コロナ禍で高まるAI活用への期待感、「AI実践道場」ステップアップコースの経験を糧に
2021.02.25
Updated by SAGOJO on February 25, 2021, 16:23 pm JST Sponsored by 石川県AI実践道場
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中小企業向けのAI活用講座「AI実践道場」。石川県、金沢工業大学(KIT)、日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM)、株式会社イーネットソリューションズ、株式会社金沢総合研究所が産学官連携で行っているこの講座は、AIテクノロジーの導入により、データ分析をビジネスに活用する方法を身に付けてもらうことを目的に2018年に開講された。
創生する未来では、この「AI実践道場」の取り組みについての連載を開始。第1回では石川県庁の担当者・清塚大輔氏より、本プロジェクト発足の経緯から産学官連携の取り組みに寄せる期待を聞き、第2回では、IBM Watson Explorer(WEX)を用いた自然言語処理の実習が組み込まれた「集合研修」の内容を詳しく紹介した。
今回から2回に渡って、実際の自社データを用いたデータ解析、並びにAIを作り上げる「ステップアップコース」受講企業のインタビューをお送りする。本稿に登場いただくのは、歯科関連を始めとした医療機材通販で国内トップシェアの株式会社歯愛メディカルだ。同社のシステム部システム課次長の山田卓生氏と、商品部WEB課主任の今井雅俊氏に、AI実践道場参加の経緯から、自社データ分析の手応え、医療機関支援企業としてコロナ禍に対応する中で、AIへの期待値が変化した話まで詳しく伺った。
歯愛メディカルは、歯科関連製品を扱う商社として2000年に石川県白山市に設立された。商品開発、企画から製造、販売までを一貫して手掛け、全国の歯科医院のうち95%以上、約6万軒の歯科医院に納品している。現在では、動物病院向け、介護&福祉施設向けの必需品・消耗品通販を始めている。また、アポイントシステムやホームページ制作の提供など、医療現場のトータルサポート企業としてビジネスの幅を広げている。
「社長から『AIを利用して何かできないか』と言われて、社内メンバーで『こんなことができるんじゃないか』とアイデアを出し合っている時期に、ちょうど石川県庁の方と金沢工業大学さんから『AI実践道場』のことをご紹介いただきました。これは絶好のタイミングだと感じ、参加させていただくことにしました」
こう語ってくれたのは、集合研修から「AI実践道場」に参加した今井氏。大学で情報系の学部で学び、前職はシステムエンジニアだった。現職では、ウェブサイトの制作・運営を担当しており、開発からは遠ざかっていた。今、実際に利用されているAIというものがどういうものなのか、当時は全く分からない状態だったという。
この集合研修には、他にもカスタマーセンター部署とシステム部から参加意向があり、3名で参加することになった(集合研修の内容については、本連載第2回にて詳述)。IBM Watson Explorerを利用した自然言語処理の実習を受けながら、社内でシステム部門も交えて「弊社のデータを利用したら、AIで何ができるのか」と検討を重ねていったという。
AI実践道場の提供する「ステップアップコース」は、実際に参加企業が自社データを用いてデータを解析し、AIシステムを作り上げるのが特徴だ。しかし、この「利用するデータを揃える」ことそのものが、企業にとっては非常にハードルが高い。「AI実践道場」では、そのような悩みが生じた時に伴走してくれるコンサルテーション・パートナーが配されている。
それが、石川県でデータセンターを基盤としたトータルソリューション・サービスを担う、株式会社イーネットソリューションズだ。担当の同社プロダクトサービス部 第2G 松井千里氏は、集合研修では講師サポートを担い、ステップアップコースではKITスタッフと共に参加地元企業に何度も出向き、個別に企業の取り組みを支援した。
「企業様によって、保有されているデータの種類は違います。製造業は機械から出力される数値データが豊富というケースが多い。小売りやサービス業ですと、お客様からの問い合わせ履歴などの文章データが残っているケースが多いです。このように企業ごとの傾向を見てどのようなデータが利用できるのか、また、どのような手法が分析に適切なのかをアドバイスさせていただきました」と松井氏は語る。
歯愛メディカルの場合も、いざAI導入のアイデアを出し始めてみると「どのデータが解析に使えるのか」を選定することそのものが、至難の業だった。システム課次長の山田氏は、当時の試行錯誤をこう振り返る。
