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IoTテーマにみるこれからのITビジネスの新しい姿

2016.08.30

Updated by Satoshi Watanabe on August 30, 2016, 21:10 pm JST

書店店頭は、世の中の情報ニーズを写し取った鏡のようなものであるが、この夏休みでIoT関連資料が案の定増えてきている。昨年から、現場の動きが本格化しているのを各所で感じ取れるようになり、ビジネスとして立ち上がってきている流れが表立ってきたところから、半年強のタイミングなため、確かにちょうど入門書から指南書が揃うタイミングである。大手のビジネス書に強い出版社から技術書に強い出版社まで、綺麗にタイミングが揃ったのは、IoTテーマへの注目の高さと今が旬である、との各社の見立てが揃ったことの証左であろう。

◇ IoTビジネスはこれまでのITビジネスと違う?

各書をざっと眺めたところ、IoTテーマに関しては改めて二つ特徴があるのを読み取れる。

1)適用分野が非常に広い。関係のない分野はないのでは?というくらい多くの産業分野が取り上げられている。
2)ビジネス開発、事業開発に関しての記述が、IT関連テーマでは他に見たことないくらい多く割かれている。少なからずの資料が半ば新規事業開発プロセス本と化している。

1)については、ものすごく簡単に括れば、「何がしかセンサーやデータがあれば新しいことが出来るかもしれない」、というのがIoTテーマの基本的な考え方なため、必然的に広範になる。先日発表されたネスレのIoTコーヒーマシーンのような身の回りのちょっとしたものから重厚長大の社会インフラまで、ICTの関わる多くの分野でIoT的議論は可能である。本件には特に疑問も何もない。

2)はこれまで見られなかったIoTテーマの特徴が良く表れている要件である。
例えば、WirelessWire News内の記事であれば、NTTPCコミュニケーションズ代表取締役社の長前沢孝夫氏へのインタビューがこの雰囲気を上手く示している。

考えてみればわかることですが、私たちが欲しいのはインターネットにつながる「IoTデバイス」ではなく、そこから生まれる効用や効果でしょう。違う言い方をすると、シナリオやストーリーが必要なのです。しかし日本でIoTというと、多くの場合はIoTデバイスそのものに夢中になってしまう傾向があります。実はその先にあるシナリオやストーリーを考えなければならないのに、です。

ITビジネスは、ソリューションが大事、これからはサービスだとの議論はあったものの、とはいえ技術力と技術提案をコアの付加価値とした取引が大きなウェイトを占めてきていた。

主だった業務系ソフトやシステム環境の構築整備については、この先も技術提案の重要性が急になくなったりすることはないだろう。しかし、IoTに関しては、技術力=提案力=付加価値、との見方がかなり崩れている。「ウチのエンジニアは優秀やから」と言ってるだけでは商売にならないよ、というのが共通メッセージとして読み取れる。

例えば、キーワードをざっと拾ってみても、共創、デザイン思考、カスタマージャーニー、ユーザードリブン、といった言葉が並ぶ。ITにはコンサルティング力も必要、との議論が多く交わされた2000年代には出てくることのなかったキーワードで、ここ数年、特にスマートフォンが普及してインターネットサービスの利用もPCからスマートフォン経由が増えてから(合わせてブラウザ経由ではなくアプリ軽油も増えてから)の流れであると認識している。

「お客さまの業務をどう(効率良く)IT化しますか?」ではなく、「お客さまのビジネスをどう改善しますか?」が、お題目ではなく文字通り問われているのである。

◇ IoTテーマにおけるビジネス提案とは?

お客さまのビジネスの改善と言うが、いわゆるハードソフトの活用提案、ビジネス付加価値の提案と何が違うのかと問いが浮かぶところであろう。むろん、センサーやデバイスを利用し、クラウドにデータを集めさらには分析にはAI技術も援用して、といった風に扱われる技術要素も多岐に渡っておりそれはそれで難所である。

しかし、IoTテーマの肝は何かと問われると、データ利用に付加価値の源泉を強く求めているところとなる。つまり、ここ数年盛り上がっていたビッグデータやクラウド、データサイエンスといった議論の延長戦でもある。

