も残されていない」のが実情です。市場がないのだから技術者が育つわけもありません。

それでも過去の栄光をなんとか取り戻したいという想いが熊本へのTSMCの誘致やラビダスの北海道進出だったりするわけですが、普通に考えて、半導体に関するリニア(線形)な開発を長年怠ってきた日本がいきなり2ナノ半導体など作れるわけがありません。結局、IBMの技術を採用するということになれば、これも結局、GAFAMと同じことです(昨年の日本のデジタル赤字は5兆円を超える、と言われています)。

ここで必要なのは、過去のしがらみとは全く無関係な発想です。「象徴的なのは富士通の『富岳』ではないだろうか」と(前述の書籍の著者)西村氏は指摘します。富士通のホームページには以下のような富岳に関する記述があります。

A64FXはスーパーコンピュータ「富岳」のプロセッサとして開発された。半導体にはTSMCの7 nm CMOSプロセスを採用し、高密度化のためにTofuインターコネクトDコントローラとPCI Expressコントローラを統合させ、パッケージ内に高帯域な3次元積層メモリーを搭載している。A64FXは、実績のある富士通の高性能なマイクロアーキテクチャーを受け継ぎながら、ソフトウェア開発環境を向上させるために、Armアーキテクチャーを採用する。更に、Arm社のリードパートナーとしてSVE(Scalable Vector Extension)の仕様策定に取り組み、その成果を採用した。

面倒な能書きがたくさん記述されていますが、一言で言えば「富士通は設計に専念した」と宣言していることが判ります。富士通はその設計力だけで勝負した、ということです。ファウンドリー(foundry)のような後工程はTSMCに丸投げだけど、設計にはこだわったのです。

熱暴走するNVIDAのGPU前提の世界で、独自設計のCPUをちまちま設計している日本人って、なんだかかっこいいと思いませんか(余談ですが、量子コンピュータの世界で動くアルゴリズムが書けるのは宮大工のようなメンタリティがある日本人エンジニアだけじゃなかろうか、という説もあります)。

半導体はそもそも、導体と絶縁体の中間の性質を持つ物質としてのシリコンからスタートしていますが、これからの半導体は「別にシリコンじゃなくていいんじゃね?」という発想が求められる可能性すら秘めています。ON/OFF制御に本当に電気は必要なのか、という光電融合に関する技術でも日本にはアドバンテージがあります。

製造ではなく設計、電気ではなく光、シリコンではなくトポロジカル、そしてモノリシック(monolithic)からチップレット(chiplet)、という時代に、電子立国ニッポンを経験していない若いリサーチャ/エンジニアが、新材料、パッケージング技術、スピントロ二クスなどを駆使し、全く新しい時代の半導体の研究開発に着手しています。

長谷川修司(はせがわ・しゅうじ)日本物理学会・会長、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授

長谷川修司(はせがわ・しゅうじ)日本物理学会・会長、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授

来る11月23日に開催される「物質知性と共に育むサスティナビリティ価値創造」のセッション6(17:00開始)では、モノリシック(monolithic)からチップレット(chiplet)へという集積回路(IC)登場以来の大転換を迎えつつある現代の様子を西村吉雄氏(元日経エレクトロニクス編集長)から、パワー半導体の最前線と半導体教育の実際を渡部平司氏(大阪大学大学院工学研究科副研究科長)から、超省エネメモリーの開発現状を遠藤哲郎氏(東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター長)から、そして新しい物質知性としてのトポロジカル半導体などの「Beyondシリコン」の状況を長谷川修司氏(日本物理学会・会長、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。セッションチェア)からお聞きし、どうやって新しい時代に必要な新しい設計力を磨いていくべきなのか、を議論します。

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竹田 茂 (たけだ・しげる)

日経BP社の全ての初期ウェブメディアのプロデュース業務・統括業務を経て、2004年にスタイル株式会社を設立。WirelessWire NewsModern Timeslocalknowledgeなどのウェブメディアの発行人兼プロデューサ。理工系大学や国立研究開発法人など、研究開発にフォーカスした団体のウエブサイトの開発・運営も得意とする。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997-2003年)、情報処理推進機構(IPA)Ai社会実装推進委員、著書に『会社をつくれば自由になれる』(インプレス、2018年) など。