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AfterポケモンGOの世界はARな日常を切り開くか

2016.08.19

Updated by Satoshi Watanabe on August 19, 2016, 14:42 pm UTC

国内配信開始前から連日ニュースで取り上げられるという、ここしばらく見たことがないようなお祭り騒ぎを経て、ポケモンGOの日本市場リリースそろそろ一カ月が過ぎようとしている。

いくらなんでもこの勢いがずっと続くことはないだろうし、遠からず結構な割合のユーザーは飽きてしまうのでは?との声も少なからず出ていたが、一時のブームで消えてなくなる、ということはどうもなさそうである。当然離脱は発生しているものの、スマートフォンのアプリとしては高い継続率を維持している。

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すでに予告されている交換機能の追加や、初期のプロモーションムービーでも表現されていたレアポケモンの出現など今後出てくる機能強化を踏まえると、しばらくこの勢いは止まりそうにない。

ゲームをプレイするユーザーが町や公園にあふれかえり、との記事やニュース映像はこの一カ月で山のように見た。また、実際に外に出ると街中のちょっとしたコンビニ前、近所の散歩道、通勤途中など、ボールを投げたりジムに挑戦しているトレーナーの姿を見かける。

こうして、世界はいわば「AfterポケモンGOの世界」とでも呼べる時代に入ったことになる。

◇ AfterポケモンGOの世界とは

ポケモンGOは私たちに何をもたらしたのか。

端的には、以下二つにまとめられる。両者は絡み合いつつも新しいエコノミーを形成する端緒になりうる。

1)現実世界にデジタル技術を用いて新しい意味合いを付加した、いわゆるARサービスの初の大規模成功ケースとなった
2)サービス(ゲーム)の利用が、単純な集客送客でない形で、ダイナミックに人を動かし得るモデルが大規模に示された

開発元であるナイアンティック社創業者のジョン・ハンケ氏が度々口にしているように、前身となるゲーム「Ingress」ともども、外に出ないとほぼ何も出来ないゲームである。スマホを手にこれまで行かなかったところに行き、目を向けていなかったものに気づき、仲間のトレーナー(あるいはIngressの場合はエージェント)とやり取りしながらゲームプレイを進める。

この一カ月で、近所の橋や神社、川や公園にきっと詳しくなったことだろう。ビジネス面を意識すると、マクドナルド店舗の場所にも詳しくなったことだろう。駅に行くルートがこれまでと変わり、ピカチュウが出ると聞いて新宿御苑に人があふれ、ミニリュウが出ると聞いて世田谷公園に人が集い、ギャラドス獲得を目指して目黒川を何度も往復する。

さすがに毎日、とはいかなくても出歩くこと散歩することが新しい習慣となり、街角でボールを投げジムで戦うトレーナーの姿を見ると仲間を見つけたような気分になる。街の風景が変わって見える。これが、私たちの得た新しい生活習慣である。

ゲームプレイと出歩くことはほぼ同義である。ゲームの基本動作、つまり、あちこり出歩いてモンスターを集め育て、ジムに集ってバトルをするプロセスを、実際に歩くことで体験するのは、まさに自分がゲームの主人公になったような気分を味わえる。画面の向こうのキャラクターを動かしているのではなく、自らがゲーム世界に入り込んだような、しかもそのゲーム世界がどこか架空のどこかではなく、見慣れていたはずの町の風景であるというのは実に不思議な感覚である。

「どうせみんなすぐ飽きるよ」との声は、画面構成とゲームシステムだけ見ると非常にシンプルな作りのゲームなために出てきた感想であろう。しかし、実際にプレイしてみると、体を使って楽しむという小さな画面の中には完結しない体験を得られる。ゲーム空間と現実空間が入り混じって自分のなかに入ってくるのは、言葉には表しにくいが実に新鮮な感覚である。

細かい理屈は抜きにして、この新しい感覚と楽しさをたくさんの人が体験したのは、AR/VR系のサービスの普及に大きな下支えになるものと考えられる。

周辺サービスにもいい影響を与えるはず、スマートフォンを常時見て歩くのは危ないので眼鏡型のデバイスにも改めて陽があたるのでは、と関係者と議論をしていたところ、当のナイアンティック社がARコンタクトレンズを開発している、との話が飛び込んできた。

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ポケモンのためにわざわざコンタクトレンズを買うか、と問われるとここは意見が分かれるところであろう。しかし、他のゲームタイトルにも対応し、生活支援サービスとも連携していく進化を遂げるとするのなら、購入を後押しするきっかけとしてポケモンGOは成立しうる。スマートフォンの小さい画面に縛られず、「ぼくたちの町にリアルにポケモンが息づいて一緒に暮らしている様子」、まさに初期のプロモーション映像のような世界観が視覚的には実現していくことになる。

