実証事業から事業化へ、ドローンとIoTの先に未来をみよ~仙北インパクトチャレンジから
2018.04.06
Updated by 創生する未来 on April 6, 2018, 08:00 am JST
2018.04.06
Updated by 創生する未来 on April 6, 2018, 08:00 am JST
先ごろ開催された、事業創造をテーマとした見本市、および商談・交流イベント「仙北インパクトチャレンジ」では、経済産業省の肝入りで推進中の「地方版IoT推進ラボ」から、東北地方で活動する各団体のいくつかの取組みが紹介された。今回はそこから地域の未来を垣間見てみよう。
▼あきた芸術村にて開催された「仙北インパクトチャレンジ」。プレゼン大会の参加者のみなさん。
宮城県IoT推進ラボからは、“宮城県の課題をIoTで解決する”いや“宮城県の宝をIoTでプロデュースしよう”としている東北大学の鈴木高宏氏が登壇した。
▼東北大学教授 未来科学技術共同研究センター(NICHe)センター長補佐 鈴木高宏氏
同氏は「ユーザーニーズに応えるためには、各所で連携体制をつくることが重要」という。「単発の打ち上げ花火ではなく、必ず持続性のあるものにする必要がある」と述べ、横つながりで協力する東北次世代移動体システム技術実証コンソーシアムについて紹介した。
このコンソーシアムでは、法制度、自動走行実装、飛行ロボット実証、電池技術応用などのワーキンググループ(WG)が、複数のプロジェクトを走らせている。
飛行ロボット実証では、球殻ドローンが橋梁を点検している。点検車両のアームが届かないような橋梁の現場作業で、足場をつくるコストや点検作業の期間を削減し、交通規制を最小限に留めることを目的に開発しているところだ。
電池技術応用では、安全かつ信頼性に優れ、中小企業でも量産化が可能なLiイオン電池の開発を手掛けている。IoTとエネルギーの観点から、電池監視をプラットフォーム化し、企業や医療機関などの負担を減らし、超高齢化社会に対応する新しい支援の形を模索している。たとえば、医療機関のライフラインや、電子カルテの閲覧、調剤のためのエネルギー源を確保しようとしているもの。
コンソーシアムが、いま最も注力しているのが、自動走行実装の分野だ。自動運転技術のみならず、新しい移動手段によって具体的にどんな交通サービスが生まれるのかを考えることに主眼が置かれている。
「たとえば、家の近くに無人バスが来ると、自宅のテレビに情報が表示される。これならばバス停で待たされることもない。自動運転は、高速化よりも、乗換時のロスタイムを短縮できることのほうでアドバンテージを示せる。移動手段の交通を連携させるためにIoTでつながり、コントロールする仕組みが求められる」(鈴木氏)
▼近未来IoT地域交通サービスの実例。IoT巡回オンデマンドバスでは、近くにバスが来ると、自宅のテレビに情報が表示される。
自動運転の要素技術のひとつである「SLAM」(Simultaneous Localization And Mapping)は、各種センサーで自己位置推定と環境地図を作成するものだが、たとえば、積雪時と通常時のデータの差分から、どこに雪がどのくらい積もっているのかも把握できる。自動運転が日常的なれば、除雪作業の最適化にも利用できるという。自動走行中のドライバーのバイタルデータをモニタリングすることで、健康診断に役立つソリューションも開発中だ。
コンソーシアムでは、既存建機にロボットを載せて無人化するトライアルも実施している。情報化施工技術(i-construction)として、メーカーが無人建機を提供しているが、これは人が乗ることによるコスト高という課題を解決する狙いがある。ドローンで3次元マップをつくり、自動で経路計画を立て、移動させる。
▼ダンプトラックにロボットを載せて、簡易的に無人化と自律走行を行う実験。ハンドルやペダル操作の機構を開発。
鈴木氏は以下のようにまとめた。「重要な点は、IoTの力で多様なデータが取得できること。これにより新しいサービスやビジネスを生み出せると考えれば、180度違った視点になる。エネルギー、移動、医療など、首都圏とは異なる切り口で、課題解決に取り組めると思う」。
続いて、せんだいIoT推進ラボから、東北大の高橋真悟氏が同団体の取り組みを紹介した。仙台市が中心となっている活動だが、他の自治体との連携も考えていることから、あえて名称を平仮名の“せんだい”にしている。
▼東北大学 情報知能システム研究センター 特任准教授 高橋真悟氏
仙台市は、第三次産業が多いが、最近では、クラウド・ビッグデータに強みを持つIT系や、集積が進む自動車関連産業が盛んになり、近未来実証特区にも指定されている。
せんだいIoT推進ラボには「東北IT推進コンソーシアム」「マシンインテリジェンス研究会」「ドローンテックラボ仙台」という3団体がある。それらを横串に、ハブとして機能するのが仙台市と東北大学IIS研究センターだ。