IoTテーマが注目されているのは、これまで取れなかったデータがセンサーや小さなデバイスの普及で広範に大量に取れるようになったこと、またモバイルも含めたネットワーク環境の整備が十分に進んだことも合わせて、これらのデータを特定組織内の閉じた系ではなく、サプライチェーン全体や、お客さんとのやり取りに生かしていくことが出来るようになってきたことが背景にある。

ビジネス検討に際して問われる設題をざっとリストしてみると例えば以下のようになる。

・データを使ってお客さまの製品/サービス品質を良く出来るか。
・データを使ってお客さまのビジネスのやり方を新しく組みなおすことが出来るか。
・上記設題を推進するに必要とされるデータ(or指標)は何か。どうやって効率よく取得すればいいか。
・データを使ってお客さまの関わるビジネスのサプライチェーン全体を良くするにはどうしたらよいか。
・お客さまのビジネス及びサプライチェーン全体を良くするにはどのようなデータを取得し、且つ関係者で扱えるようにすればいいか。

なお、同種の設題を産業全体や経済全体に広げて実現しようとすると、ドイツのインダストリー4.0が事例となる。

こういったことを進めるにはどういう人材課題があるのかについての調査がIPAの「IT人材白書2016」でも実施されているが、人材要件として「ビジネスアイデア構想力」との項目が技術力と並んで重要なスキルセットとして挙げられている。お客さまのビジネス理解、業務理解が必要とば前から良く言われていたが、一歩踏み込んで”構想力”である。

とはいえ、やるべきことが理屈としては分かっても実際に組織を作り進めていくのは簡単ではない。どこかにIoTビジネス立ち上げスーパーマン在庫が整っており「ではあとは宜しく」と言えば済むようになっていれば世の中平和であるが、むろんそんな人材がほいほいいる訳ではない。

IoTテーマは、お客さまのビジネスや、ひいては世の中を大きく変えていく可能性を秘めた面白いテーマであるが、同時に、テクノロジーベンダーやサービス事業者にも変化への対応を強く迫るビジネステーマであると言えよう。各所困っている様子はユニアデックスの山平哲也氏へのインタビュー記事にも顕れている。

ラボに来ていただくことを想定しているお客様は、「IoTで何かやらないといけない、でもどうしていいかわからない」で悩んでいる方。社長や役員から「うちもIoTで何かやりたいから考えなさい」と言われた、でも情報システム部に頼ろうとしても相談に乗ってもらえない、困った、という人が結構いるんですね。「いろいろな話を聞いてもさっぱり分からない、デモが見れたらイメージが湧くんだけど」という方に、ラボでデモを見せて、考えていただくきっかけを作る、というのがまずあります。

なんとなくIoTプロダクト、ソリューションを作って試しに売ってみたけど、との段階から次に進める検討プロセスとチーム体制を如何に作るのか。これが各社共通した課題になっている。

逆説的に表現するのなら、ITのことに詳しくてもITのことしか考えられないようだと、良いIoTビジネスの立ち上げは難しく。お客さまのお客さま、B2B2BやB2B2Cといった構図を後ろの2Bや2Cのところまで具体的に肌感覚まで理解できるようなチームであることが要される。

このようなビジネス開発の常識の変化は一時的なものなのか、今後広がっていくのか。所有から利用へ(一部は共用へ)の流れ、サービスとUX・使い勝手が重視される流れが大きなトレンドとなっていることを踏まえると、緩やかに広がっていくと予想するのが主シナリオと考えてよい。となれば、ここ5年ほどのうちに仕事の進め方、ビジネスの立ち上げ検討のやり方を上手く時代の変化に合わせられるかどうかでテクノロジー関連企業があるいはテクノロジーを利用してのサービスの差別化が可能なユーザー企業が、伸びるか行き詰るかを分けていくことになるのかもしれない。

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渡辺 聡(わたなべ・さとし)

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任助教。神戸大学法学部(行政学・法社会学専攻)卒。NECソフトを経てインターネットビジネスの世界へ。独立後、個人事務所を設立を経て、08年にクロサカタツヤ氏と共同で株式会社企(くわだて)を設立。大手事業会社からインターネット企業までの事業戦略、経営の立て直し、テクノロジー課題の解決、マーケティング全般の見直しなど幅広くコンサルティングサービスを提供している。主な著書・監修に『マーケティング2.0』『アルファブロガー』(ともに翔泳社)など多数。