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ラストスタンド

Last Stand

2015.08.24

Updated by yomoyomo on 8月 24, 2015, 16:29 pm JST

少し前に翻訳家、評論家の大森望さんの「1995年、最強個人メディアの誕生」という文章が話題になりました。この文章自体は、朝日新聞デジタルの20周年記念特集の一環として書かれたものですが、日本におけるインターネット利用の本格化から今年で20年と言うこともできます。

ワタシは大森望さんの著書では『特盛! SF翻訳講座』が大好きで、折に触れ何度も何度も読み返しているのですが(現在は『新編 SF翻訳講座』として文庫化されている)、章の合間のインターミッションとして収録されている「私的翻訳環境変遷史」が、大森さんがパソコン通信、Mac、そして WWW にはまり、のめりこんでいくドキュメントになっており、今読んでも楽しいです。

大森さんがホームページを開設したのは1995年春ですが、『特盛! SF翻訳講座』に収録されたその当時の文章を見ると、大森さんより先にホームページを開設していた先達の中に「内田有紀のポスターがにこやかに出迎えてくれる菊池誠先生のページ」という記述があって、人に歴史ありと微笑ましくなります。以下余談ですが、こういう本は人物関係の記述が興味深く、少なくとも1989年夏までは大森さんは小谷真理氏と電話で楽しく話す仲だったのかとか発見がありますし、あと1990年の文章では「写真では相当あぶない人みたいに見える山形くんですが、実物はもうちょっとまともです」と山形浩生のことが書いてあって笑ってしまいました。人骨で作った鼻輪でもしてたのでしょうか?

話を1995年に戻しますが、ワタシ自身は当時どうインターネットを利用していたかというと、同い年の津田大介さんと同じく大学の研究室のウェブサイトにしょうもない自己紹介ページを作っていました。ただあれから20年経っても性懲りもなくブログを書き続けている自分は、当時からあまり進歩していないのではないかとも思ったりします。

角川インターネット講座 (5) ネットコミュニティの設計と力 つながる私たちの時代今年の1月にKADOKAWA/角川学芸出版の編集者から角川インターネット講座の第5巻『ネットコミュニティの設計と力 つながる私たちの時代』への寄稿を依頼され、「ソーシャルメディアの発生と進化」という、この20年を振り返り、その先を見据える文章を書くことになりました。シリーズの中では第5巻ですが、刊行順からいくと全15巻の12冊目で、シリーズのクライマックス感があります(?)。

個人的な話になりますが、角川インターネット講座に寄稿を依頼されたとき、ワタシは2006年にプチグラパブリッシングのあたらしい教科書シリーズコンピュータ編に寄稿したときのことを思い出しました。

あのときは山形浩生が監修、仲俣暁生さんが編集というところまではよいとして、執筆者にばるぼら、yomoyomo という得体の知れない名前の人間が約2名含まれるのは「教科書」としてどうなんだと社内でも少し問題になったそうです(そのことを笑いながら話してくださった、この本の担当編集者だった清田麻衣子さんは、後に里山社という出版社を立ち上げています。清田さんに幸あれ)。

ふと気付いたのですが、角川インターネット講座にはあのときのメンバーの多くが関わっています。山形浩生は第10巻の監修者であり、仲俣暁生さんは第3巻、ばるぼらさんは第4巻に寄稿しています。また、角川インターネット講座プロジェクト全般に携わった遠藤諭氏もくだんのコンピュータ編の執筆者でした。

上に名前を挙げた人たちに関してはその活躍、実績からして不思議なことではありませんが、ワタシ個人に関して言えば、よくあれから10年近く生き残り、今回このシリーズに貢献できたものだというのが正直なところです。なんとか間に合ったというところでしょうか。

そうしてみると、この角川インターネット講座シリーズには、他にもワタシの知人(友人と書くのはおこがましい、というか厚かましい)が何人も執筆しています。ざっと見たところ、岡本真さん(第3巻)、江渡浩一郎さん(第6巻)、大向一輝さん(第8巻)、柳瀬博一さん(第10巻)、白田秀彰先生(第12巻)などが浮かびます。もちろんこの他にも、スケジュールなど条件面が折り合わずに執筆依頼を受け(られ)なかった人もいるでしょう。

