エスキュービズム・テクノロジー 代表取締役社長 武下真典氏

エスキュービズム・テクノロジー 代表取締役社長 武下真典氏(前編):IoTは人間がITを意識しなくなるきっかけになる

日本のIoTを変える99人【File.012】

2016.02.23

Updated by 特集:日本のIoTを変える99人 on 2月 23, 2016, 11:58 am JST

EC/オムニチャネル分野や店舗タブレットソリューションの「EC-Orange」に加え、IoT分野でもソリューションを提供するエスキュービズム・テクノロジー。IoT分野では、誰でも簡単に扱えるモノを意味する「Usable IoT」(ユーザブルIoT)をコンセプトに事業展開を進める。目指すのは、日常生活でこれまでに体験出来なかった便利さを実現すること。エスキュービズム・テクノロジー代表取締役社長の武下真典氏に、IoTソリューションに求められる「使いやすさ」や「便利さ」の勘所とは何かを聞いた。

エスキュービズム・テクノロジー 代表取締役社長 武下真典氏

武下真典(たけした・まさのり)氏
2008年にエスキュービズム入社。2014年に、Eコマースの開発、店舗タブレットソリューションの「EC-Orangeシリーズ」を軸に事業を展開するエスキュービズム・テクノロジーを設立し、代表取締役に就任。現在、同社はオムニチャネル/タブレット/IoTという3つのソリューションを柱に事業を展開。「小売りのミライをカタチにする」というミッションを掲げ、これまで1000社以上の小売業支援実績があるほか、最近ではIoT分野で積極的にソリューションを展開している。

今のITというのは、実は一般消費者にとって取り扱いが難しいものなのではないでしょうか。例えば、Wi-Fiルーターを考えてみましょう。リテラシーの高い人にとって、Wi-Fiルーターを設定して無線で様々な機器をインターネットに接続することは、大して難しいことではありません。では、読者の方のご両親はいかがでしょう。もしも、おじいちゃん、おばあちゃんと呼ばれる年齢に差し掛かっていたら、「Wi-Fiのパスワード」と言われてお手上げになってしまう方が半数以上になるのではないかと思います。Wi-Fiルーターを使ってインターネットに接続するだけでもこの通りです。ITの世界は難しい。要するに、私たちはまだまだ不便な世の中にいるのではないか、という仮説が成り立ちます。

一方、スマートフォンが普及したことで、ITが身近になったことは間違いないでしょう。スマートフォンは1つの分岐点だったと思います。ただし、そのスマートフォンもすべての人を幸せにしているとは言えません。スマートフォンを使いこなせないから、いわゆるガラケーでいいという人は世の中に相当数います。エスキュービズムでは、スマートフォンをホテルのキーにできる「Smart Hotel Key」(スマートホテルキー)という製品を提供していますけれど、スマートフォンすら持ち歩きたくないという宿泊客がいらっしゃることも事実です。一般の人は数時間ぐらいスマートフォンがなくても問題はないですし、スマートフォンを中核に据えた形でのサービスはまだ「不便」なのだと考えています。

IoTは、その「不便」を取り除く鍵になるでしょう。IoTではモノがインターネットに直接つながります。利用者はスマートフォンを意識して使わずに済むわけです。Amazonが米国などで提供している「Dash Button」はわかりやすい例でしょう。Dash Buttonは、トイレタリー品や洗剤などをワンボタンで補充注文できるIoT機器です。トイレットペーパーや洗剤が切れたら、ボタンを押すだけで注文ができるんです。そのとき、ユーザーはWi-Fiだったりパスワードだったり、インターネットだったりというITを意識することはありません。そのようなアフターIoTの世界に比べると、まだ今の世の中は不便です。それだけに、一般消費者にとって“難しいIT”を意識しなくて済むようになれば、便利な社会に近づくでしょう。

IoTは「大変化」ではなくて、今の延長線上に

要するに、IoTとは人間がITを意識しなくなるきっかけになるのではないかと思うのです。テクノロジーが発展することで、モノがわかりやすい機能を持ち、人がITから離れることができる、それがIoTの効用です。クラウドが登場したとき、「大変化」と言われました。IoTはどうかというと、そこまでの大変化ではないと思います。もっと普通の流れで、モノがインターネットにつながって、今よりも便利になるという感覚です。今、ITと言って使っている言葉が、ITを意識しなくなった世界ではIoTに置き換わってしまうかもしれません。