「初めは、ECサイトへのお客様からの問い合わせを分析してチャットボットにしてはどうかと考えたり、SNSデータを利用し歯科医院のマーケティングに利用できないかと検討しましたが、データ的にノイズや偏りが多く、断念。最終的に、データが揃っているのは『社内スタッフからシステム部門への問い合わせ文』であることがわかりました」
歯愛メディカルでは、従業員がシステム運用保守グループに問い合わせをする際、Webブラウザからの問い合わせフォームを窓口として用意している。そのため、「プリンターが壊れて動かない」「使っている社内システムが動かない」等、テキストデータの蓄積があった。これを解析し、社内問い合わせのレスポンス改善に役立てることにした今井氏は、まずこれらのデータをWatson Explorerで解析した。
「問い合わせが来る時は、ひとつの困り事に対して、いろいろな質問の仕方がされます。Watson Explorerの自然語解析にデータを入れると、同じような質問を分類してくれます。そこで、『こういう質問が多いんだね』ということは分かったので、まずはこれをマニュアル化し、その後、このような質問をされた時に自動で応答できるようなチャットボットを作ろうと試みました」
今井氏が最初に悩んだのは、どんな学習データを揃えれば、実際に問われる様々な質問のパターンに対応できるのか、ということだった。こうした悩みも、Watson Explorerに通じているイーネットソリューションズ松井氏から、適切なサポートが受けられた。
「この時は、Watsonに既に蓄積されている膨大な問い合わせパターンを利用することを教えていただきました。充実したサポートの元、一つひとつの問題に具体的な解決方法を見つけることができたので、完成に向けて取り組み続けることができました」と今井氏は語る。
2019年11月頃に着手したチャットボットシステムだが、デモ版をシステム課内でリリースした後、先へ進めることができなかった。理由は、COVID-19の流行だ。医療・介護業界への支援企業として切迫した日々を送る中で、発注された商品を発送するためのピッキング作業を、システム課のメンバー達までもが毎日行わなければならないほど発注が激増した。発注受付のコールセンターはパンク寸前であったという。
「弊社での注文受付は、電話、FAX、そして通販サイトの『Ciモール』と、三つの窓口がありました。コロナ前までは電話とFAXでのやりとりがほとんどで、Webサイト経由での注文は僅かしかありませんでした。ところがこのコロナ過でWebサイト経由の注文が急増したんです」と今井氏。山田氏も「ここ10年以上、Webサイト利用は毎年微増傾向だったところ、3カ月で一気に変わりました」と、両氏ともその劇的な変化に驚いていた。
「Ciモール」では、刻々と変わっていく在庫状況をほぼリアルタイムで反映させた。またTOPページでは、特に要望の多い商品について「マスクの在庫がございます」「消毒液の在庫がございます」「欠品中」等、入荷や欠品についてバナーを配置し、分かりやすいアナウンスを心がけた。その結果、「Webサイトには正確な情報が載っている」という信頼感が定着し、在庫状況が落ち着いてもWebサイト利用の割合は落ちずに推移しているという。
Web運営担当者である今井氏は、「CiモールのWeb担当としては嬉しい悲鳴ではありましたが、サイト運営の目標が全く変わってきてしまったことは確かです」と複雑な表情で語ってくれた。もし、また、コールセンターが受け切れない発注が発生した時、どうするのか。システム運用者として検討することが求められた。
今井氏は「実はこの課題を解決する案のひとつとして、AIを利用する案が浮上してきたんです。社内でスモールスタートしようとしていたAIですが、やっぱりもう一度、外向けに、お客様からの問い合わせに答えられるようなものにできたら良いね、という話が出てきました」と明かす。現在、忙しい日々の合間を縫うかたちで、ステップアップコースの取り組みを支えたイーネットソリューションズに課題共有と相談を始めているという。
今井氏は「歯科業界、医療業界も、刻々と情勢が変わっています。歯愛メディカルとしては、どんどん事業領域を広げていくことで、弊社や直接のお客さまだけでなく、お取引のある業者さんや業界全体に喜んでいただけるような状態を作っていきたい。そのために、今回のAI活用のような試みにも恐れずに挑戦していきたい。お客様のためであれば、ありとあらゆることを行っていきたいと思っています」とこれからの展望について熱く語った。
今回は「AI実践道場」ステップアップコース参加企業である、歯愛メディカルの取り組みについて詳しく紹介した。次回も引き続き、ステップアップコース受講企業の講座参加へのモチベーションや課題認識、取り組んだ内容や受講後の意識変化などについて紹介する。
(取材・文:かのうよしこ 編集:杉田研人 企画:SAGOJO)
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