東北IT推進コンソーシアムは、震災復興のために、競合のIT企業が集まった組織だ。デイケア向けの送迎支援システムや、津波被害を受けた水産加工業者(ふかひれ加工場)の課題をベースに地場食品加工業者が簡単に使えるアプリケーションの開発などを行ってきた。
一方、マシンインテリジェンス研究会は、東北大学をベースに画像処理に強みを持つ企業が集まった組織だ。こちらではタラの雌雄を判定する装置や、ホタテのウロを除去する装置など、水産加工関連のユニークな機械を開発している。
▼ラインに流れるホタテのウロを除去する装置。画像処理技術により、ウロ(黒い部分)を判定し、ロボットハンドで正確に取る。
「農業も水産業も、そもそもこの仕事に従事する人がいないというのが問題だ。AIに仕事を奪われる云々よりも、この仕事が世に残り継続されることのほうが心配。そこで、こういった機械を開発して、役に立ちたいと考えている」(高橋氏)。
ドローンテックラボ仙台は、ドローン技術の課題解決やサービス事業化に向けて設立した組織だ。こちらでは、ドローンを活用した医薬品の配送などの実証実験を進めたり、練習場の開設や競技大会なども運営している。
また、これら3団体のハブとなる東北大学IIS研究センターでは、画像処理技術を用いて、判定が難しい鏡面体の凹凸や傷を検査するロボットや、魚や食肉に残った骨を調べる装置を実用化。ほかにも桃の糖度を判断するカメラや、動くものをトラッキングして映像を投影できるプロジェクションマッピング装置なども開発している。
▼東北大学IIS研究センターで開発・実用化した装置。鏡面体凹凸検査ロボットや、食肉残骨検査装置などのユニークな装置が多い。
高橋氏は「我々は地域に貢献するために活動している。何か現場の悩み事あれば、ぜひ知らせてほしい」と支援の姿勢をみせた。
仙北市IoT推進ラボからは、合同会社ツクルの三宅創太氏が、最北端の国家戦略特区・近未来技術実証特区である仙北市の取り組みについて紹介した。同ラボでは、IoT、ドローン、ロボティクス、AI、ビッグデータなどの近未来技術から、インパクトの高い事業に優先順位を置いて活動中だ。
▼合同会社ツクル 代表 三宅創太氏
2016年に仙北市の事業創造計画「SEMBOKU FLIGHT PLAN」を策定。5年間に30超の新事業を選定し、実現に向けて動いているところだ。さらに仙北市における社会を変えるプロジェクト「FoSTAR計画」(Field of Semboku Technology ,AI and Robotics)の準備も進めている。
三宅氏は「FoSTAR計画は、とにかく先端技術を実装してみようという試み。開発して完成したものを実装するのでなく、開発しながら実装していくグーグルのβ版のようなイメージだ。1社で機械やアプリを開発するよりも、多くの人が日常的に開発したほうがボリュームも効果もある」と説明し、具体的なイメージとして、写真撮影をしたいときにすぐにドローンが飛んできて、その人をカメラで撮ってくれるデモを示した。
▼ドローン撮影のデモ。田沢モータースが取り扱うドローンを利用して、参加者の写真を撮影した。
今回のイベントでトリを取ったのは秋田横連携IoT推進ラボだ。同団体は、市町村すべての規模で有効性・親和性がある「横連携」と「継続可能な地域作り」を目指し、昨年12月に発足したばかりだ。
同ラボ事務局の大宮忠和氏は、「キーワードとして、シェアリングエコノミーとIoTを組み合わせ、地域課題の解決と産業振興を担っていく。横連携のメンバーとして、横手市、大仙市、東成瀬村や、民間から秋田県情報産業協会、NPO法人のYokotterなど、21会員が参加している。いま何ができるのか、そのアイデアを募集中だ」と説明した。
▼秋田横連携IoT推進ラボ(シェアリングエコノミーCTV)事務局 事務局長 大宮忠和氏
▼秋田横連携IoT推進ラボの体制。横手市、大仙市、東成瀬村、秋田県情報産業協会、NPO法人のYokotterなど21会員が参加。
たとえば、シルバー人材センターに依頼のあった仕事をシェアリングすることも考えている。骨伝導ヘッドフォンを使いながら、インバウンド対策のためにIoT技術を提供しながら地域人材を育てたり、地域の子供を教育する一般メンターを育成する事業も進めていくという。
仙北インパクトチャレンジの併設イベントとして「仙北インターナショナルドローンフィルムフェスティバル」も、あきた芸術村のわらび劇場で同日開催された。これは、ドローンで撮影した魅力的な地域の映像を競い合う初開催のフェスティバルだ。
▼併設イベントとして「仙北インターナショナルドローンフィルムフェスティバル」。表彰式の模様。
国内のみならず、台湾、香港、インドなどからも応募があり、総計99作品からノミネートされた20超の作品が上映された。
内容の詳細については割愛するが、自然の美しさに目を見張るような作品ばかりで、ドローンの新たな可能性がよくわかるイベントであった。興味のある方はこちらをご覧いただきたい。
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