◇ 点と点の送客を超えて

周辺ビジネスを考えると、送客/集客(と単純に括ることにはやや抵抗があるが、上手い言葉がないので仮に採用する)サービスとしての効果をどこまで引き出せるかが見ものである。ポケモンGOは、ポケストップやジムといった、現実世界に配置されたチェックポイントを巡りながらプレイする仕組みとなっている。つまり、ポケストップやジムは人が集い回遊しやすい場所となり、外食や商業施設であればそのまんま即売り上げ期待に繋がりうる。

8月以降の数字を慎重に見極める必要はまだあるものの、リリース当初より公式のスポンサーとして協力しているマクドナルドは7月の月次業績を見る限り、多少なりとも上乗せ効果が出ているようである。

また、地方創世や町おこしのようなエリアの活性化施策として、早くも注目が集まっている。週末の各地の大賑わいを見て「あれをなんとかウチに引っ張ってこれないか」と考えるのは自然な発想である。前身となる「Ingress」でも定期的にイベント開催が行われていたことで連携実績のある自治体にすると検討第二弾として着手やすいことであろう。

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自治体までいかずとも、商店街やあるいは個店レベルでも様々な試みが見られる。記事になって話題を呼んだのは、大阪の千林商店街の事例が有名であるが、上野の屋台主が抜け目なく特需を捉えている様子など小さな事例もしたたかでまた面白い。コーヒーショップやバーでよく見る「ルアーさしてくれたらワンドリンク無料な」とのプロモーションはシンプルながら効果が分かりやすくて面白い。

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人の移動とのテーマでは、日本ではどうにも検討議題に上がりがちな地域振興を考えた場合、IngressにせよポケモンGOにせよ、訪れるきっかけを与えるだけなため、それぞれの地域の良さを知ってもらうには訪れた人に何をセットで届けられるか、伝えられるかが問われることとなる。今後幾つも連携事例が発表されることと予想されるが、中長期的な果実を得られるかどうかは個々の自治体や地域の知恵と工夫によって結果が分かれてくることと考えられる。

◇ ドラクエがGOしたらどうなるのか

ポケモンGOはAR位置情報ゲームとして、初手にして最終解が出されてしまったような状況にあるが、ポケモンGOの巨大な成功を受け、現実世界をゲームフィールドとするゲームは今後増えると予想される。

ポケモンGOの開発配信元である、ナイアンティック社に任天堂の資本が入っているのは、その他の有力タイトルもまた”GO”されることの証左にしか見えない。どうぶつの森が画面を飛び出して、どうぶつのぼくらの町、にでもなってしまおうものなら何が起こるか想像するだに楽しい。それでは、ゼルダはどうだ。マリオやメトロイドで何かできないものか。

などと次のGOは何か議論を知人としていたところで、出会ったのがこちら「ポケモンGOじゃなくてドラクエGOだったら人生終わってたかも」との記事である。

スライムやドラキーがそこらじゅうを飛び回っていて、やっつけると経験値とお金が手に入る。経験値で自分がレベルアップすればモンスターがスライムからオオアリクイやアニマルゾンビやミイラおとこにレベルアップしていく。自分のレベルアップを待たず鎖鎌やら鋼の剣やらを課金して買えばモンスターのレベルも上がっちゃったりする。

コンビニで素早さの種を買い、居酒屋で遊び人を見つけ、マクドナルドで薬草を買う。ドンキに行けば鋼の鎧が売っている。HPがゼロになったら自宅に戻って一晩寝るまで復活できない。カンダタがこの辺にいるぞという情報が攻略サイトとかに出回る。週末は友達と小さなメダルを探す旅に出る。ビアンカ派とフローラ派の争いはさらに激化する。

ドラクエの勇者(主人公)になれてしまう。想像するだけでやばい。仕事行けなくなるかもしれない。絶対にそんなゲーム作らないでほしい。

アレフガルドも、ハイラルの大地も、浮遊城アインクラッドもきっともう目の前である。

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渡辺 聡(わたなべ・さとし)

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任助教。神戸大学法学部(行政学・法社会学専攻)卒。NECソフトを経てインターネットビジネスの世界へ。独立後、個人事務所を設立を経て、08年にクロサカタツヤ氏と共同で株式会社企(くわだて)を設立。大手事業会社からインターネット企業までの事業戦略、経営の立て直し、テクノロジー課題の解決、マーケティング全般の見直しなど幅広くコンサルティングサービスを提供している。主な著書・監修に『マーケティング2.0』『アルファブロガー』(ともに翔泳社)など多数。