こうして知った人の名前をずらずらと挙げるのは、田舎に隠棲し、社交にいそしむ機会が少ないワタシのような人間も、これだけの優れた人たちとすれちがってきたということを、今回の角川インターネット講座シリーズを通して再認識できたからです。

しかし、今回ワタシが寄稿したシリーズ第5巻『ネットコミュニティの設計と力 つながる私たちの時代』にしても、第1章が yomoyomo(ワタシ)、第2章が Hagex という並びも異人感がなかなか強く、図らずも9年前の『あたらしい教科書』の轍を踏んだ感があり、目次だけ見てなんだこれはと怒り出す人がいないかと不安になります(笑)。

その懸念について達人出版会の高橋征義さんが第4巻と比較したコメントをしていますが、実際ワタシが寄稿したシリーズ第5巻に内容的に重なりがあるのは第4巻『ネットが生んだ文化(カルチャー)誰もが表現者の時代』でしょう。

ここでまた個人的な話になりますが、1月末に3月いっぱいの締め切りで1万5000字の原稿依頼を受けたはよいが、翌月から半月ほど国外に出ることになり、ワタシの場合それは原稿執筆に費やす時間がとれなくなるということを意味するので頭を抱えたものです。ドイツの台湾料理屋(でも店名は日本語)で、iPhone の Kindle アプリに入った第4巻の川上量生氏、ばるぼらさん、そして佐々木俊尚さんの文章をワンタンスープをすすりながら読みつつ、どうやってこれと違った文章を書こうかと毎夕唸ったものです。

そうした意味で、ワタシが寄稿した「ソーシャルメディアの発生と進化」は、概論的な立ち位置がばるぼらさんの文章に近く、修羅の国が生んだカリスマイケメン武闘派ブロガー Hagex さんの「恋愛論的コミュニティサイト運営術」は、立ち位置的に小野ほりでい氏の文章にあたるように思います(ただ文章自体は Hagex さんのほうが10倍以上面白い)。もし第4巻と第5巻の両方をお持ちの方は、両者を比較して読むのも面白いかもしれません。

前述の通り執筆期間を半月以上もロスし、その後には風邪をひくなど相当タイトなスケジュールで原稿を仕上げなければならず、必死の思いで締め切りに間に合わせたら、編集者からワタシの原稿が一番乗りだったと告げられていろいろ呆れたものです。それはともかく、編集者がバタバタ倒れたという噂もあるこのシリーズにおいて、ワタシのような社会不適合者に執筆の機会を与え担当してくださった KADOKAWA の編集者にこの場を借りてお礼を述べさせていただきます。

「ソーシャルメディアの発生と進化」は、この20年の間にどのようにソーシャルメディアが生まれ、発展し、これからどうなるかを論じた文章です。いきなり(執筆時点では日本公開されてなかった)映画『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』の話から始めるところに、当時のワタシの追い詰められた精神状態が垣間見られますが、ワタシの文章は本全体の中ではいささか四角四面すぎるきらいもあります。が、これほど長い文章を本に執筆するのはおそらく今回が最後でしょうから、これでよかったと思います。

これでこの20年間にいくらかは落とし前をつけられたのではないか――と強引に自分を納得させようとしたところで読んだある文章に気分は暗転してしまい、今回の文章は唐突に終わりを告げます(多分、次回に続く)。

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yomoyomo

雑文書き/翻訳者。1973年生まれ。著書に『情報共有の未来』(達人出版会)、訳書に『デジタル音楽の行方』(翔泳社)、『Wiki Way』(ソフトバンク クリエイティブ)、『ウェブログ・ハンドブック』(毎日コミュニケーションズ)がある。ネットを中心にコラムから翻訳まで横断的に執筆活動を続ける。

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