ITで生活を便利にするには、今はWi-Fiパスワードを設定できるスキルが必要です。一方、IoTは「モノ」の格好をしていますが、勝手にインターネットにつながって、楽に生活に便利をもたらす「モノ」です。利用する人がしたいことが簡単にできること、それがモノのインターネットの存在意義でしょう。エスキュービズム・テクノロジーでは、IoTの製品やサービスを提供するとき、「ユーザブルIoT」をコンセプトにしています。使う人が、簡単に便利になる必要があるとの考え方からです。

ここにイスがあったとき、イスの座り方がわからない人はいません。ホワイトボードがあったときに、ホワイトボードの使い方がわからない人もいないでしょう。例えばホワイトボードに書き込んだら、センサーが文字やイメージを読み取って自動的に情報がクラウドに蓄積されるとしたら、ホワイトボードを使う人は何も迷うことはありません。このように、いま本当に存在しているモノを、テクノロジーを使ってIoTの商品にしていくことが重要なのだと考えています。

エスキュービズム・テクノロジーでは、宅配ボックスを商品として提供しています。宅配ボックスならば、利用者はその意味はわかりますよね。それを「スマート宅配BOX」というIoTソリューションとして提供しています。インターネットにつながった宅配ボックスです。宅配ボックスに荷物が入ったら、それをインターネット経由で持ち主に連絡することができます。IoTになっても、宅配ボックスの意味は変わらず、さらに便利になるわけです。

例えばコンビニエンスストアにスマート宅配BOXが設置されれば、配達完了通知を受けた仕事帰りに、簡単に荷物をピックアップできます。一戸建てで宅配ボックスを設置できない環境でも、不在配達のストレスから解放されますよね。さらに、物流業者は不在による繰り返しの配達を減らすことができます。物流の問題は国の問題でもあり、労働力の観点からも、エネルギー消費の観点からも、有効な解決策になると考えています。

みんなが便利を享受できるIoTに

エスキュービズム・テクノロジー 代表取締役社長 武下真典氏

スマート宅配ボックスだけでなく、駐車場の混雑情報がわかるIoTソリューションも提供しています。「eCoPA」(エコパ)というサービスで、駐車場内に専用のポールのような装置を設置するだけです。このポールにはカメラやセンサーが付いていて駐車場の状況を解析してデータとして活用できるのです。そのため、フラップ板や精算機を使わず駐車サービスを提供できますし、満空情報をインターネット経由でリアルタイムに提供することも可能です。

例えば飲食店の駐車場で満空情報をインターネットに提供できれば、わざわざ来店してみてから「満車」で食事ができないという不便を解消できます。店舗側でも、混雑している時間帯に待ち行列が長くなることを防ぎ、来店時間の分散化が可能になるでしょう。ショッピングセンターなどの広大な駐車場ならば、自分のクルマの駐車位置を知らせるサービスも提供できます。ポールを設置するだけで、多様なサービスが提供できるのです。

パソコンが普及し、スマートフォンが登場し、ITを活用した便利なサービスや商品は多く登場しました。しかし、現在までのITによる利便性の向上は、ITに強い人が享受できるものでした。これからのIoTの世界では、ITを意識しなくても便利さを体感できるようになると考えています。モノが勝手に便利になるというイメージです。

エスキュービズム・テクノロジーでは、今後提供を予定しているIoT製品として、「お代わりコースター」という注文システムを企画しています。居酒屋などでお酒を飲んでいると、お代わりを注文したいときに店員が近くにいなくてイライラすることがありますよね。ITに強い人は、そこでボタンで店員を呼ぶシステムや、タッチパネルで注文できるシステムを考えるわけです。でも、ボタンは店員を呼べるだけで注文はそれからになりますし、タッチパネルはメニューの階層を辿って目的の「ハイボール」などを探す手間がかかります。

お代わりコースターは、とてもシンプルです。同じ飲み物をお代わりしたくなったら、コースターにジョッキやグラスを乗せるだけです。もう少しで飲み終わるというタイミングでお代わりコースターにジョッキやグラスを乗せると、「お代わり」の注文データが飛びます。飲み終わるころには、お代わりが届くわけです。目的がシンプルに達成できますから、「IT音痴」といった言葉とは無縁で利便性を提供できます。それこそがIoTの目指す世界なのだと考えています。

後編に続く

構成:岩元直久

WirelessWire Weekly

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