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急拡大するスマホに追いつかないセキュアな取引に向け、対策を始めたタイ政府

2016.05.27

Updated by Hitoshi Sato on May 27, 2016, 06:30 am JST

ジェムアルトは2016年5月17日、タイ情報通信技術省の傘下でタイにおけるセキュアなオンラインサービスの開発を目的とする電子商取引開発庁(ETDA)に「LinqUs Mobile ID ソリューション」を提供することを発表した。

このソリューションにより、モバイルユーザーは外出先でどんなオンライン取引も安全に行えるようになる。ユーザーはスマホや携帯電話に PIN コードを入力するだけで、インターネットバンキングへのアクセス、支払いの確認、またオンラインでローンの申し込みや口座情報の更新など機密情報を処理する際の電子署名などが可能になる。

本ソリューションの開発完了後にタイ全土でサービスが開始され、8,600 万以上の利用者へセキュアなサービスの提供が可能となり、タイのデジタルエコノミー基本計画の推進の一助となる予定。

急拡大するスマホに追いつかないセキュアな取引

特にバンコクでは、ほとんどの人がスマホを利用しており、タイ全土では4,000 万人を超えるモバイルネットユーザーがいる。そしてオンライン取引の 60%近くがモバイル端末上で行われている。人々はあらゆるところでスマホを利用している。メッセージやSNSだけでなく、ショッピングにも多く利用されている。さらに東南アジア諸国の中ではPCの利用も増加している。大学や企業だけでなく、家庭でもPCを利用している人も多い。

一方で、タイは世界で最もオンラインバンキングや POSマルウェア感染を狙った攻撃の標的となりやすい国の 1 つだそうだ。この背景には海賊版のOSやソフトウェアが多いことや国民のセキュリティ意識など様々な要因がある。POS端末を狙ったサイバー攻撃が非常に多く、世界でタイが7番目だそうだ(日本は5番目だから日本の方がタイよりも標的にされている)。

今回、ジェムアルトのソリューションを活用することで、タイ政府は「シンプル、モビリティ、セキュア」な環境で、オンラインバンキング、e コマース、電子政府、企業サインオン、モバイル決済など多様なサービスを実現し、タイのデジタル化を促進することを目指している。対策を怠り、タイがマルウェアが多くて狙われやすい「セキュリティに甘い国」になってしまうと、海外企業もタイ進出を躊躇しかねない。「セキュリティの確保」はそれ自体では生産性と収益は上がらないかもしれないが、危機管理において非常に重要である。

ETDA 長官で最高経営責任者(CEO)のMs.Surangkana Wayuparb氏 は以下のように述べている。「ETDA は、タイ国内で電子取引の取扱件数と取扱額の両方を増やしつつ、セキュリティにも細心の注意を払うよう、情報通信技術省から委託を受けました。このため、ETDA はジェムアルトと共同で電子認証分野に取り組んできました。ジェムアルトの多目的ソリューションでは、PKI に基づく強力な認証と法的拘束力のある署名がユーザーの携帯電話から直接提供され、全ての人々にとって強固なセキュリティフレームワークと利便性が実現します。全てのネットワークおよび携帯電話機種への多大なるサポートのおかげで、携帯電話を所有する市民はどこからでもオンラインサービスにアクセスできます。これにより、大規模採用が容易になり、デ ジタルエコノミーの成長を加速させられます。」

▼タイ人はあらゆるところでスマホをしている(バンコクのBTS駅にて)
20160527-sato-1

【参照情報】
Thailand deploys Gemalto’s mobile ID strong authentication and signing solution nationwide
Hackers target Thai online banking

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佐藤 仁(さとう・ひとし)

2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。